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みぅです🤍🥀 第650話、読みました……。 和束ハルの過去、重すぎる……。家族に冷遇されて、アンドロゲン不応症で子供も望めなくて、それでも術師としても管理栄養士としても頑張ってたのに、父親の「男のなり損ない」発言はほんと胸が痛かった。高千穂先生の「友達で居続けたからつながり続けてくれた」って言葉が染みる……大事にされてたんだね。でも「気づいてたら無敵の人にならなかった」ってラスト、余韻が深すぎるよ🌙
和束ハル情報共有会の日。俺はきっちり女装して、九さんに狐のお宿の出口を本白神社につなげてもらって外に出た。本白神社には金谷さんがいて、車で会場まで送ってくれるそうだ。
金谷さんは運転しながら言った。
「今日は、主に和束ハルの人間面の情報から、和束ハルが何をしそうか考えるって会です」
声を出すと男とわかってしまうので、俺は黙ってなるべく大げさに頷いた。
「和束ハルは無敵の人だ、って緑さん言ってまして。あの、強いって意味じゃなくて失うものがない人って意味です」
なるほど……そんなに恵まれない人生だったってこと?
会場に着き、多くの人が集まる中で会が始まった。緑さんが調べたことを共有する形で、緑さんは確かに「和束ハルは無敵の人です」と言い切った。
「最強という意味ではありません。失うものがないから、どんな破滅的なことをしてもおかしくないという意味です」
それから、緑さんは和束ハルの半生を説明しだした。不妊ゆえに少女期から家族に冷遇されていたこと、超一級の術師なのに、和束家の後ろ盾がなかったので術式を安く買い叩かれていたこと、それなのに和束家産の術式扱いされていたから本人の名前が全く残らなかったこと。
会の面々を見ると、微妙に居心地の悪そうな顔をしてる人がそこかしこにいた。買い叩いてたんだろうな……。
壇上に和束天さん(和束ハルの父)が上げられて、緑さんに和束ハルのことを聞かれていたが、天さんはなんも考えてない顔で言った。
「いやーあいつは男のなり損ないなんでね、うちの娘とは言えませんわ」
ま、マジかこいつ……え、ていうか今のどういう意味?
俺はスマホを出してメモ帳に「男のなり損ないってどういうことです?」と打ち、金谷さんをつついてスマホを見せた。金谷さんはこそこそっとおれに耳打ちした。
「和束ハルはアンドロゲン不応症って言って、遺伝子的には男性なのに男性ホルモンが効かないから見た目は女の人、っていう人だったそうです」
俺はまたスマホのメモ帳に打った。
「それ検査とかしないと分からなくないです?」
「だいたい初潮こなくて病院行って気づくそうです、狭山さんが昔小説のネタで調べて詳しくて」
え、じゃあ和束ハルは思春期にそんな事実を突きつけられて、しかも子供は望めないって言われたってこと!? かわいそうすぎる。しかもそんな個人的なことを衆人環視のもとでぶちまける父親のもとに生まれたのも不幸すぎる……。
参加者からも「男のなり損ないとはどういう意味です?」と質問が飛び、緑さんがアンドロゲン不応症完全型について説明した。
曰く、男性ホルモンが効かず、男性器ができない。見た目は完全に女性だが、遺伝子的に女性ではないので子宮も卵巣もない。本人の自認はほとんどが女性。
じゃあ、初潮が来なくて検査して、それで遺伝子的には男性ですって言われて、子供も望めなくて、でも自分で自分は女性だと思っていて……気の毒すぎる。
緑さんはこう言って締めた。
「そういうことなので、和束ハルは卓越した術師なのにもかかわらず、生殖能力がない事から親に認められず跡取りには妹が選ばれ、見放されています」
天さんはなんの悪気もない顔で言った。
「術は教えましたって」
緑さんは、明らかに感情を押し殺している無表情で言った。
「あなたの手になるとされている術式の半分、和束ハルと同じ筆跡でしたね」
天さんは何の悪気もない顔で笑った。
「この年であんなに書ける訳ありませんわ、なりそこないなんだからせめて働いてもらわんと」
こ、この男……。
次に壇上に上げられたのは、なんと高千穂先生だった。霊障も診られる内科と心療内科、とよか病院のお医者さん、ちょっとマッドサイエンティスト。こないだ俺が子供になったときもどさくさで採血したしな……。
高千穂先生も、緑さんにいろいろ聞かれていた。
「高千穂先生は学生時代和束家に下宿されていて、和束ハルとは親しかったそうですが」
「友達でしたね、共同研究もそれが縁でしましたから」
俺はまたスマホで金谷さんに聞いた。
「共同研究って?」
「私とか緑さんみたいな人が特定の食べ物で霊力駄目になるの、アレルギーの一種ってちゃんと証明したのが和束ハルなんです。和束ハルは管理栄養士なんですけど、論文も書いてて」
え、すごいな、そっちの方面でも業績出してたんだ。
緑さんがまた高千穂先生に聞いた。
「和束ハルの人となりを教えてもらえますか」
「術には絶対の自信を持ってましたね、私は全然詳しくないので分かりませんけど……あと生物と化学が大好きな子だったので、下宿してたときもそれ以降も会うとずっとその話ばっかりしてました」
天さんが嫌な顔をした。
「ハルとばっかりくっちゃべって、美枝には興味ないって放り出して」
高千穂先生は、明らかによそ行きの作り笑顔で笑った。
「美枝ちゃんとはなんにも親しくなかったですし、そもそも僕は美枝ちゃんと結婚させること前提での下宿なんて知りませんでしたよ。恋愛とか結婚とか、全然興味ないんで」
お、おお……この2人、だいぶ関係が悪いぞ!
緑さんはたじろぎつつも、とりなすように高千穂先生に聞いた。
「ええと……和束ハルが、霊力を得たらするだろうことの予想を言ってもらえませんか?」
高千穂先生は純度100%の笑顔になった。
「いやー、こんな世界なんてぶち壊しちゃいたいだろうなと思いますよ。ハルちゃん、誰にも愛してもらえなかったし、だれにも評価してもらえなかったし」
さすがに会の参加者一同はどよめいた。緑さんだけが「そうでしょうね」と頷いた。
「高千穂先生は、和束ハルとかなり親しかったみたいですけど、もう少し具体的なことはわかりませんか?」
高千穂先生は苦笑した。
「いやー、ハルちゃんとは友達でしか無かったので」
天さんが吐き捨てた。
「ハルのほうが好きだったから、美枝を勧めても結婚せんかったんやろ」
高千穂先生は空虚に笑った。
「ははは、ハルちゃんとは友達でしかありませんでしたよ。友達で居続けたから、ハルちゃんは私とつながり続けてくれたんです。あんな扱いされて、恋愛に前向きになれる子はいませんよ!」
た、高千穂先生……マッドサイエンティストだと思っててごめんなさい、いやマッドサイエンティストだとは思うけど、あなたかなり人の心わかる人だったんですね……。
しかし。
高千穂先生は和束ハルを大事にしていたんだろうな。恋愛感情の有無は置いといても、相手の傷つくところに触らないようにものすごく注意して、親しくあり続けようとしていたんだしな……。
和束ハルは、気づいていたのかな。いや、気づいていたら、無敵の人にはならなかったかな……。