テラーノベル
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1話「ん~~っ」
長時間配信が終わり、グイッと伸びをして体を伸ばす。さてと、今日の夕食は何を食べようか。uberを頼むでもいいが、なんとなく今日の気分じゃない。かといってコンビニも少し違う。どうしよっかなぁ、なんて考えながら椅子の上でぐるぐると回る。
よし!決めた!
10分くらい散歩して、一番最初に見かけた飲食店に入ろう。そうと決まれば鍵と財布だけをもって勢いよく家を出る。
配信時間自体は長かったが、終わったのは20時過ぎだったのに加え、金曜日ということもあり、あたりの飲食店はだいぶ混んでいた。なんとなく目についた飲食店、というか居酒屋に入る。
がやがやと煩い中店員にお茶と焼き鳥を何個か頼んで暇つぶしにスマホでも見ようと探すが、そこでようやくスマホを忘れたことに気が付いた。まぁ、いいか。
注文したものを待っている間に人の少なかった店内もどんどんと混んできた。
「あのぉ、申し訳ないのですが、相席をお願いしてもよろしいでしょうか?」
おずおずとしながら近づいてきた店員の言葉にうなずく。ああも申し訳なさそうに言われてしまえば嫌とも言いづらい。
「いやーありがとうございます!」
向かいに座った男はいかにも最近の大学生ですと言った風貌で少し長めの髪を随分と派手な赤色に染めていた。髪の派手さでは俺もあまり人のことを言えないな、自身のベージュ色の髪を視界に入れてそんなことを考える。
「全然かまわないですよ」
「いや、にしてもお兄さんかっこいいですね!」
「どーも、」
若さって、すごいなぁ、なんてことを思ってしまう。なんか、グイグイと勢いがすごい。
そのまま軽い雑談なんかをしていたところでお茶と焼き鳥が届いた。
焼き鳥に口を付けてお茶を流し込む。別にまずくはない。だが、なんというか、
「びみょーでしょ?」
「そ、ですね」
「ここの焼き鳥ってビミョーなんすよね。うまいのは……あ!店員さんこれとこれと、あと生2つお願いします!」
「え、いや…….」
「お兄さんも飲みましょうよ!ここの生マジ美味いですから!」
そう押し切られてしまえば嫌とも言えず、酒はあまり好きではないのだが、一杯くらいであれば問題ないかと、了承する。
男の頼んだものは唐揚げとだし巻き卵というよくある物だったが、
「うま!」
「でしょ!ここのだし巻きってマジでうまいんですよ。酒との相性もいいし!」
「へー」
言われた通り酒を飲むと男の言うだけあって随分と飲みやすかった。
「お!いい飲みっぷりっすね!にしてもお兄さんほんとかっこいいっすね」
「そう?君こそモテそうだけど」
「いや、俺なんて振られてばっかですよ、ほんと」
「へー以外」
「お兄さんは最近どうなんすか?」
「んーまぁ、ぼちぼち?」
途中トイレに席を立つこともあったが、この男との会話もあって随分と楽しい時間になった。
次みんなで撮影するときに今日のことを話して友達いない認定を物色するとでもしよう。
食事も終わり、そろそろ会計に向かおうと立ち上がる。
途端、グラっと強烈なめまいが襲ってくる。
床についたはずの足はまるで泥を踏んだかのようにバランスを崩したが、床にぶつかる前に男の腕に抱き留められた。
「あ、飲みすぎちゃいました?」
口を開こうにもめまいが酷く、うまく、言葉が出てこない。
確かに酒にはあまり強くないが、かといって飲めないわけでもない。ビール1杯でこんな、足元がおぼつかなくなるほど酔っぱらうことなんてあるはずがなかった。
眠たくもないのに目がかすみ始める。がやがやと煩かった店内の音が随分と遠くに聞こえる。
「ここにいるのもあれですし、俺の家、ここから近いので、——そっち、行きましょうか…….」
頷いたつもりなどはなかった。ただ、意識の失う寸前、ガクっと力なく下に落ちた首の動きを、男は肯定と判断したようであった。
「あんな短時間で行けるもんなんだな。お前すごいな」
「や、なんかマジちょろかった」
「警戒心死んでんなー」
「てか此奴スマホ持ってないんだけど」
「ま?」
「ラッキーじゃん」
「んじゃまぁ、さっそくいただきますかね」
ぼんやりと覚醒しかけたまどろみの中、知らない男たちの声が聞こえてきた。このまま心地よいまどろみに身を任せ、もう一度眠ろうとしていた時。
ずんっと
「あ゛、え゛な゛、に゛?」
「お、お兄さんおはよー」
内臓を貫かれるかのような強烈な衝撃と息のできないような圧迫感に襲われ目を覚ます。
両手足共に押さえつけられていて、頭が回っていないこの状況では抜け出すこともできそうになく。たとえ抜けられたとしても相手が何人なのか分からないままではどうしようもなくて。だから、ただ、再び襲ってくるであろう衝撃に向けて、息を吐くことだけを意識する。その方が、つらくない。
「う゛っあ゛」
「お、いいね上手上手!」
楽しそうな声が聞こえてくる。
大丈夫、何も殺されるわけじゃない。
「てかお兄さんこういうの今回が初めてじゃないでしょ?ほぐすのそんな時間かかんなかったし」
それは、随分と前のことで、
「お、図星って感じ?」
もう忘れかけていたことで、
「んじゃぁ、遠慮しないでいいよね~」
忘れるはずだったこと。
それは、俺がまだ配信を始める前の勇者業をしていた時までさかのぼる必要ののある出来事で、
ある日いつも通りの日だった。別に、特別難しい仕事じゃなかった。最近急激に増えてきた山賊退治での出来事だった。
相手は30人と少しで多いわけでもなく、かといって特別強い奴らというわけでもなくて、ただ、ただ。少女が1人、襲われかけていた。
いくら俺1人が強くても、もしその少女を人質にでも取られたら怪我をなしにその子を救い出すのは幾分か難しくなってしまう。そう判断した。だから、代わりに俺の体を使っていいと言って、少女を逃がした。万が一にでもその子にこいつらが追い付かないように時間をかせいで、その後に1人残らず殺した。
「おれ?この状況でなんか考え事?随分とよっゆうっだね!」
「い゛っあ゛あ゛」
快楽なんかは一切なく、ただただ内蔵を揺さぶられる不快感と痛みだけがぼんやりとした脳の中に流れてくる。
力は、抜いたほうがいたくないから、声は、我慢しない方がつらくない。
「あ、こっち目線ちょーだい」
左側から声がして、反射的に振り向いてしまう。
「ちゃんと”カメラ”で撮ってるからさ」
ひゅっ、
「お!締まった!なになにお兄さん撮られるのが好きなの」
「ま゛っとまっって!」
「いや止まるわけなくない?後もつっかえてるわけだしっさ!」
今更抵抗しようにも、手も足もギチギチと音がしそうなほど強く抑えられていて、
「や、お兄さんほんと顔いいよね」
「俺がお兄さんだったら絶対顔出して配信でもやってるわ~」
それは、いつだかトルテさんにも言われたことで、
「次俺だからね~」
「いや、俺が先でしょ!」
「俺このまま2回戦行きたいんだけど~」
頭上での会話を揺さぶられながら聞く。
内臓を強く、内側から殴られる感覚に、吐きそうになるが、それを唇を噛んで、維持だけで耐える。
「あー、イく、っ!」
ぐちゃぐちゃと泡立つほど激しく腰を振られ、腰を跡が付きそうなほど強くつかまれる。ごつんっとまた奥の方を強く流られたと思ったら、腹の中に生暖かい何かが流し込まれてくる。
大丈夫、声の感じからして人数は3~4人ほどだから、あの時に比べたら全然少ない。長くてもあと、1、2時間すればこれも終わるはずだ。
ぐっ、と腹の奥が重たく軋む。
ようやく上から圧し掛かっていた体重が離れたと思った瞬間、汗ばんだ肌が太腿に触れた。
「はい次俺!」
「マジ顔綺麗だなこいつ」
何度目かも分からない衝撃に、視界がどんどん狭くなってくる。
「お兄さん、ほんと暴れないね」
「実は望んでたんじゃない」
「はは!ド変態じゃん!」
大丈夫、ゆっくり息を吐いて、力を抜いてさえいれば。
そんなことを繰り返しているうちに、時間の感覚が、どんどんとあいまいになっていく。
あれ、今何時間たった?
いま、何人目?
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる
思考が、まとまらなくて、とまらなくて、
意識が落ちそうになるたび、再び強い衝撃で目を覚まさせられる。
「んじゃ、お兄さんまたね!」
「撮ってあるから、忘れないでね」
「次は自分で準備してきてね~」
解放されたころ、空はもう白くなっていた。ようやく少し、体を動かせるようになったころ、床に落ちていた服を何とか着て財布と鍵を探す。中の処理をしなかったから、、下着にべしょっと、気持ちの悪い液体が着いてしまった。
幸か不幸か、その2つはすぐに見つかった。ベッドサイドの小さなテーブルの上。メモ用紙と共に置いてあった。
財布の中身を確認すると1円たりとも減っておらず、メモには場所と日時だけが端的に書かれていた。
『3日後、18時ごろ、この場所で、』
逆らったら、動画をばらされてしまうかもしれない。自分のことよりも他のメンバーたちのこともある。答えは、1つしかなかった。
コメント
4件
こーれ神作の予感です、、、(ΦωΦ)次回も楽しみにしてます!
うわ……これは重い。最初の何気ない日常が、ああいう形で壊れる展開、すごく生々しかった。主人公が「力を抜く方が痛くない」って反射的にやってるところに、過去にも同じような経験があったんだなって察せられて、読んでて胸が締め付けられた。カメラで撮られてるって気づいた時の「ひゅっ」って描写、一瞬で空気が凍ったよ。まだ1話だけど、この先どうなるんだろう……続きが気になる。