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「しっかりしろ!!後でいくらでも殴られてやるから、今は踏ん張れ!!」
巻き込んだ分際でよく言う。
そのような言葉が頭を支配する。
しかし、そんなことは言ってられないのが現実だ。
命を狙われるなどというサスペンス小説でしか見られないお話が今現実で起こっているのだ。
それも相手は人ではない。
巨大な美しい狼だ。
七色に輝くそれらの放つ音は見た目とは裏腹に酷く不快であった。
「来い!!」
灰は僕の手を引いた。
僕はそのまま引っ張られ、割れた窓が眼前へと迫る。
「灰!落ちる!!」
僕は引き返そうと手を引くが、この少年は僕の何倍も力が強いみたいだ。
ダン!!
灰は強く踏み込むと窓から外に飛び出した。
日の沈んだ空は暗闇を波とし、星々を浮かべている。
一瞬の浮遊感と長く続く恐怖心が同時に訪れた。
…………….そう、浮遊感とは一瞬であったのだ。
風の吹き荒ぶ(すさぶ)音が鼓膜を揺らす。
感覚は初めて自転車に乗れた子供時代のよう、といえば伝わるだろうか。
僕は空を飛んでいた。
無論、人単体で空を飛ぶことは不可能である。
下を見ると街の景色などは見えず、木製の歯車が何重にもなり、カチャカチャとぶつかり合っている何かの上に、僕がしゃがんでいることが理解できた。
歯車でできた巨大な鳥であろうか。
少なくとも僕にはそう見えた。
「………….何?これ」
カキィィィン!
激しい金属音が体を貫く。
僕は思わず耳を塞ぎ、目の前を見た。
灰が戦っているのだ。
しかし、その相手はどこにもいない。
カキィィィン!!!
夜の街にそぐわない音が闇を揺らす。
「クソ!雉の野郎!!」
雉?なんのことなのだろうか。
足元の歯車の巨鳥は大した足場はない。
そのような場所で灰は刀を振り続けている。
「何が来てるんだ!?」
「雉だ!!こいつらはお前には見えない!!あと速い!!」
こんな金属音が鳴るほど速く突っ込んできて、目に見えず、さらには複数体とは…..僕が戦ったのならば即死だろう。
「夜鐘(やしょう)!!速度上げろ!!今日は月が出てる、月のある方角なら奴らも追えない!!!」
灰がそう叫ぶと足元の巨鳥は月の方に体をむけ、次の瞬間速度を上げた。
しゃがんでいるのもやっとの風の強さだ。
……………..
金属音がしない。
どうやら雉から逃れたらしい。
……これからの人生で「雉から逃れる」などと言う言葉を頭で反芻するのは今日で最後だろう。
しばらくすると巨鳥の速度は下がり始め、まだ少し冷える夜風が頬を撫でる。
僕は後ろを振り返り、つぶやく。
「……..何が起きてるんだ….」
月の光は星の小さな輝きを、嘲笑するかのようにより一層強く街を照らす。
その光で新たな影を世界に落とそうとも、まるでそれに気づいていないかの様に。