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地上に降り立ったソウは、浮かない顔をしていた。 ゲンに追いつけると思った矢先、さらに大きな力の差を見せつけられたからだ。
トボトボと重い足取りで、村人たちが安息している場所へ向かう。
「ソウ、無事だったのね!」
真っ先に声をかけてきたのは、意外にもレイだった。
茶色いポニーテールが揺れ、近づくにつれて甘酸っぱい香りが漂ってくる。
しかしソウは、その心配に素直に応える気にはなれず、冷えた態度を取ってしまった。
「悪い。今は、そんな気分じゃないんだ」
「何よ、それ。せっかく心配してあげてるのに、その反応はないでしょ?それに、敵だってあんたのお父さんが倒したじゃ――」
(ザッ)
ソウは、まるで何も聞こえていないかのように踵を返し、その場を離れていく。
(何よ、あの態度……。あの時、私を庇うように前に出て止めてくれたあなたは、偽物だっていうの?私は、何もできない自分が嫌いだから……。それに、ありがとうのお礼だって、今のあんたじゃ聞いてくれそうにないし……私だって、変に借りを作るのは嫌なのに……)
レイは、知らず知らずのうちにソウを意識し始めていた。
顎虫蛇にやられそうになった時、本当は震えていたこと。痩せ我慢で、必死に戦っていたこと。
そして何より――
レイ自身がまだ誰にも打ち明けていない“形態変化”のことを、ソウは密かに知っていて、身を案じてくれた。
その優しさに、心から感謝したかった。だが、勝気な彼女は、そんな振る舞いをしたことがない。するつもりもなかった。
そのチグハグさが、レイの胸を静かに揺さぶっていた。
「よーう、お前ら、集まったな!
こいつも解体して運ぶぞ。肉質は柔らかそうだし、脂身もある。
干し肉にして備蓄するにも、重宝しそうだ。
この顎は……さすがに食えなさそうだがな。
とりあえず、村への手土産は十分だ。やったな!」
(村人たちの歓声)
想定外の食糧の増加に、皆が沸き立っていた。
サブやラルクも肩を組み、歓喜の声を上げている。
その横で、ゲンは|顎虫蛇《アギトスネーク》を、慣れた手つきで捌いていた。
「ゲンの旦那、早速ッスね」
横からサブが割り込むように覗き込んできたが、ゲンは気にも留めず刃を進める。
肉厚な蛇肉は、筋肉質な部分と脂身がはっきり分かれ、美味そうに光っていた。
そこへ、ラルクも手伝いにやってくる。
「ゲンさん、手伝いますよ。
さっきの、凄かったですね。あれは……形態変化ですか?
それと、ソウの様子が、ちょっと変で……」
ゲンは、捌いていた刃物を一度置いた。
「あれは、“御身を宿す儀式”を行った者にしか出来ん。
我ら一族の祖先と繋がるための儀式だ。
そして――“彼女”の声を聞くことが、前提条件になる」
低く、淡々と語る。
「それがなければ、力を引き出そうにも制限がかかる。
……枷のようにな。俺は、その儀式に成功した唯一の人間だ。少なくとも、彼女からはそう聞いている」
一瞬、言葉を切り、続ける。
「ソウのことだが……あいつは、俺を越えたいんだろう。だがな、易々と越えさせるつもりはない。この壁は……」
ソウの名が出た瞬間、ゲンは首飾りを握り締めた。
そこには、誰かを想うような、複雑な表情が浮かんでいた。
「……ええ、そんな儀式があるなんて。ゲンさん、あんた、凄すぎますよ」
ラルクは素直に感嘆する。
「ソウのことも、なんとなく分かってましたけど……
ゲンさん、あんたも、もう少し気にかけてやってくださいよ。あいつ、まだ子供なんですから」
「ふっ……そうだな。
まぁ、お前も俺から見れば、まだ子供だがな」
ラルクは、苦笑した。
「祖先って、声が聞こえるんスか?
それ、普通の形態変化と違うんスね。
立ちくらみ……みたいなのはありましたけど」
サブは、いかにも間の抜けた顔で首を傾げる。
「それは、共鳴しているだけだ。
完全には使いこなせていない。
言ってみりゃ……その立ちくらみこそが、枷だな」
「なるほどっス」
サブは、分かったような分からないような顔で頷いた。
やがて村人たちは、それぞれ捌いた食糧を持って集まってくる。
その中に、レイとソウの姿もあった。
「よし。今度こそ、村に帰るぞ」
一行は、シクティスと顎虫蛇の肉を手押し車に積み、帰路についた。
◇
――村へ到着。
「お主ら、無事じゃったか!」
ヤンガは、出立した狩猟班の帰還を心配して待っていた。
「爺さん、みんな無事だ!それに……これを見てくれ!」
そこには、これまでに狩ったシクティスと、山のように積まれた蛇肉があった。
「なんじゃああああ、これはあああ!」
あまりの量に、ヤンガは驚愕し、膝はワナワナ、腰はガクガクと震え、今にも倒れそうになる。
「っと、爺さん。驚くのも無理はないな。
……はぁ、ヤンにも、この光景を見せてやりたかった」
ラルクは、しみじみと呟いた。
「じゃあ、今日は宴ッスね!」
サブはノリノリで踊り出す。
それを見たレイは、
(こんなのが親代わりなんて……馬鹿みたい)
と、冷ややかな視線を向けていた。
その一方で――ソウは、まだ答えの出ない問いを、ずっと頭の中で繰り返していた。
なぜ、自分はゲンに勝てないのか。