From.彰人
冬弥がてるてる坊主を作ってきた。
そのてるてる坊主は異様にでかく、薄汚れた翡翠色の布で作られていた。
「俺はてるてる坊主の作り方を知らなかったから、調べたんだ。」
「へぇ。言ってくれたら、教えたのに。」
まるで人の頭でも入りそうなサイズだな。
それにこの翡翠色の布、俺の大好きだった人がよく身につけてくれていたのを思い出す。
今は、元気だろうか。他のいい人に巡り会えただろうか。彼女には幸せになってほしい。
「きっと、彼女も幸せだろうな。」
冬弥は独り言のように微笑んだ。
「最期に彰人の役に立つことができるんだから。」
何の話をしてるんだ?
「このてるてる坊主、効果無かったら?」
俺は冬弥に問いかけた。
「その時は、首をちょんぎってゴミ箱に捨てよう。」
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From.類
青柳くん、成功したかな?
昨日、急に効果が強いてるてる坊主の作り方を聞いてきた時には驚いた。
僕は1度やって、効果があった方法を青柳くんに教えてあげた。
彼はすごく喜んで実践したみたいだ。
うんうん。このてるてる坊主の作り方は一石二鳥だもんね。
邪魔をするいらない奴を消せるし、彼を喜ばせることができる。こんなにいいサイクルはないよ。
失敗したらどうするかって?
そんなの、首をちょんぎってゴミ箱に捨てるさ。
司くんが僕のストーカーだったのには驚いたけど、言われてみればおかしかったんだ。
初めから僕の引越し先の住所を知っていたし、僕の生活習慣も全て把握しているような口ぶりだったから。
けど、司くんが僕のストーカーって事は、僕らは相思相愛なんだね。
司くん大好きだよ。ずっと一緒にいたいなぁ。どこへ行けば一緒にいられる?そうだ!2人で地獄にでも逃げようか。僕達が2人で行けば、きっと地獄ですら天国になる。
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From.彰人
「冬弥、今日の天気は晴れか?」
いつものやり取り。何度繰り返しただろうか。
「おめでとう。今日は晴れだ。」
俺は歓喜した。
「てるてる坊主がきいたのか?」
冬弥も嬉しそうに言う。
「ああ!苦労して作った甲斐があった。」
今日は冬弥と約束通り星を見に行こう。
今日で最後。全部、全部。こんな日々ももう終わり。
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From.冬弥
今日は晴れた。晴れたので、彰人と星を見に行く。
俺は車で、静かな山道を走っていた。
俺は運転免許を持っていないから、運転するのは彰人だ。
「彰人。どこまで行くんだ?」
「もっと奥。誰も来ない、星以外の光が差さない場所に。」
なるほど。それはいい場所だ。
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「着いたぞ。」
そこに広がっていたのは満天の星空に、先のない道。
「高所恐怖症だっけ?大丈夫だよ。今からそんなんもなくなるから。」
彰人は何を言っているのだろう。
「ほら見ろよ。やっぱ星が綺麗だ。」
星光に照らされた彰人の横顔は、美しかった。
「ああ、、とても綺麗だな。」
「だよな!」
彰人は屈託なく笑う。
「なぁ冬弥。俺さ、彼女にフラれたんだよ。」
「ああ。その話は聞いた事があるぞ。」
「なぁ冬弥。俺さ、知ってんだよ。」
「お前が紗代子と浮気して、別れさせたんだろ?」
なぜ分かった?いいや、分かった所で関係ない。紗代子は、もういない。
「酷い話だ。紗代子はその後、お前にも捨てられちまって。挙句の果てに、死ぬんだから。」
彰人、てるてる坊主の中身を見たのか。失態だ。
「でもさ、やっぱ紗代子は首だけのが綺麗だったわ。」
俺は耳を疑った。
「ずっと思ってた。俺、変なんだって。好きになったやつ全員、首だけにして保管したいって。」
彰人は何を言っている?何の話だ?
彰人は正常なはずだ。少なくとも、俺や神代先輩、司先輩の中では。
正常とはなんだ。おかしいとはなんだ。そもそも、正常な人間なんているのか?それとも、俺が正常なのか。
「そんな顔すんなって。冬弥は別に、首だけにはしないからさ。」
この状況でも笑顔な彼は正常なのか。動揺している俺が正常か。
「俺さ、どうやって復讐するか考えたんだ。」
復讐?俺はこれからどうなるのだろう。これが、彰人から紗代子を奪った代償か。
「俺よりも先に紗代子を殺したのは、許せない。あの美しい姿は、俺だけのものになるはずだったのに。」
彰人は怒りを一生懸命抑えているようだ。
「でも、俺は冬弥が大好きだったんだ。だから考えた。あの無機質な部屋で、気が狂うほど。」
桑の実に星光が反射して煌めいた。
「冬弥は俺が大好きなんだろ?だから、俺はお前に俺を殺させる事にした。」
彰人は俺の手を掴み、抱き寄せた。
「この崖、落ちたら死ぬ。」
「…見れば分かる。」
彰人はケラケラ笑う。
「ここら辺かな。ほら、冬弥。押せよ。」
「……嫌だ。彰人が落ちてしまう。」
「ばーか。落とせって言ってんだよ。」
「…俺には、無理だ。それに、足が竦んで動けない。」
彰人は呆れながら俺の腕を離した。
「だったら、こうするか。」
彰人は俺を抱きしめた。とても温かい。心地いい。ずっと、このままで…
「今から、俺は落ちる。だが、1人では落ちない。お前も連れてくからな。」
彰人が可愛らしくて、つい笑みが溢れる。
「彰人、それでは復讐にならないぞ。俺も、それを望んでしまっているんだから。」
「…なら、それでもいい。復讐はやめだ。」
彰人は後ろに体重をかけた。
「んじゃ、ここでずっと一緒…だな。」
「ああ、ずっと一緒だ。もう離す気は無い。」
「彰人、愛している。」
「…ははっ。」
「ほら見ろよ。星が綺麗だなぁ。」
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コメント
9件
星が綺麗ですねって、あなたの気持ちは届かないって意味があるの!?(他の方のコメント見た人)もうなにからなにまで神すぎや…
「星が綺麗ですね」ってそういう事か……あかまるさん流石ですね、、。 私だったらそんなこと咄嗟に思い出せない…。。 神代くん、なんか意味深な言葉を置いてフェードアウトしたけど、なんだろう。。。