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それに対し勝弘は少し悲壮な表情を見せたが、すぐに切り替える――
“所詮は闘う定めに在るのか……”
迎撃態勢――二人が激突する、刹那の刻の事だった。
「――止めてぇ!!」
不意に割り込むように聴こえた第三者の声に、二人の動きも止まる。
「――っ!?」
「悠莉っ?」
振り返った其処には、ジュウベエを両手に抱いた悠莉の姿が。
「お前達……何故来たんだ!?」
その姿に思わず幸人は声を荒げる。
彼女は寝ていた筈――否、問題はそれより“何故此所に居る?”という現状。
「まさか……そんな――」
勝弘も悠莉の姿に幸人と同様、動きを止めざるを得なかった。思わず見入ってしまったのだ。
「姫紀ちゃん……?」
それ程までに悠莉は、かつての幼馴染みに似ていた。
「いや、違うな……。じゃあやはり――」
“あの人が言った事は正しかったか……”
だがそれはすぐに“別人”で在る事に気付く。
その後に続く意味深な呟きは、彼等に聴こえる事はなかった。
「――ジュウベエから全部聞いたよ……。駄目だよ幸人お兄ちゃん! 友達と闘うなんて絶対駄目……」
途端に悠莉は悲痛な表情を見せる。彼女は全てを知ったからこそ、彼等を止めに来たのだ。
「ジュウベエっ!」
「幸人……すまん。でもオレもお嬢と同意見だ。やっぱお前達は殺し合っちゃいけねぇよ」
ジュウベエも同じ気持ちだからこそ、悠莉に全てを話していた。
「ようジュウベエ、元気だったか? まるでかつての再現だな……」
昔を懐かしむかのように、勝弘はジュウベエへ手を上げて応え、そして幸人へと向き直る。
「なあ幸人? 人と関わる事を止めたお前が、再び関わるようになった気持ちも分かるぜ。あの子も狂座なんだろ?」
「あいつは関係無い……」
幸人は答えない――何も。
「考え直せよ幸人。俺達は狂座を潰す……一人残らず。それは誰にも止められない。だがお前が俺と一緒に来るなら、あの子も危害が加わる事は無い。また……昔みたいに一緒に――失われた時間を取り戻そうじゃねぇか」
それは懇願でもあった。
「俺は……お前達だけは殺したくない。お前も二度迄も失いたくはねぇだろ? さあ――共に行こう」
勝弘にとって幸人は――彼等との想い出は、何よりも大事なもの。
彼は幸人へと向けて手を差し伸べる。
また昔に戻りたいのだ。何一つ変わる事のない――平穏だが幸せだったあの頃へ。
例えそれが間違っていようが、どれ程の犠牲を払おうが取り戻してみせる――それだけが彼を動かす、最大の行動理念。
「そうだな……」
幸人も同じ想いなのだろうか。彼は差し伸べられた手に、己の手を差し伸べていく。
「幸人お兄ちゃん……」
それがきっと正しい。これから狂座を敵に回す事になるだろう。
それは即ち、琉月とも敵同士になるという事。
“それだけは嫌だ――でも……”
幸人が選ぶ道なら、何があっても着いていく決意をしていた。
他に方法は――無い。
幸人と勝弘。御互い手を取り合おうとした、その時だった。
「――えっ!?」
悠莉は思わず自分の目を疑った。
組み交わされる筈の両者の手。
それをすり抜けるように幸人の右拳は、勝弘の頬を思いっきり殴りつけていたのだ。
まさか突然殴られるとは思っていなかったのだろう。
「――ぐっ!」
不意を突かれた形となった勝弘は、驚愕と僅かな呻きと共に後方へと“吹き飛ばされた”。
人体の組織を素手で抉り取る事も容易な、幸人の超人的な身体能力による拳の威力は、そのまま推して知るべしだろう。
その人体に掛かる圧力は、常人ならそのまま即死してもおかしくはない。
「……いっ――てぇな」
ダンプにでも跳ねられたかのように飛ばされた勝弘もまた、何事も無かったかのように立ち上がる。だがその口元には血糊の痕が。
幸人の拳で口内を切ったとはいえ、この程度で済む彼もまた“超人”の類いで在る事は明らかだ。
「これが……お前の“答”かよ?」
口内に溜まった血反吐と共に、吐き捨てながらその真意の矛先を幸人へと向けた。
「ああ……。俺の答は変わらん。この手で……お前を止める」
幸人の決意は変わらない――揺るがない。
その握り締めた拳を親友へと向けたのは、その決意の現れ。
「……“あの人”にも刃を向ける――って言うんだな?」
「ああ……“アイツ”も俺の手で――消す」
はっきりとした対立の決断。かつての仲間や親友さえも、敵に回す事をいとわぬ覚悟。
それは御互いが御互いを――
「止めてよ二人共っ! 闘っちゃ駄目ぇぇぇ!!」
悠莉の悲痛な叫びは彼等には――もう届かない。
「じゃあ……“死ぬか?”」
一瞬悲壮な表情を見せたのも束の間、勝弘は“ニヤリ”と口角を吊り上げながら幸人へと飛び掛かり、その右腕を振るう。
それは余りにも速く、突然の事。先程と同様、完全に不意を突かれた形の逆。
「速っ――!?」
その速度には悠莉も舌を巻いたが、何より目を惹いたのが――
“黒い……腕?”
勝弘の右腕は振りかざす一瞬で変貌を告げていたのだ。
それはこの世の物とは思えぬ程に禍々しく、邪悪な形状の黒き腕。
“アレ”に触れたらやばい事になりかねないのは、一見しただけで分かる程の。
だが心臓を捉えた筈のその黒き右腕は、幸人の残像と共に虚無を掴む。
「……完全に不意を突いた形だったんだが、かすらせもしないとは……やっぱ流石だな――幸人?」
「…………」
勝弘のその背後には、既に幸人が何事もなかったかのよう立ちはだかっていた。
弾けるように同時に距離を取った二人は、再び絶妙な間合いを保って対峙する。
「ねえジュウベエ? あの人の“アレ”って……?」
二人から離れた位置で見届けるしかない悠莉の疑問。それは勝弘の持つ、得体の知れない力に対して。
“元”狂座なら“異能”で在る事に間違いはないのだが、悠莉はそれを見た事がなかった。
「あれは勝弘の――いや、コードネーム『錐斗』の異能――“デモンズ・アーム”」
「デーモン……悪魔?」
“デモンズ・アーム ~悪魔の腕”
後天性異能の属するこの力は、自身の細胞物質を別変換する為、具現化系に近い上位異能の一つ。
「アレに掴まれたら、人間なんて軽く“ミンチ”だよ。だが――」
その力の体現者は、常人には視覚も困難な程の速度領域と、鋼鉄をも引きちぎる程の腕力を得る事が出来るが――
「所詮は後天性異能……幸人には及ぶ筈もないのは、アイツも分かっているはず……」
特異点で在る『雫』の先天性異能の前では、それは比べる迄もない雲泥の差。
「じゃあ……敵わないと分かってるのに、何であの人は……?」
確かにそれは不思議だった。
勝弘――錐斗は既にその力を見せた。
それでもサーモの反応は、レベル臨界突破を計測していない。
幸人もまだ力を見せていないとはいえ、その気になったら結果は火を見るより明らかだ。
最早自殺行為にしか思えない。
そんな一方的な惨殺を幸人が――そんな姿を、悠莉は見たくなかった。
しかも相手は、かつての親友。なのに――
「せめて……一瞬で終わらせてやる」
止めるのも憚れるが、何とか止めたいと駆け出そうとした瞬間、幸人はその眼鏡を外していた。
本気で――親友を殺すつもりで。
幸人が『雫』へと変わる。黒から銀へ――常人から超越者へと。
瞬間、闇夜を切り裂く――
“level99.99%over”
※※※※EMERGENCY※※※※
高らかに鳴り響く警告音は、レベル臨界突破計測の狼煙。
※レベル臨界突破計測確認――
CODE:0990100よりモード反転――
スタビライザー解除:裏コード移行――
※※※※EMERGENCY※※※※
※本機はこれより モード:エクストリームへ突入します――
地殻変動及び空間断裂の危険性大――
速やかな退避を推奨します――
※※※※EMERGENCY※※※※
「流石だな幸人……。臨界突破を更に越えた――“第二マックスオーバー計測”。世界中見渡しても、この領域に到達出来るのはほんの一握りだろうな……」
「…………」
「お前は俺のような“与えられた異能者”とは根本が違うからな」
『錐斗』と『雫』の埋めようがない、基本的性能差。それはそのまま“結果”に直結する。
つまり闘った処で“闘い”が成立する次元の問題ではない。
「それだけに惜しい。その力がありゃあ、世界の支配も容易いだろうに……」
しかしどうだろう?
これ程の力量差を分かってて尚、錐斗に臆する素振りが全く見えないのは。
それは絶対なる自信からくるものなのか?
しかし錐斗に“別の異能”が有り得る筈がない。
先天性だろうが後天性だろうが、持ち得る異能は一生体に一種のみ。これは生体に定められた魂の法――相克による掟で、自我境界線が保てるギリギリの許容ラインとも云える。
その禁忌を破った者はエンジン(自我)がオーバーヒートし、行き着く先は死処か――精神、魂の死~“アストラルロスト(幽界喪失)”により、二度と使い物にならない。
生きながらも死して永久に彷徨う只の廃人。これは二つの異能を投与しようとした、過去の実験結果で明らかにされている。
以来、二つの異能保有は御法度。叶わぬ夢。
なら在るのは、己自身の経験上積みによるレベルアップしかない。
だがそれでも限界は在る。錐斗の力では雫に追い付ける筈がないのだ。
「まあ俺がどう逆立ちしても、お前とは闘い合えんだろうな……」
錐斗はそれを十二分に理解していた。
ならば何故――
「展開――“フィールド・ゼロ”」
思う間も無く刹那――雫の身体から、電極に触れた時に発する電光のような蒼白が発光した瞬間――
「おっと!?」
錐斗は跳躍。次の瞬間には世界が変わっていた。
辺り一面、見渡す限りの氷河の大地。それを予測して跳んだのか、錐斗はその氷の地にそっと降り立つ。
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