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第1話:雪山にて
目を覚ましたとき、あたりは静かだった。
雪が落ちる音さえ、遠くに感じた。
「……ここ、どこ?」
小屋の中。木の壁は冷たく、窓の外は真っ白。
私――**マシロ カナ(15)**は、毛布を握りしめながら、両親と弟の姿を探した。
「カナ、起きたのか」
父の**マシロ タカユキ(40)は、背が高くて眼鏡をかけた堅物。無表情で寒そうにコートを羽織っていた。
母のマシロ ユミ(38)は、疲れた目をして弟の体を抱いていた。
弟のソウタ(7)**はまだ眠っていて、頬は真っ赤だった。
テレビだけが、壁に食い込むように埋まっていて、そこにだけ光が差していた。
「この家族、選定完了」
機械のような声が響き、小屋の外の風が突然止んだ。
外に出た。
小屋のドアを開けた瞬間、その像が、目に飛び込んできた。
山の谷間。
真っ白な吹雪の中に、巨大なライオンの石像が座していた。
雪に半ば埋もれ、岩肌はヒビだらけ。
目だけが、氷のように青く光っていた。
無表情のまま、まるで世界を睨みつけるように。
「ようこそ」
声が、像から聞こえた……気がした。
でも風もないのに、空気が震えていた。
「命か能力を差し出せ」
「さすれば、お前たちに“生きるためのもの”を与えよう」
父が息を呑む音がした。
母がソウタを抱きしめる手に力を込めた。
私は……ただ、そのライオン像から目を逸らせなかった。
像の奥で、ライオンの顔をしたドローンが数機、音もなく空を巡っていた。
こっちを見ている。見ていないふりをして、全部見ている。
夜。テレビが、突然動いた。
「今日の犠牲者は、まだいない」
「明日から始まる。祈りを忘れるな。見下せば、命はない」
父は黙ったまま、コートのフードを深くかぶっていた。
母はソウタにミルクを作ろうとして、カップを落とした。
私はカップを拾いながら、母の手が震えているのを見た。
「……なんで私たちが選ばれたの?」
答えはなかった。
ただ、あの壊れかけの無機質なライオンが、明日もまた命令を繰り返すだけ。
家族の間には、言葉にならない絆がある。
それは今、冷たい小屋の中で、じっと暖かさを探している。
そして私は、ソウタの小さな手を握りながら、心のどこかでこう思っていた。
(“能力”って、なんだろう……?)