テラーノベル
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俺には8人の兄がいる。まぁ、誰とも血の繋がりはないんだけど。まだまだ未熟な幼い頃から楽しいだけじゃない日々を共にした彼らは、今となっては家族同然の大切な存在になった。”メンバー”や”仲間”なんて単純な言葉では言い表せない。もっと複雑に力強く身体の奥深くで繋がっている。そんな彼らが、喜んでいたり何かを成し遂げたりすると、自分のことのように嬉しくなる。同時に、傷つけられたり泣かされたりしたら、自分のこと以上に腹が立つ。それらと同じで、放っておけなかったのだ。別に彼だけを特別視したことなんて一度もなかったけれど、それを知っていて尚じっとしていられるほど俺と彼は淡白な関係じゃなかった。
アイドルである以上、見てくれる全ての人にエンターテインメントをお届けするのが仕事である。いつも相手にするのは、一人に対して不特定多数。俺達はプロのアイドルとして表舞台に立つ。
日にもよるけれど、基本的に仕事が終わるのは短針が真上を向いた頃。もう少し長針を右側に回してゆけば、世間には到底見せられないような、不格好でくだらないエンターテインメントが静かに幕を開ける。演者は彼と俺だけ。ぶつかり合って削れて互いが擦り減って、生ぬるい手のひらの中に最後に残るものって一体何なのだろう。
煌びやかな仕事ではあるものの、もちろんそれ故の制限も多い。アイドルだから、夢を魅せないとダメ。アイドルだから、輝いていないとダメ。完璧でいないとダメ。理想通りでいないとダメ。恋愛したらダメ。「アイドル」という言葉は誰にも気付かれることなく、いつの間にか呪いに変わっていく。寄せられた期待は裏切るな。高まったハードルは軽々しく越えてゆけ。……なんて、無茶言わないでよ(笑)。
ラ「ねぇ、みんなに知られたらどうなるかな」
岩「え、『みんな』って……?」
ラ「みんなだよ。メンバーとか、ファンのみんなとか」
白いシーツに埋まった男の頬を撫でると、彼はゆっくりと瞬きをして小さな息を吐いた。ふわふわの黒い髪は少し痛んでいて、けれどそれすらも愛おしい。
美しい偶像である以前に、俺達は人間だ。躾をされた従順な犬でも、文句も言わずに服従するアンドロイドでもない。本能とか感情とか欲望とか、理性や論理では抑えきれない熱が人の身体には渦巻いている。
岩「なんで急にそんなこと言うんだよ。ラウ」
ラ「んー……んふっ、ねぇ岩本くんこっち向いて?もっかいシよ」
スイッチのオンとオフ。芯腐れを起こした真っ赤な林檎。ロックの掛かったフォルダの中身。本音と建前。
重なった唇の温度も、立ち込めた互いの吐息も、全部見えないように閉まっておく。そうすれば、ほら、綺麗でしょ。みんなの好きな偶像がそこにあるでしょ。
ラ「まぁ、バレないようにするんだけどね。岩本くんの全部は俺だけのものだよ?」
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