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『あの村はな。実在するんじゃ。
今から400年ほど前、村は山々に囲まれた静かな場所にあってのう、小さな農村だったんじゃ。最初は農耕で村人たちは自給自足の生活をしていたんじゃがのう………。200年ほど前、ある旅人がやってきて、農業を手伝うからしばらく寝泊まりしたいと村人に交渉し、村人たちはそれを快く受け入れたんじゃ…
翌朝旅人は畑を耕す際に不思議な呪文を唱えたのじゃが、その奇妙な光景を村人が放っておくわけがなくてのう。
その畑の所有地であった村人は呪いをかけられたと思い、急に旅人が怖くなった。
村人は仲間を呼び、旅人を村の神聖なる大樹に縛りつけて何時間も何日もその旅人の正体を吐かせようと問い続けたんじゃ。
旅人は正直に自分は何者でもないただの旅人であるということ、畑には作物が丈夫に美味しく育つよう祈りを唱えたのだと言ったんじゃが…………、
何日も縛られて食事も摂らせてもらえなかった旅人は……………。』
また、はああ。と大きなため息をついた老婆の目頭にはうっすらと涙が浮かんでいた。
『婆ちゃん。続きは私が話すよ。』と杏樹が老婆の背中をさすりながら言う。
『それでね、旅人は最後の力を振り絞り村全体に呪いをかけたんだ。信じてもらえなかったこと、相当憎かったんだろうね。旅人が力尽きた後、村に次々と奇妙なことが起き始めたんだ。村の象徴でもある大樹が腐り始めたのさ。それから村人の様子がおかしくなってね。ほら見て、ここのページ。』
そこにはずらりと白目を向いた村人の行列が写真に写っていた。
『杏樹さんこれ………村人はなんで行列を作ってるの………』
『うーん。詳しくはわからないんだ。ただこの写真から読み取れるのは、彼らは大樹に向かっているってだけかな。』
横を見ると杏樹さんは不気味なほどに笑顔だった。
よく大樹を見てみると大樹の根元には村人が重なり合うように倒れていた。その表情は………
突如激しい吐き気が催す。喉まで来ていたそれを右手で抑えるが限界を迎えそうだった。
『京子ちゃん。無理しなくていいよ。お手洗いあっちだから。いこう。』
杏樹に連れられ私はトイレで激しく嘔吐した。
『ぅう…………。』
洗面所で軽く口をゆすぎ、鏡をみると後ろに村人が映った。
あまりにも突然のことだったので、悲鳴をあげてしまった。その声に反応した杏樹は
『京子ちゃん。見えちゃったんだね。』
あまりにも冷静なその声に恐怖が増す
『なんで………杏樹さんそんなに冷静なんですか……』トイレのドアを開け彼女に問いかける。
『慣れてるんだよ。こういうの。』
『慣れてるって…………杏樹さんあなた一体何者なんですか………?』
不思議と納得してしまう。村についてやけに詳しいわけだ。
恐怖している相手に逆らえる訳がなく、私は再び居間に連れられた。だが、そこにはさっきまでいた林田がいなくなっていた。
『林田君は………⁈』
『連れていかれちまったのじゃ…………。可哀想に。何に絶望し悩んでいたのか知らないが…。』
『そんなっ…なんで止めなかったんですか……?!』
『止めることができないんじゃよ。』
『ああ、そんなに絶望して悩んでいたら京子ちゃんも連れて行かれるよ………』
『本当にバカだねえ。…__________1度呼ばれたら逃げられないんじゃ。』
『だけど婆ちゃん。あのバス停から逃げてくることが出来たこの子なら…きっと_________』
老婆と杏樹のその言葉を最後に私の目の前は真っ暗になった。