テラーノベル
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「お前、友達と遊ぶ金はあるんだろ?育ててやった親にその態度はなんだ!」
バンと机を叩き、父は威嚇をしている。
それでも、もう屈したくない。
「私は……。私はもう、あなたたちの玩具でもない。私はあなたたちのこと、親なんて思っていない!縁だって切ってもらって構いません」
強くなるって決めた。
じゃないと、これから皇成さんのとなりで胸を張って生きてなんていられない。
「ふざけるなよ!」
父はバッと立ち上がり、私に向かって詰め寄ってくる。
怖い、私はうしろを向き玄関から逃げようとしたけれど、父に思いっきり手を引かれ転んでしまった。
「いたっ」
早く、逃げないと。
逃れようと立ち上がろうとしたが、父に馬乗りになられ、両手を抑えつけられる。
「やめてください!」
抵抗するも父の方が力が強く、逃げられない。
足をバタバタさせているが、父は私の上でニヤリと笑っている。
「顔を殴って、傷でもつけて会社に行けなくなっても困るな。お前にはしっかり働いてもらわなきゃいけないんだ。せっかく、朝霧商事っていう大手にいるんだ。辞めてもらっても困るしな」
殴ろうとしない?
なら、どうするつもりなんだろう。
「芽衣。大人になったな。立派な女じゃないか」
もしかして――。
「いやっ!」
父は、私のブラウスを思いっきり破いた。
ボタンが弾け、下着が見える。
「子どもだった時は、何にも感じなかった。久しぶりに会ったら、身体だけは成長しているじゃないか」
父は私の胸を下着の上から思いっきり掴んだ。
「やだやだ!!」
気持ち悪い、怖い!
「お前、彼氏なんていないだろ。お父さんがお前に教えてやるよ」
父の言葉に、ピタッと恐怖からか身体が動かなくなる。冷や汗が流れる。
私、皇成さんとだってまだしていないのに。
皇成さんに嫌われてしまう。
父が私のスカートに手をかけた時――。
「芽衣さんっ!!」
玄関ドアが開き、皇成さんが見えた。
「皇成さん、助けて!」
「誰だ!お前は!」
父が驚き私から離れる。
皇成さんが走って私に駆け寄り
「大丈夫ですか!?」
肩を優しく掴み、顔を見つめてくれた。
「皇成さんっ!」
安心したからか、大粒の涙がこぼれる。
「今、警察に通報しています 。大人しくここで待っていてください」
皇成さんの声音が違う。
私と話している時よりかなり低い。
怒っているの?
「お前は誰なんだ!?なんで警察に通報されなきゃいけないんだよ!俺は芽衣の父親だぞ!」
父は焦りながらも、怒鳴り声をあげた。
「例え親でも、嫌がっているじゃないですか。犯罪になるんですよ」
皇成さんは、上着を私に羽織らせてくれた。
「俺は無理やりしていない。証拠だってないじゃないか」
父はこちらを指差しているが、その手は震えている。
「証拠はあるんですよ。あなたには教えませんけど。提出できるので、立証できます。母親も合わせて芽衣さんに今後近づかないでください」
皇成さんが冷たく言い放つと
「調子に乗るな!」
父は私の前に立っている皇成さんに襲い掛かってきた。
「危ない!」
皇成さんが殴られてしまうかと思ったその時、彼は父の腕を受けとめ、そのまま胸元を掴み、投げ飛ばした。一回転した父は、力なく倒れている。
「この狭い環境で襲いかかってくるなよ。壁にでも頭ぶつけたらどうするんだ。制御するの大変だっただろう」
え、この言葉遣い。
皇成さんが言っているんだよね。
皇成さんはしゃがみ、斃れている父親に向かい
「おい。芽衣さんと俺の前に二度と顔見せんなよら。芽衣さんとは縁を切ってもらう。じゃないと……」
私が聞き取れないほどの声量で父親の耳元で彼は何かを呟いた。
父は、コクっと頷くだけだ。
そのうちパトカーのサイレンが鳴り、父は連れて行かれた。
「事情を教えてくれませんか?」
警察の人に尋ねられ、私は経緯を話した。
皇成さんと警察署に行き、長い聞き取りのあと、帰宅する。
今後はお互いに弁護士を立てることになる。
私は、皇成さんが言ってくれた通り、親と子の縁を切りたい。だけど今の法律では完全に縁を切ることは難しい。
そのため、弁護士が今回の事件や過去の虐待のことを踏まえ、仲裁に入りながら戸籍のことや面会などは決めていくことになるだろうと皇成さんが教えてくれた。
アパートに帰りたくない、そんな弱音を吐いたら、皇成さんのマンションに泊まることになった。
今は、彼が温かい飲み物を淹れてくれている。
「落ち着きましたか?」
皇成さんはいつもの優しい皇成さんに戻ったみたいだ。言葉遣いがいつも通り敬語だから。
「はい。ありがとうございます」
思い出すと、頭が痛くなりそう。
だけど彼が近くにいて、肩を抱いてくれている。
あぁ、安心する。
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