コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
エネアが起きた後、ついにダンジョンボスのいる部屋に入った。そこは、巨大な温泉湖で、辺り一面が不気味なほど静かだった。湖面はまるで鏡のように静まり返り、周囲には温泉の湯気がゆらゆらと立ち上っている。エネアは何かが現れるのを感じながら、その場に立ち止まった。
「ここが…二層のボスのいる場所か。気を引き締めていこう」
その瞬間、湖の中央から美しい旋律が響き始めた。静かな湖面が波打ち、湯気の中から現れたのは、神秘的な美しさを持つ女性の姿。彼女の上半身は人間のようだが、下半身は魚の鱗で覆われた尾びれになっている。その存在はすぐにエネアが何者かを悟らせた。
「セイレーン…」
セイレーンはエネアを見つめ、その美しい声で囁きかけるように歌い始めた。その歌声は、耳に心地よく、何もかもを忘れてしまいたくなるような誘惑に満ちていた。だが、エネアはその声に惑わされることなく、しっかりと立っていた。彼女の魅了無効の指輪は、魅了を効かなくして、対抗できる。
「その歌声、確かに美しいけど…私には効かないよ」
セイレーンの目が鋭くなり、彼女の美しい微笑みが消えた。歌声が一瞬途切れたかと思うと、突然、彼女は湖の中へと飛び込み、姿を消した。エネアは緊張を高めつつ、湖面を注視した。
「どこにいる…?」
その答えはすぐにわかった。湖の水面が突然荒れ狂い、セイレーンが再び姿を現した。だが今度は、その優美な姿とは裏腹に、巨大な水の柱を伴い、エネアに向かって突進してきた。
「くっ、速い!」
エネアは一瞬で防御態勢を取る。セイレーンの攻撃は凄まじい勢いで彼女にぶつかってくるが、もちろん、「絶対防御」が発動し、その水の激流は全て無効化された。セイレーンの攻撃は彼女に届くことなく、ただ激しく水しぶきを上げるだけだ。
「やっぱり…物理攻撃は効かないみたいだね。でも、まだ終わらせないよ!」
エネアはセイレーンの攻撃をかわしつつ、彼女の急所を狙うために動いた。セイレーンは素早く泳ぎ回りながら、エネアに水の刃を次々と放つ。しかし、それらの攻撃もことごとくエネアに届かず、水の音だけが響き渡る。
「今度はこちらから攻める!」
エネアは一気に距離を詰め、短剣を振り抜いた。セイレーンは素早く反応して避けようとするが、その動きを読み切ったエネアは、彼女の尾びれに向かって一閃。セイレーンは痛みに叫び声を上げ、水中へと再び潜り込んだ。
「うん…効いてる。少しずつでも削っていけば、勝てるはず!」
エネアは次の攻撃に備えながら、湖面をじっと見つめた。セイレーンが再び現れたとき、今度は彼女の歌声がさらに強烈な力を帯び、エネアを引き寄せようとする。それは心の奥に直接響くような力で、普通の冒険者ならばその場で立ち尽くし、無防備になってしまうだろう。しかし、エネアはその力を完全に無効化していた。
「この誘惑、どれだけ強くても効かないよ。私は負けない!」
エネアはセイレーンの前に再び立ちはだかり、彼女の歌声を遮るように短剣を構えた。セイレーンの表情に焦りが見え始め、彼女は水を巻き上げてエネアに襲いかかってきたが、その攻撃は全て防がれた。
「これで終わり!」
エネアは素早く動き、セイレーンの喉元を狙って短剣を振り下ろした。鋭い刃が確実にセイレーンの急所を捉え、彼女は最後の悲鳴を上げて湖に崩れ落ちた。水しぶきがあたりに飛び散り、しばらくすると湖は再び静けさを取り戻した。
セイレーンが完全に沈んだ後、湖面は静まり返り、エネアはゆっくりと息をついた。
「ふぅ…これで二層のボスもクリアか。ちょっと手こずったけど、何とか無事に突破できたね」
エネアはその場に立ち止まり、少しだけ水面を眺めた後、レアドロップが無いか探した。
「…!あった!」
セイレーンの涙というドロップアイテムらしく、これを飲むとセイレーンのような歌声と声を手に入れられるのだ。そして、少し目付きを和らげてくれて、魅了効果を強めてくれるのだ。
「…ちょっと怖いけどっ…!」
飲んだ途端エネアの声は誰もが魅了されるかのような透き通った声を手に入れたのだ。
「あぁ…ああ…。…。やっとだ…やっと…。」
エネアはよく分からないが、この体そのものが涙を流し出し、暫く涙を止めることができなかったのだった。
「なあ!どうしてエネアは、お前にも俺にも似ている所が無いんだ…っ!顔も声も能力も似ていない…!エネアは本当に俺の子なのか…!?」
知らない男性…?怒ってる…こっちの女性は…?突然髪を引っ張られ、風呂に服を着たまま突き飛ばされた。
「…父…様…?」
これ、冷水…!?なんで、こんな…。早く出ないと早く…。冷たい…。痛い…!
「やめて…!お願い…、エネアを離して…!
嘘じゃ無いの…!貴方だってずっと一緒に育ててきたじゃない…。私達の娘なのよ…?どうしてこんなこと…!」
私が出ようとしても男性は、押さえ付けることをやめようとしない。
女性が私を守ろうとするが男性は、女性を殴り激怒する。
「俺はお前を信じてずっと育ててきた!だが、これまでずっと一緒にいても、俺はエネアを愛せた事が無いんだ!お前の綺麗な歌声くらい受け継げば、愛情を持って育てられたのに…! 」
絶句して…私の体は強張り、大粒の涙が止まらなかった。
あぁ…。私はこんな地獄にいたんだ。そりゃあ、後から来た主人公は両親に似ていて愛されて、こんなずっと幸せな存在、羨ましくて、妬んで、惨めになって辛かっただろうな。性格悪くなって当然の環境だわ。
「…。すまない。暫く俺に話しかけないでくれ。 」
「母…様…」
私が女性に話しかけようとすると女性が私を抱きしめる。
「ごめんね…。ごめんね…。…こんなふうに産んじゃってごめんね…。私…私…。」
女性はそれでも優しく接してくれようとした。
泣きながらも、ずっと、ずっと…。
だけど、あんな言葉を、言われた後の私には鋭く刺さってしまう言葉となった。
自分という存在を否定されるような気持ち。
これまで幸せだったのも否定された気持ち。
絶望感だけが私を襲った。
「母様は、悪くないよ…。私が私が…父様の為に変わって見せるから…だから、自分を責めないで。」
その時から、私は、毎日歌を歌い続けた。女性とそっくりになる程、歌が上手くなっていき、男性からもまた、愛されるように戻って行ったのだ。
「あぁ…。疑ってすまなかった…すまなかった…。お前は、ちゃんと俺の娘だった。」
声が枯れて歌えなくなっても愛されるように戻れたのだ。
だけどきっとまた、歌声のことを言い出すかもしれない。なのに、あいつは、似ているからだけで、努力だって私と比べてもあまりにも少ないというのに、無条件に愛される。
許さない。私だけどうして…!
私の居場所を奪わないで!
こんなことをするくらいなら、母様を殴らないで…!似ていれば誰でもいいんじゃない…!
絶対…絶対に殺してやる…!
あいつを評価する人物も全て…!!!!
そうすればまた、私の居場所が戻ってくるよね…?そう…だよね…?
「…もう、私はあの人達の娘じゃない。だから、復讐なんてしないんだから。」
涙を吹いた後、私は暗い気持ちを消す為に歌いながら、3層へ向かうのだった。