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もうあべちゃん幸せじゃん💚💙❤️
「はわわ、、それは気が気じゃないですね!オーナーはただでさえ美人さんなのに、そんなことされたら、ライバルが増えちゃいますもんね」
「でしょ?大変だったんだから。」
「俺なにもしてないってばー。翔太がそう言ってるだけだよ?」
「ほら、これだよ。何にも分かってないんだから、自分が可愛いこと、そろそろ自覚してくれる?」
「はいはい、わかったよ」
「…なんも分かってねぇなこれ…。」
涼太がいかに危険かを話すと、阿部ちゃんは大変感心して聞いてくれた。
阿部ちゃんの言葉に、俺のこの数年の苦労が報われたような気がしたが、今日も相変わらず、涼太には何一つ伝わらなかった。
また、阿部ちゃんが俺に問いかける。
「高校生になっても渡辺さんはあんまりオーナーと一緒にいられなかったんですよね?どうやってオーナーの気持ちを繋ぎ止めていたんですか?」
「あー、できる限りの事やろうって、そんだけ思ってたかな。どうしたら離れていかないかとか、取られないかとか、あんまりいい考えは浮かばなかったから。」
俺と阿部ちゃんの話を隣で聞いていた涼太が、不意にクスッと笑った。
「ふふ、翔太ね、ほんとに毎日連絡くれたの。何食べたとか、雲の形が犬に見えるとか、変なメールいっぱいくれたの。」
「そうだったっけか?」
「そうだよ?1日に何回もメールくれて、当時はまだガラケーだし、メール一通送るのにも料金がかかるでしょ?携帯代が高いってお母さんに怒られたって、そんな報告も来たよ。そのメール送るのにも料金かかってるのに、ふふふっ」
「一生懸命で可愛いですね!」
「…阿部ちゃんバカにしてる?」
「いえいえ、そんな!大好きなんだなって伝わってきます!」
「ならいいんだけど…。なんか、恥ずい。」
「ふふ、いきなり電話かけてきたかと思ったら、翔太ね?「用はないけど、涼太が足りないからかけた」って言うの。だけど、何も話さないから、どうしたの?って聞いたら、「なんでもいいから喋って」って、俺の声が聞きたかったんだって、かわいいよね。」
「わぁ、ぶっきらぼうな小学生みたいですね!かわいい!」
「…やっぱり阿部ちゃんバカにしてるよね?」
阿部ちゃんは首をブンブンと振っていたが、言葉がいちいち辛辣というか、オブラートが一枚もないというか、とにかくダイレクトに貶されているような気がするのと、当時の一生懸命すぎてカッコ悪い俺がどんどん暴露されていくことがシンプルに心にダメージを与えた。
俺も負けじと涼太の話をしようと口を開いた。
「学校でも大変だったんだよ、たまに学校行けて涼太のとこ行くたんびにさ、男女問わず涼太の周りには人がたくさんいるわけ。追い払うの大変だったんだから。」
「オーナー、モテモテだったんですね!」
「そうなんだよ。でも、あいつだけは信頼できたな。」
「あいつ、ですか?」
「うん、康二」
「あ!向井さん!確か三年生の時に出会ったんですよね?」
「そうそう。あいつの目には下心がなかったから、俺が会いに行けない時に涼太を護衛する任務を命じといた。」
「そんなことさせてたの?もう、、恥ずかしいからやめてよ…。あとで康二に謝っておかないと…。」
「お前があっちこっちからモテまくるのが悪い。それに、その分康二には報酬つって学校一人気の焼きそばパン毎回渡してたし。」
「もう…。」
「向井さんに会うまでは、どうやってたくさんのライバルに立ち向かっていったんですか?」
阿部ちゃんの質問に、また俺の記憶が呼び起こされる。
息をする間もないほどに忙しかったあの頃の思い出を、ゆっくりと言葉に乗せていった。
高校一年生の時に、先輩のバックについてライブに出させてもらえる機会が増えていった。連日その練習ばかりで、学校に行く暇がほとんどなかった。
たまに俺が登校すると、クラスメイトに「どこか体悪いの?」と心配されたり、「お前が来るってことは今日は雪か?」なんて揶揄われたりしたのも今となっては楽しい思い出だ。
そんな目まぐるしい日々を過ごしている中でも、涼太と約束した「連絡をする」ということは欠かさなかった。それに、あんなに可愛くて魅力的な涼太が、俺から離れていかないように、俺のことを好きになってもらえるように、そんな気持ちも込めて、俺は毎日涼太にメールや電話をした。
そんなことを続けていたある日、母親に「あんたのここ3ヶ月の携帯代で温泉旅行行けるんだけど?何をそんなに使ってんの?」と静かに、威圧的に怒られたのは、先ほど涼太が言った通りだ。
あの頃の俺は、とにかく必死だったのだ。
夢も叶えたいし、涼太に好きになってもらいたいし、そのために怒られるくらいなら安いものだった。
たまに学校に行って、涼太のクラスへ顔を出すと、毎回と言っていいほど涼太はたくさんの人に囲まれていた。
「涼太くんって付き合ってる子いるの?」
「宮舘くん、今度遊びに行こうよ!」
「だてさん、このグミ美味しいから一個あげるー!」
男も女も関係ない。学校中の人間が日替わりで涼太の周りにいた。
やばい。取られる。
俺はいつだってその焦燥感に身を焦がしていた。
学校に行ける日は、休み時間のたびに涼太を屋上へ連れ出して、一緒に昼ごはんを食べた。午後の授業が始まる前、涼太を見送るたびに、涼太のクラスメイトから俺に注がれている探るような視線全てに睨みをきかせた。
涼太はこれまでもこれからも、ずっと俺の。
誰にも文句は言わせない。
そんな気持ちで一年間を過ごした。
こんな状態では授業の合間の短い休み時間や、授業中に涼太を守れないと感じた俺は、二年に上がる前に行われた面談で、担任の先生に「3組の宮舘と絶対に同じクラスにしてください」とそれだけを訴え続けた。
学校生活での不安や進路について聞きたそうにしていた先生は、ずっと苦い顔をしていた。
念願叶って、高校二年の時、涼太と同じクラスになれた。俺はあの先生に何度も感謝した。
これでずっと涼太のそばにいられると安心したのも束の間、相変わらず涼太に近づきたいと寄って来るやつが後を立たないし、授業中も隙あらば涼太と接点を持とうとするやつばかりで、俺は常に全員を監視していた。
先生の話なんて一つも耳に入って来なくて、「キョロキョロするんじゃない」と何度も怒られた。
そんな俺の牽制に何も気付かない涼太は「ちゃんと授業聞かないと留年しちゃうよ?」と笑っていた。
その笑顔は悔しいくらい輝いて見えて、いつか絶対にこの顔が真っ赤になるくらい、惚れさせてやると決心した。
高校二年の夏休み前、俺が所属する事務所の偉い人に呼ばれて会議室へ行くと、そこには俺と同い年くらいの子が3人いた。
偉い人は、俺が中に入るとそばにあった椅子に座って、俺たちに話し始めた。
「デビューに向けて、君たち4人でグループを結成することになった。これからこの4人で頑張って。みんな歳も近いし、まずは自己紹介とかして、仲良くなってね。それが落ち着いたら、今日はもう帰っていいよ。明日はレッスン室で4人で練習するから、14時に集合ね。」
思いがけないことだった。
ずっと一人で練習してきて、突然仲間ができるという感覚にまだ追いつけていなかった。説明をしてくれた人は早々に部屋を出ていって、俺たち4人だけがここに残された。静寂を破るように一番小さい奴が手を挙げた。
「はいはーい!俺、佐久間大介!アニメとダンス好き!嫁がいっぱいいる!」
佐久間への第一印象は「元気だな…。」だけだった。それよりも佐久間が着ていた服が気になって仕方がなかったのだ。なんで全身真っ赤なんだ?アニメ柄のTシャツを着て、腰にはよくわからないチェーンが付いているその姿は、今思い出してみても癖の塊でしかなかった。
「岩本照。甘いものと筋トレが好き。」
照のむすっとした怖い顔からは、甘いものが好きな様子は想像できなくて、そのギャップが面白かった。
「目黒蓮っす。サッカーと海とザリガニ釣りが好きっす。」
目黒はあの当時からだいぶ整った顔をしていて、少年のような趣味も相まって、相当モテるんだろうなー、なんて呑気に考えていた。
俺も自己紹介をして、そのあとは特に何も話すこともなく解散になった。
気まずいわけではないが、俺も、きっとみんなも今の状況を飲み込もうとしていて、会話をするどころじゃなかったんだろうな、と今はそう思う。
俺としては、また一歩進めたことが嬉しかった。
また、涼太の隣に立てる俺に近付いた気がした。
まだ、涼太に報告はできないけれど、せめて、なにか伝えたくて、帰路に着く途中で花屋に立ち寄って、お小遣いで花を一輪買った。
花屋さんに「離れてても好きです、みたいな花言葉の花ありますか?」と聞くと、花びらがたくさんついた鮮やかな赤い花を渡してくれた。この花は百日草だと、「変わらない思いという花言葉がある」んだと、その人は教えてくれた。
涼太の家に着いてインターフォンを押すと、涼太が玄関から出てきてくれた。
「翔太、どうしたの?」
「ん、これ。」
「花?どうしたの急に」
「別に。渡したくなったから。」
こんな時になっても素直になれない俺に嫌気がさすが、涼太は嬉しそうに俺が差し出した一輪の花を受け取ってくれた。
「ありがとう、大切にするね」
優しく目を細める涼太の笑顔が眩しくて、俺はそっぽを向いて「…ん」と返事をするので精一杯だった。
でも、涼太が喜んでいる顔が見られたから、あの日はこれだけでも嬉しかった。
高校三年に上がる前の担任の先生との面談でも、俺は一年前と変わらず「宮舘と同じクラスにしてください」と言い続けた。「進路はどうするんだ」と聞かれたが、「小学生の時から準備してるんで大丈夫です」とだけ伝えると先生は頭を抱えていた。
夢への努力と、涼太に集まって来るやつへの牽制の苦労に転機が訪れたのは、高校三年の春だった。
ある日、久しぶりに学校に登校して、教室に入ると、いつも通り涼太のそばには一人の男の子がいた。
こいつも涼太に気があるのか、と後ろから肩を叩いて振り向かせ、「俺の涼太になんか用?」と尋ねた。
そいつは俺の目に怯むことなく、「おはようございます!」と関西訛りで挨拶をした。
「おはよう?で、誰?」
今まで涼太を取り囲んでいたやつらは、大概は俺が睨むと大体目を泳がせて、あ、とか、う、とか小さく唸ってどっかに行く。しかし、こいつは全く動じずに俺に笑いかけていた。その振る舞いに戸惑いながらも、そいつに挨拶を返すと、涼太が俺に「部活の後輩。今年一年生の子だよ」と教えてくれた。
「向井康二いいます!よろしくお願いします!先輩のお名前なんて言うん?」
「渡辺翔太。」
「じゃあ、しょっぴーやな!」
「…しょっぴー?なんだそれ」
「しょうたの、しょ、に、ぴー付けたらかわええやん?」
「え」
「っふふふ、んはははッ、よかったね、かわいいよ、翔太」
「涼太ッ!笑うな!かわいくない!」
俺の今のあだ名は、康二がつけた。
可愛いからとか言うよくわからない理由だが、この呼び名をつけられたという話をダンス練習の休憩中にメンバーにしたら、目黒までそう呼ぶようになってしまった。
「渡辺くん」が長くて言いづらかったのだそうだ。
今となっては、みんなそう呼んでくれるし、親しみを持ってくれるきっかけになっているんだろうと思うとそこまで悪い気はしなかった。
朝のホームルームの前に涼太と康二が楽しそうに話している。しかし、何故かそれを不愉快には思わなかった。きっと、康二の中に涼太と付き合いたいとか、あわよくばみたいな意志が見えなかったからなのだろうと思う。それに、涼太も康二がはしゃぐ姿や、よくわからないギャグを見てとても楽しそうにしていた。
こいつなら、邪な気持ちもなく涼太と仲良くしてくれるかもしないと思った。
俺は康二を呼び、涼太に聞こえない距離で肩を組み、話を持ち掛けた。
「なぁ、康二。頼みがある。」
「初めましての今日で頼み事されたん、初めてやわ。なんや?」
「涼太を護衛してくれ」
「おん?どゆことや?」
「本当なら俺が毎日涼太が誰かに手出されないように守っていたいんだけど、それができない。毎日学校に行けるわけじゃないからな。だから、俺が学校に行けない日は康二が涼太を邪な目で見て来る奴らから守ってくれ。」
「だてはそんなモテるんか、確かにべっぴんさんやしな。」
「おい、褒めるな。涼太を褒めていいのは俺だけだ。」
「すまんすまん、堪忍な」
「頼む、俺が学校行ける日は毎回、この学校で一番人気の焼きそばパン奢るから」
「おっしゃ、乗ったわ。」
二つ返事で了承してくれた気の良い康二と、俺はがっちりと握手をして約束を交わした。「よろしくな」と言いながら、何度か二人で繋いだ手を揺さ振った。
その日から、俺が学校に行くたびに、涼太の近くには康二がいてくれていて、俺は授業が終わった瞬間に購買に駆け込むようになった。
早く行かないと売り切れてしまうので、毎回涼太に「先に屋上行ってて!あとで合流するから!」と言いながら全速力で階段を駆け下りた。
もみくちゃにされながらなんとか獲得した焼きそばパンを持って屋上へ向かうと、いつも涼太と康二が待っていてくれた。
3人で昼ごはんを食べるようになった。料理研究部に入っているこいつらは、いつも何かしら飯の話をしていた。たまに、涼太が練習したからと言ってお菓子やら卵焼きやらを作って持ってきてくれた。
それを食べられる日は最高のご褒美の日だった。
学校が終わってから練習がある日は、涼太が子持ち昆布のおにぎりとかサンドイッチとか、ベーグル?とか持たせてくれた。
レッスン室でそれを食べていると、佐久間が毎回寄って来るから、「やんねぇ」と先手を打って答えていた。その度に佐久間は「ケチ」と言いながら、次の瞬間にはその辺を笑いながら走り回っていた。佐久間は、本気で食べたいと思っているわけじゃ無くて、ただじゃれているだけだったんだろうな、と今は思う。
涼太がクッキーとかケーキとかを持たせてくれた時は照がそばに寄ってきた。
佐久間同様「だめ」と言うと、照は唇を突き出して「違うもん。一緒に食べようと思ったの」
と言いながら、自分のリュックからプリンと駄菓子を取り出していた。
甘いものは誰かと一緒に食べるともっと美味しいんだそうだ。
俺も含めて、メンバーは変なやつばっかりだが、みんないい奴だった。
そんな生活は卒業まで続いたのだった。
「向井さんがいてくれてよかったですね!それにお花を贈るなんてロマンチック!」
「そんないちいち感想言わなくていいよ…」
「言いたいので言わせてください!」
「もう、、いくらでも作るんだから、ちょっとくらいみんなに分けてもよかったのに…。」
「涼太が作ったものは俺だけが食べるんだって、あん時は思ってたんだもん。」
「オーナーも、練習を頑張る渡辺さんにお弁当を作るなんて…奥さんみたいで素敵です! 」
「俺のために頑張ってくれる翔太に、俺もなにかしたかったから」
「涼太…すき……」
「ふふ、俺も大好きだよ」
「青春ですねぇ…」
阿部ちゃんのうっとりした声が、天井に溶けていった。