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「やったな! ざまあみろ! なあ、兄貴!」
「ああ! でも、早めにここから逃げた方がいいな……ほら、騒ぎに気がついた獄卒たちが集まってきている」
「……そうだな……あのな……兄貴……オレは広部 康介っていうとある組織のリーダーに長い間。脅迫されていたんだ」
辺りから無数の裸足の足音がしてきた。
獄卒が広部の方へと歩く音だった。
「その広部ってやつが、さっきの黒のサングラスの男だったんだな。それであんなことを?」
「あ、ああ。生きていた時で、最後に覚えていたことっていったら、都内の高級バーで強引に酒を勧められていたことと、それから憂さ晴らしに酔っぱらって車ころがして、それから……とある組織の幹部の車に突っ込んだことだけだ」
「え? ……幹部?」
「そうだけど?」
「ひょっとして、弥生は普通の自動車との正面衝突をしたんじゃなくて、幹部を狙って事故を起こしたのか?」
「ああ……多分な……ワリい……オレ記憶があやふやで……」
「ああ、そうだよな」
一人の大きな体躯の獄卒が近くを横切った。
それから、立ち止まって、こちらをじっと見つめている。
俺は何やら不穏な空気を察知した。
獄卒が弥生目掛けて、手に持つ金棒を振り上げた。
「あ!」
「……!」
俺は咄嗟に弥生を脇へ引っ張り、そのまま走り出した。
周囲の悲鳴や呵責の大絶叫の声が耳をつんざく中で、大叫喚地獄の真っ赤な大地を滅茶苦茶に走りに走る。
灰色の空から、また大勢の罪人が降ってきた。
地面に体を激突したものから、獄卒の無情の金棒によって、粉砕されていく。
裸の罪人の肉体がただの血袋と化して、それが破裂して半透明な人型の魂になっても、獄卒の地獄の責めは尚も続いた。
「ぜえっ! ぜえっ! そうだ! 音星はいないけど、仕方ないから閻魔丁の場所を探そうよ!」
「え? あの巫女さんがいないのに……いいのか?」
「ああ、多分な! 音星なら機転が利くから閻魔丁へと一人でも来てくれるはずだよ!」
「またあそこに行くのか? 兄貴? オレは正直、凄く遠いところにあるから行きたくないんだけどな」
「まあな……」
閻魔庁は、人間の住む世界から五百由旬《ごひゃくゆじゅん》(古代インドでのサンスクリット語のヨージャナという言葉の音写で1由旬はだいたい10キロメートル)というものすごく遠い所にあるって本に書いてあったっけ。それと、仏のいない世界でもあるんだって。でも、閻魔大王は地蔵菩薩と習合していて、人々の信仰対象にもなっているんだ。
そのまんま勧善懲悪だけれど、秦広王《しんこうおう》(初七日)初江王《しょこうおう》 (十四日)宋帝王《そうていおう》(二十一日)五官王《ごかんおう》(二十八日)閻魔王(三十五日)変成王《へんじょうおう》(四十二日)泰山王《たいざんおう》(四十九日)と亡者には、七回もの審理があるって本に書かれてある。
「まずはここ大叫喚地獄から閻魔庁へ行く方法を探そう……あ! そこんところは全然大丈夫だった。音星の浄玻璃の鏡があるじゃないか!! 音星の持つ手鏡は浄玻璃の鏡の欠片って言っていたから、閻魔丁へと難なくいけるはずなんだ! 閻魔庁へ行くのなら、俺たちはただここで、音星を待っていればいいんだけなんだよ!」