テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「…疲れた…」
突然のルノの来訪はマリノアルの精神をすり減らした。
「お疲れ様です、マリノアル様。」
クオールはマリノアルを労う。
「殿下は?」
「迎えにきた馬車に乗って帰られました。お見送りの際にお父上のフィリヴィッツ侯爵様も立ち会って頂きました。」
「…そうか。もう良い、下がれ」
「はい。何かありましたらお声がけ下さい。」
一礼し部屋を出ていくクオール。マリノアルは軽く息を吐き、閉められた窓を開け放てば先程の魔鳥たちが入ってきた。
「待たせたね、今日のご飯は白薔薇の蜜を固めたものだよ」
小さな皿の上に琥珀色に輝く数個の塊を置いた。魔鳥たちはそれらを美味しそうに啄んでいる。
心地良い風が吹き込んで
魔鳥たちの食事を眺めながらマリノアルは微睡む。
『マリノアル、君との婚約は破棄する。平民である彼を陥れる為に人を雇い暴行を加えようとする非道な行いを見過ごすなど出来るわけがない。見損なったよ』
ルノっ僕はそんなことしていないっ
『マリノアル・フィリヴィッツ、国家反逆の罪で指名手配されているっ大人しく投降せよっ!!』
知らない知らないっ僕は何も知らないっ
『マリノアル、なんて愚かな行為を』
信じてっ本当に何も知らないんだっ
『お父上もご兄弟もはあんなに素晴らしい人格者だと言うのに』
信じてっ信じてよっ知らないっ僕の言葉を聞いてっ
『第一王子の婚約者だからと色々好き勝手やったあげく違法薬物にも手を出すなんて』
『表では聖人君子、裏では下劣で非道な行いをしていたとか』
『フィリヴィッツ家の名を汚すようなことを』
『マリノアル、お前のような下賎な者と血が繋がっているかと思うと吐き気がする』
『ノア兄様演技上手いねぇ僕らちっとも気付かなかったよ』
『こんな気持ち悪い奴と1つ屋根の下で暮らしていたかと思うとほんっと虫酸が走る』
『マリノアルどうしてこんな事を…何がいけなかったの』
『死ね』
『死ね』
『死ね』
『忌々しい罪人め』
『我らを謀ったその罪の重さ身をもって思い知れ』
『楽に死ねると思うな大罪人め』
何で、何で誰も信じてくれないの?父上、母上、ユア兄様、ノール、ベルファト
何で誰も僕の言葉を聞いてくれないの…?
愛してるって大好きだって、何があっても絶対に守るって抱きしめてくれたのは
全部嘘だったの?
『私はマリノアル様を信じております。絶対に貴方様が無実である証拠を集めます。ですからどうか諦めないで我が主よ』
ああ君は僕のことを信じてくれるんだね
危険を冒してこんな地下牢まで来るなんて
顔も体も傷だらけでボロボロじゃないか
『マリノアル様、必ず、必ずここからお救い致します。』
片膝をつき頭を垂れるその姿がかっこいい、なんて
ーありがとうー
声が、出ない。そうだ喉を潰されたんだっけ
『大罪人マリノアル・フィリヴィッツ、最期に言い残す事はあるか』
喉を潰されて声が出ないのは分かっているくせに。
罵詈雑言が飛び交う中、僕はギロチン台の前に跪かされる。
やっとこの地獄のような苦痛から解放されるのかと思うと少しだけ心が軽くなった。
ーマリノアル様っ!!ー
名前を呼ばれた気がして視線を上げた遠い遠いその先。
目が眩む程の、真っ赤な夕焼け。
全く同じ色の髪をした騎士のような執事、クオールが重なって見えた。
ああ、君の髪はこんなにも綺麗な色をしていたんだね。
そうだ、君はいつだって僕のそばに居て僕に寄り添ってくれた。
楽しいことも嬉しいことも悲しいことも何もかも君はそばに居て共に共有してきた。
大好きだった、僕の、大切な人。
君が、君だけが信じてくれた。
それだけで僕の心は満たされた。
それだけで死ぬのが怖くなかった。
最期に見た夕焼けはとても綺麗だった。
マリノアルの頬に一筋の涙。
ギロチンが今、降ろされた。
ー僕はね、クオール
君のことを心から愛していたよー
月咲やまな
934
柴田
1,174
植まどか
1,081
コメント
1件
「マリノアルの心の叫びが痛いほど伝わってきて、胸が締め付けられました……。誰にも信じてもらえず、たった一人だけクオールが味方でいてくれた。その光が、最後の最期に「大好きだった」としっかり言葉にできたのが、本当に切なくて美しかったです。夕焼けとクオールの髪が重なる描写、涙なしには読めませんでした。つばのさらさんの心理描写、とても繊細で好きです。続きも大切に読ませていただきます🌷」