テラーノベル
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現実世界――
割れた鏡の前。
そこに立つのは、“ないこ”と“闇ないこ”。
片や静かに自分を取り戻し始めた少年。
片や叫びと怒りの化身、すべてを壊そうとする存在。
二人の“ないこ”が、ついに――対峙した。
闇ないこ(吐き捨てるように): ……来たか、“仮面”の本体。
今さら思い出したからって、全部チャラになるとでも?
ないこ(静かに): ……チャラになんてならない。
忘れてたこと、閉じ込めたこと、僕はもう逃げないよ。
闇ないこ(嘲笑う): はぁ? 逃げないだ?
お前は“逃げたから”俺が生まれたんだろ?
「優しい自分」でいたいっていう、あの滑稽な理想を守るためにな。
ないこ(まっすぐ見つめながら): ……うん、そうかもしれない。
でもね、“優しさ”は弱さじゃない。
傷つけないように生きたいと願うのは、間違ってなかった。
闇ないこ(苛立ちながら): 綺麗事ばっかり言ってんじゃねぇよ!
じゃああの時、あいつらに言い返せばよかっただろ!
「歌うのが好き」だって、「泣いてた」って、言えばよかったじゃねえか!
ないこ(揺れる瞳で): 怖かったんだよ。
本当のことを言ったら、誰も僕を好きでいてくれないって。
闇ないこ: だから俺が代わりに全部壊したんだ!
お前が黙って泣いてたとき、俺は全部叫んだ!
「ふざけんな!」って!
「認めろよ!」って!
俺が、お前の“叫び”だったんだよ!!
ないこ(静かに): ……わかってるよ。
君がずっと叫んでてくれたから、僕は今ここにいる。
君がいなかったら、僕はきっと壊れてた。
闇ないこ(少し戸惑った顔): ……は?
ないこ(涙を浮かべて微笑む): ありがとう、闇ないこ。
君は“僕の一部”だった。
全部を壊してでも、僕を守ろうとしてくれたんだよね。
闇ないこ: ……違う……俺はそんな……
ないこが一歩、闇ないこに近づく。
ないこ: 君を否定しない。
だって、君も僕だったから。
怒りも、苦しみも、悲しみも――全部、僕の心だったから。
闇ないこ: ……やめろ……やめろよ……!
俺は“敵”だろ!? お前が乗り越えるべき、闇の象徴だろ!?
ないこ(静かに首を振る): もう、乗り越えたりしない。
僕は“受け入れる”よ。
君がいてくれたことを。
闇ないこの手が震える。
目に見えないヒビが、その身体に走っていく。
闇ないこ: そんな顔……するなよ……
俺は、お前に壊されるために生まれたんじゃ……
ないこ(手を伸ばす): 違う。
君は、僕の“叫び”として生まれてくれた。
だから今度は、僕の“声”として、生きてほしい。
ないこの手が、闇ないこの胸に触れた瞬間――
パリンッ、と音を立てて、空間が割れた。
***
深層――
静かだった白の世界に、光と影が交差する。
累と冬心が、静かにその様子を見守っていた。
冬心: ついに……向き合ったね。
累: 受け入れるって、壊すよりずっと難しいことだよね。
でも、ないこはやっと“壊さずに叫べる自分”を手に入れた。
冬心(微笑む): さあ、ここからだ。
彼が本当の意味で“ないこ”になるまでの旅は、まだ終わっていない。
***
現実世界――
粉々に砕けた鏡の破片の中に、光が集まっていく。
闇ないこは、崩れゆく自身の姿を見つめながら、初めて静かに呟いた。
闇ないこ(小さく): ……悪く、なかったな。
お前が、俺を否定しなかったこと。
そして、その身体は淡い光となって、ないこの中へと戻っていった。
ないこは、そっと目を閉じた。
ないこ: おかえり、“僕”。
次回:「第十五話:名前の意味」へ続く
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