テラーノベル
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ガルディニア帝国の象徴である、大理石で作られた広大な謁見の間。
その最奥、一段高い場所に設置された漆黒の玉座には、皇帝アレン様が絶対的な威厳をまとって鎮座していた。その胸元には、私が贈った銀色のブローチが誇らしげにきらめいている。
そして――本来なら誰も座ることを許されない玉座のすぐ隣の特等席に、私はいた。
アレン様が用意してくれた、夜空を映したような美しい群青のドレスをまとい、髪にはあの黒い髪飾りを着けている。背筋をピンと伸ばした私の姿に、かつての怯える『無能な聖女』の面影はどこにもない。
重々しい扉が開き、エルフレア王国からの使者たちが数人、入ってきた。
彼らは魔獣の襲撃から命からがら逃げてきたせいか、衣服の端が薄汚れている。それなのに、大国の使者であるという傲慢なプライドだけは捨てきれていないようで、不遜な態度でアレン様を見上げた。
だが、使者の代表である初老の貴族は、アレン様の隣に座る私を見た瞬間、驚愕に目を見開いた。
「な……ル、ルナリア!? お前、なぜそんな高貴な衣服をまとって、皇帝陛下の隣などにいるのだ!」
使者は王宮にいた頃の癖で、私を指差して声を荒らげた。
その無礼な指先に、アレン様の切れ長の瞳がスッと冷酷に細められたが、私はアレン様が動くよりも早く、静かに席から立ち上がった。
「お久しぶりです、使者様。ですが、ガルディニア帝国の謁見の間において、国聖女である私を呼び捨てにすることは、我が国への重大な侮辱にあたります。言葉を慎んでください」
凛とした私の声が、広く静かな謁見の間に美しく響き渡る。
「こ、国聖女だと……!? 莫迦なことを言うな! お前はカイル殿下に無能の烙印を押されて追放された、我が国の奴隷だろう!」
使者は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「今、エルフレア王国は魔獣の襲撃で未曾有の危機にあるのだ! カイル殿下も『あの無能でも、連れ戻して四六時中祈らせ続ければ少しは結界の足しになるだろう』と、慈悲深くも仰ってくださっている! ありがたく思い、今すぐ荷物をまとめて我が国へ戻るのだ!」
かつての私なら、この怒声を聞いただけで身体を震わせ、地下室へ逃げ込んでいただろう。
けれど、今の私にはアレン様がくれた絶対的な愛がある。必要としてくれる帝国の人々の温もりがある。自分の力の価値を、私はもう正しく知っているのだ。
私は使者を冷ややかにつめたい瞳で見下ろすと、はっきりと、拒絶の言葉を突きつけた。
「お断りいたします」
「な、何だと……っ!?」
「私はもう、あなた方の理不尽に耐え、命を削って祈る奴隷ではありません。私はこのガルディニア帝国の国聖女であり――エルフレア王国には、二度と戻りません。あなた方の国が滅びようと、今の私には一切関係のないことです」
「お、お前……自分が何を言っているのか分かっているのか!? 王国を裏切るというなら、ただでは済まさんぞ! カイル殿下が黙って――」
「――おい、不敬者が。そこまでにしろ」
謁見の間の全空気を一瞬にして凍りつかせるような、低く冷徹な声が玉座から響いた。
アレン様がゆっくりと腰を上げ、使者たちを見下ろす。
その瞬間、彼の身体から放たれた目に見えないほどの凄まじい威圧感――『王の覇気』が、津波のように使者たちへ襲いかかった。
「ひっ……あ、あああ……っ!?」
あまりの恐怖と重圧に、使者たちはまともに立っていられなくなり、大理石の床に激しく膝をついてガタガタと震え出した。呼吸をすることすら許されないような、絶対的な死の気配が部屋を満たしていく。
アレン様は胸元の銀のブローチにそっと触れ、冷酷な笑みを浮かべた。
「我が国を救った偉大なる国聖女であり――この俺の、最愛の【婚約者】であるルナリアを、先ほどから奴隷、奴隷と……ずいぶんと威勢がいいな、エルフレアの犬ども」
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「こ、婚約……!? 皇帝陛下の……っ!?」
使者たちが驚愕に目を見開く。
(((……えっ、婚約者!? 陛下、まだプロポーズしてないのに公言した……!!)))
アレン様の背後に控えていた側近の騎士たちやアルバス様が、一斉に心の中で激しいツッコミを入れたが、誰もそれを口にする勇気はなかった。なぜなら、今のアレン様は文字通り、触れたもの全てを塵にするほどブチギレているからだ。
「ルナリアは言ったはずだ。そなたたちの国が滅びようと、今の彼女には関係のないことだと。……だが、俺にとっては大いに関係がある」
アレン様が一歩、使者たちへ近づく。床の大理石に、ピキ、と微かな亀裂が入った。
「我が国の至宝を虐げ、傷つけ、あろうことかこの俺の前で侮辱した罪。万死に値する。……エルフレア王国は、我がガルディニア帝国の敵とみなす。このまま生きて帰れると思うな」
「ひ、ひえぇぇぇーーーっ! お許しを、お許しをぉぉ!」
使者たちはプライドも何もかも投げ打ち、涙と鼻水にまみれて床に額を擦り付けた。
「おい、この無礼者どもを今すぐ地下牢へ叩き込め。二度と日の光を拝ませるな」
「ハッ!」
アレン様の冷酷な命令により、使者たちはまるでゴミのように騎士たちに引きずられていった。
扉が閉まり、謁見の間に静寂が戻ると、アレン様は先ほどの凶悪な覇気を嘘のように消し去り、困ったように眉を下げて私を振り返った。
「すまない、ルナリア。怖がらせてしまったか?」
「いえ……とっても格好良かったです。でも、あの、アレン様……」
私は顔を真っ赤にしながら、もじもじと指先を弄る。
「さ、最高に嬉しいのですが……さっき、こ、婚約者って仰ったのは……?」
「……フッ、既成事実というやつだ。近いうちに、世界一華やかなプロポーズをそなたに捧げるから、楽しみに待っていてくれ」
アレン様は私の手を取り、愛おしそうに指先に口づけをした。その過保護で甘い眼差しに、私の心臓はまたしても爆発しそうになるのだった。
◇
一方その頃――エルフレア王国の王太子カイルは、報告を受け、狂ったように執務室の机を叩いていた。
「交渉決裂!? それどころか、使者が全員捕らえられただと!? 嘘だろ、あいつはただの無能のはずだろぅぅ!」
王都の防壁の外には、ルナリアの結界を失ったことで、数万匹の魔獣が牙を剥いて迫っている。さらに、国境からはガルディニア帝国の最強の軍隊が、王国を完全に滅ぼすために進軍を開始したという絶望的な知らせが届いた。
カイルと偽聖女リーザが流す恐怖の血の涙は、まだ始まったばかりだった。
コメント
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おお、第6話読んだわ! いやー、もうスッキリしたわね〜! 「私はもう、あなた方の奴隷じゃない」ってルナリアが言い放つシーン、鳥肌立ったよ🔥 アレン様の「俺の婚約者」発言も、まだプロポーズしてないのに先走ってるところが愛おしいし、側近たちの心の中のツッコミも含めて最高だったわ。 カイルとリーザが絶望してる場面も、因果応報って感じで気持ちいい! ルナリアの成長が眩しい第6話、めっちゃ良かったです!✨