普段のまどかなら絶対にしない行動。大和のためだからこそできた行動。まどかは考えるよりも先に体が動いていた。『5対1でいいぜ。1on1じゃ勝負にならねぇ』これを聞き動かずには居られなかった。
「大和、わたくし1人でも勝てないのに5対1なんか無理でしょ。わたくしにかかって来なさい、1on1で勝負してあげる。時間は15分でどうかしら?」
咄嗟に体が動きまどかは驚く。しかしそれ以上に大和が驚いていた。
「どうして、もうバスケはしないんじゃ…」
そう言いかけて飲み込んだ。2人は幼なじみでコーチは同じ。同じ時間同じメニューでずっと練習してきたが大和はまどかに1度も勝ったことがない。『なぜ』より『勝ちたい』が強かったのだ。そして練習を一切していないまどかに勝てると思ったのだ。周りの部員はザワザワし始める。
「俺ら男子が勝てないのに女子が勝てるわけないだろ」
部員を睨みつける大和を抑え、まどかは大声で叫ぶ。
「1度しか言いません、よく聞きなさい。わたくしは伊集院まどか。伊集院家の娘で大和と同じコーチを持つわたくしは皆さんも伝説として知っている5年前のU18で起こった事件に関わっております。大和には1度も負けたことがありませんわ。今までも、そしてこれからも…。今から大和との1on1で証明して差し上げますわ。」
そう言い1on1が始まった。
まどかは小柄な体を活かして大和からボールを奪うと開始10秒でハーフラインから3Pを決めて不敵に笑う。
「来いよ大和、本気で!」
ざわざわする体育館であっという間だがとても長く感じる勝負を繰り広げていた。時間はたち、ラストの30秒、激しいドリブルで大和を抜いた。
「まだまだ弱いね」
まどかはそう言って同時にダンクを決めブザーが鳴った。
僅か15分での点数は53対32でまどかの勝利だった。しかし勝ったまどかの顔は少し険しく感じた。
大和は神童学園でもバスケ部キャプテンを務めており全国優勝も経験していると聞いていた部員たちは驚愕する。部員たちは伝説の神童のバケモノは実在し、大和だと推測していた。しかしこの圧倒的な試合を見て気づいた。いや、気づいてしまったのだ。先程まで自分たちが女子だからと馬鹿にしていたまどかこそ日本五大家門での嫡子である大和と並ぶ家門であり、全国優勝を果たした大和よりも圧倒的に強いことを。そして部長が呟いた。
「神童のバケモノ…」
言ったつもりも言うつもりもなかった。しかしするりと言葉が出てきたのだ。自分で言ったことに驚きつつも本能的にまどかが神童のバケモノだったことを悟った。
全力の試合に疲れ果て座り込んでいる大和は叫ぶ。
「昔から強すぎるんだよまどかぁ!どのスポーツをしても毎回俺を越えやがってぇ!なんでいちばん得意なバスケでも勝てねぇんだよ!おいお前ら、この試合恥ずかしいから口外すんじゃねぇぞ。じゃあ俺帰る。」
周りの人に神童のバケモノだと悟られかけていた事に気づいていた大和は違うという意識を植え付けるために叫んだのだった。帰り道にまどかは大和にお礼を言った。
「大和、さっきはありがとう。ばれてたら大変だった。」
大和は当然といいならが続ける。
「なんでお前はさっき突然バスケしようとおもったんだ?」
大和がバスケを嫌いにならないためという言葉を飲み込み笑いながら言う。
「生意気そうにしてる大和を見たらついいじめたくなっちゃったの!」
大和はなんだそれっ!と文句を言いながらもまどかに歩幅を合わせて2人で歩いていった。
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