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コメント
2件
コメント失礼します。 いい子じゃなかったのかクリスマスプレゼントなかったので、最高のプレゼントをありがとうございます。✨
「クリスマスケーキの行方」
🟦🏺
12月の空気は冷たく、吐く息も白い。
青井はバーレルいっぱいのフライドチキンを片手にウキウキしながら家路を急いでいた。よく冷えたコーラも買ってきた。勝利が約束された組み合わせだ。
今日は青井がつぼ浦と付き合ってから初のクリスマスだった。仕事は忙しいけれど、帰りに食べ物を買って少しだけでもパーティーをしよう。そういってじゃんけんをした結果、青井がチキン、つぼ浦がケーキ担当になったのが今朝のこと。
青井自身はそんなに脂っこいものが得意ではない。自分一人なら唐揚げでも食べてクリスマスチキンのノルマを達成したことにして終わりにしていただろう。しかし今年はつぼ浦がいる。口と両手を脂でベトベトにして、美味しそうに肉を頬張る恋人が見られるのなら多少の胃もたれなど安いものだ。どんな顔をするか楽しみで、足取りも早くなる。
同棲している家のドアを開ける。奥に向かってただいま~と声をかけるが返事がない。
「……あれ?」
家の中は不気味に薄暗かった。しかし玄関に履き潰したカラフルなサンダルがあった。もしかしてサプライズでもしようとしてくれてる?と、普段は鈍いのに珍しく察して青井は素知らぬ顔でリビングへ向かう。
「つぼ浦、帰ったよー。最高な物買ってきちゃった」
サプライズならテーブルの上になにかおいてあるかもしれない。不自然な動きで遠回りしながらとりあえずコートをハンガーに掛ける。それでも気配がしない。
いよいよおかしいか。チキンのバーレルを手探りでテーブルに置き、部屋の電気をつけようとした、その瞬間。
「アオセンごめん!!」
「ぇえ?!」
電気がつくと同時につぼ浦が寝室から飛び出してきた。いつもの有り余る元気さは鳴りを潜め、サングラスの向こうの目もしょぼくれている。
「なになに、どうしたの?」
「その、ケーキなんだけどよ」
ちらり、つぼ浦はテーブルを見た。食器は用意してあるものの、ケーキはない。
「忘れちゃったの?」
「違うぜ!買いに行ったんだけどよ、そ、その」
「まさかお金がなかったの?」
「こういうことに使う金はあるぜ!」
「じゃあどうしたの」
「お……」
何かを言いかけて急に俯いた。ちらりと顔を覗き見ると、目は泳ぎ顔は赤らみ、手をワナワナと震わせて言葉を絞り出した。
「お、おとこ、と、おんなが、ベタベタ……ベタベタしてて……!!」
青井は呆気にとられた。それからつぼ浦が何を言っているのかを理解してゲラゲラ笑った。
「あははは!!あーそっか、クリスマスだからカップルがいっぱいいて入れなかったんだ!」
「手、手とか、繋ぎやがって!だ、抱きついたり、こーぜんわいせつ罪だぞ!」
「そんなんで切られたら俺らでも有罪になるよ」
「し、してないだろ俺らは人前で、その、……ちゅーなんて」
目の前でキスするカップルを見ちゃったのか、そうなのか。真っ赤になって拳を振り回しているつぼ浦を見て青井は笑いを噛み殺すのに必死だった。
「ふふふ、あー可愛い。つぼ浦くんウブだもんねぇ、俺と二人ならあんなに恥ずかしいことしてくれるのに」
「チクショウ、アオセンもそっち側か?!」
「いやいや味方だよ、味方」
「お、俺は負けてねぇぞ!あいつら命拾いしやがって、ロケランさえ持ってりゃ全員爆破してやったのによ!」
「やめて、俺が逮捕しなきゃいけなくなるから」
プルプルしてる恋人があまりにも可愛くて青井は眉間を押さえた。退勤後、ちゃんとケーキ屋まで行ったのにキラキラした光景に耐えきれず、逃げた挙げ句青井に合わせる顔がないので寝室に隠れていたつぼ浦、あまりにも可愛すぎる。心の額に入れて飾ろう。そこまで2秒で考えて、青井は唇を震わすつぼ浦の背中を叩いた。
「俺はフライドチキン買ってきたよ」
「……おう」
「つぼ浦、好きでしょ。口の周りベッタベタにして食べるの」
「……行儀悪いぞ」
「またまたぁ、最後に舐める指が一番美味しいって言ってたやん」
拗ねてネガティブなことしか言わなくなってしまったつぼ浦を見て青井は優しくため息をついた。そして先に椅子に座る。
「だから冷える前に食べようよ、それから一緒にケーキ買いに行こうよ」
「だけど俺と一緒に行ったら、アオセンが……」
付き合っていることを隠していること、対応課の彼が特殊の自分と一緒にケーキを買いに来た姿を周りに見せたくないこと。つぼ浦の困惑を一瞬で察して青井は笑う。
「じゃあコンビニのケーキでいいよ。フォーク2本つけてもらおう」
青井からすると関係がバレたっていいし、なんなら見せつけるために手を繋いでケーキ屋に行ってもよかった。しかしそれより大事なのは、二人でこの時間をともに過ごすことだった。
「いいのか?そんなんで」
「いいよいいよ、イチゴだけ全部もらうけどね」
「ア?!なら俺はチョコケーキにするぜ」
「ええ~チョコ??」
ごねる青井を見て勝ち誇ったように笑うとつぼ浦も席についた。
袋から出てきたのは赤と緑のストライプの丸い箱に入った大量のフライドチキンと、真っ赤なコーラの缶。箱のフタを開けると香ばしい油の匂いが鼻をくすぐった。つぼ浦の目がパッと輝いたのを見て、青井は安堵の息をついてにっこり笑った。
「じゃあつぼ浦、メリークリスマス!」
「メリークリスマス、だぜ!」
片手に持ったコーラの缶で乾杯をして、二人のささやかなクリスマスパーティーが始まった。