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#前世
shima7a
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第97話 「初めての夏」
2025年7月。
蝉の鳴き声が球場に響く。
第107回福岡大会。
開幕。
柳城高校。
新主将・山下大地が先頭に立ち、堂々と入場行進を行う。
スタンドからは拍手が送られる。
バックネット裏。
氏原記者がその姿を見つめていた。
「今年も始まったな…。」
その隣には舞の姿。
大学を卒業し、小学校教師となった舞は、久しぶりに柳城高校の試合を観戦に来ていた。
「今年はどう思います?」
舞が尋ねる。
氏原記者は笑う。
「まだ分からん。」
「でも、福間監督のチームは夏に強くなる。」
試合開始。
一回戦。
柳城高校。
対戦相手は東陵学院高校。
柳城の先発は三年生エース・山本悠真。
初回。
落ち着いた立ち上がり。
三者凡退。
三回。
柳城が先制。
山下のヒットを足掛かりに一点を奪う。
1対0。
五回。
さらに追加点。
3対0。
柳城ペースで試合は進む。
しかし七回。
東陵学院が反撃。
連打で一点。
なおも一死二・三塁。
一点差となり、一打逆転の場面。
球場がどよめく。
福間監督はベンチ前に立つ。
タイム。
主審へ合図を送る。
グラウンドへ向かったのは、伝令役の控え投手だった。
ベンチで福間監督が短く伝える。
「山本に伝えてください。」
「下を向くな。」
「腕を振るだけです。」
隣にいた啓介部長も一言添える。
「自分の一番いい球を信じろ。」
伝令の選手は大きく頷き、マウンドへ走る。
山本へ言葉を伝える。
山本は深く息を吐いた。
そして帽子のつばに触れる。
伝令がベンチへ戻る。
試合再開。
初球。
内角へのストレート。
詰まらせた。
ショート正面。
6―4―3。
ダブルプレー。
ゲームセット。
柳城高校。
3対1。
初戦突破。
校歌が球場に流れる。
選手たちはスタンドへ一礼した。
試合後。
ベンチ裏。
啓介は静かにスコアブックを閉じる。
「部長。」
山下が声を掛ける。
「ありがとうございました。」
啓介は首を横に振る。
「今日勝ったのは、お前たちだ。」
そのやり取りを福間監督が見ていた。
球場を後にするバスの中。
福間監督がぽつりと話す。
「啓介。」
「はい。」
「部長は、選手より目立ってはいけません。」
啓介は監督の方を見る。
「選手が主役です。」
「私たちは、その力を引き出すだけです。」
その言葉を聞いた啓介は静かに頷いた。
「はい。」
部長として迎えた初めての夏。
一勝の喜びよりも。
指導者としての責任の重さを、啓介は改めて感じていた。
柳城高校。
夏は、まだ始まったばかりだった。
第97話
コメント
1件
第97話、お疲れ様でした!夏の開幕、初戦の緊張感がひしひしと伝わってきました。伝令で「下を向くな」「腕を振るだけです」と送り出す場面、シンプルだけどすごく心に響きました。自分の一番いい球を信じろ、って言葉も好きです。試合後の啓介と福間監督のやり取りも、指導者としての覚悟がにじんでいてぐっときました。舞さんが小学校の先生として戻ってきていたのも、時の流れを感じさせてほっこりしましたね✨ 夏はまだ始まったばかり。続きが楽しみです!