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#連載小説
観察者
310
椿
27
## 第四章 朧
影が、ものすごい速さで走ってきた。
「来る!」
湊が叫ぶ。
しかし、朧は動かなかった。
ギリギリまで引きつけて――
「……遅い」
朧が腕を振る。
ドンッ!
影は壁まで吹き飛んだ。
「え……?」
湊は目を疑った。
あれほど恐ろしかった影が、一瞬で止められた。
影は起き上がろうとする。
すると朧が一歩前へ出た。
「もうやめろ」
低い声が響く。
影は赤い目を光らせた。
そして、もう一度飛びかかってくる。
朧は湊の前に立った。
「下がれ」
「でも、朧は……」
「大丈夫だ」
朧は影の動きを見ながら言った。
「こいつは、本当の敵じゃない」
「え?」
朧が壁を指差す。
そこには、小さなカメラが取り付けられていた。
「誰かが見ている」
湊は息をのんだ。
「……この試験を?」
「ああ」
その瞬間。
天井のスピーカーから、あの声が響いた。
『さすがですね♪』
朧が天井をにらむ。
『鬼の力を持つ人間は、やっぱり面白いです♪』
「鬼……?」
湊が朧を見る。
「どういうこと?」
朧はすぐには答えなかった。
やがて静かに言う。
「俺は、人間じゃない」
湊は驚いた。
「じゃあ……鬼なの?」
「ああ」
朧はうなずいた。
「でも、悪い鬼じゃない」
湊は朧の顔を見つめた。
怖い。
確かに怖い。
けれど、さっき自分を守ってくれたのも、この男だった。
そのとき――
「……うぅ」
廊下の奥から声がした。
湊が振り返る。
「誰かいる!」
朧と湊は声のする方へ走った。
そこには、倒れている女の子がいた。
「大丈夫?」
湊が駆け寄る。
女の子はゆっくり目を開けた。
「……ここ……どこ?」
「分からない。でも、助けるから」
湊が手を差し出す。
女の子がその手を握った。
すると――
『残念ですが♪』
スピーカーから声がした。
『次の試験を始めまーす♪』
「また……?」
湊が顔を上げる。
廊下の奥に、たくさんの赤いランプが点灯した。
そして壁に文字が浮かび上がる。
**『家族を守れ』**
湊はその文字を見つめた。
「家族……?」
朧の表情が変わった。
「湊」
「なに?」
「これは、お前を狙っている」
「俺を?」
「ああ」
朧は周囲を見渡す。
「そして、俺も」
その瞬間。
遠くから――
ドン!
大きな音がした。
続いて、別の場所からも。
ドン!
ドン!
学校中で何かが動き始めた。
女の子が震える。
「怖い……」
湊は女の子の前に立った。
「大丈夫。絶対に一緒に出よう」
朧が湊を見る。
そして、小さくうなずいた。
「……そうだな」
二人は並んで立った。
そのとき、スピーカーから最後の言葉が響いた。
『次の試験は――鬼ごっこです♪』
校内のすべての扉が、
一斉に開いた。
暗闇の中から、無数の足音が聞こえてくる。
タッ。
タッ。
タッ。
湊は息をのんだ。
「……来る」
朧が拳を握る。
「逃げるぞ」
二人は女の子の手を取って走り出した。
そして湊はまだ知らなかった。
この鬼ごっこが――
自分の家族を巻き込む、最も恐ろしい試験になることを。
コメント
1件
第4話、めっちゃ熱かった!朧の正体が鬼って衝撃だけど、「悪い鬼じゃない」って言い切るところにグッときたわ。湊がそれでも信じようとするのもいい。最後の「鬼ごっこ」で全校に仕掛けられた感じ、一気にホラー色強まってゾクゾクした。次の展開、めちゃくちゃ気になる🔥