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#探偵
橘靖竜
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おだんご🍡
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古代エジプト文明はなぜこんなにも自分を魅了してやまないのだろう。石上月呼(いしがみつきこ)は二十一年間の人生でいつもそう思っていた。
小学二年生の時、家族でエジプト旅行したのをきっかけに、ピラミッドの謎に惹かれる。その後は猛勉強の末、エジプト考古学が学べる大学といえば、の大学に進学した。ナイルの水を飲んだ者は再びナイルに戻ってくるという諺があるように、月呼も大学の授業の一環で何度もエジプトを訪れる。
尊敬する人物はジャン=フランソワ・シャンポリオン。もしも過去にタイムスリップできるなら、ピラミッドの建築に参加したり、シャンポリオンに会いたい。現在、大学三年生の彼女は大学院に進学して研究者になりたいと考えている。
二月一日の夜。昼間から出かけていた月呼は歩いて自分の家まで帰る。
「ただいま」
大学が春季休業中の今は、毎日のように図書館やカフェを利用して、実測図や卒業論文を書いていた。
月呼は五人姉弟の長女で、四人の弟がいる。高校卒業後も親元を離れず、神戸市内にある大学へは実家から通っていた。姉弟ひとりひとりに部屋がある一戸建てでも、七人家族ではややせまく感じる。男兄弟が多いと家はいつもにぎやかだ。
一家全員が集まる夕食の席。今夜は久しぶりのすき焼きだった。
「やったー! すき焼きだ!」
石上家の場合、すき焼きはごちそうの部類に入る。月呼の弟たちはこぞってよろこんだ。月呼も高級肉に心が踊る。
「今日はあんたたちに大事な話があるの」
母の空美(そらみ)が言った。空美が自分の子たちの前で改まって話すのはめずらしい。ごはんを食べることに夢中だった、月呼を含めた子ども全員の顔が上がる。
「お父さんの会社、倒産することになったから」
空美が淀みなく言った。父親の睦洋(むつひろ)は否定せず、うつむいている。
「と、倒産!?」
月呼は動揺した。十年前、一家が広島県から移住し、両親がパン屋をはじめて以来、それなりに順調だと思っていたからだ。現在、店は二店舗まで拡大している。経営がうまくいっていないとも聞いておらず、両親が大変そうな様子もなかったので、月呼にとっては寝耳に水である。
「父さんの会社が倒産」
末っ子の詞央(しお)が言った。小学五年生の彼はことの重大さがまるでわかっていない。
「詞央、なにもおもしろくないよ」
今それを言うのは不謹慎だと、長男の量汰(りょうた)が注意した。彼はサッカーひとすじの高校二年生である。
「なんで倒産するの?」
三男の鞘人(さやと)が両親に聞いた。中学一年生の彼は長男の量汰と同様、毎日サッカーの練習に明け暮れている。
「材料費や光熱費が高騰するたびにしぶしぶ値上げしてきたけれど、限界がきたのよ。客足も遠退いていって、悪循環に陥っていたわ。毎月の家賃を払うのも苦しいくらいにね。理由はひとつだけじゃない。たくさんあるわ」
「お父さんの作るパンが、世界でいちばんおいしいのに」
月呼は店の常連客の顔を思い浮かべる。個人経営の店でありながら、どこの店のパンよりおいしいと、度重なる値上げでも足しげく通ってくれる客も少なくない。月呼としてはそういった人々に店のパンをもう食べてもらえなくなることがショックだった。
「本当になんとかならないの?」
鞘人が両親の顔を交互に見ながらたずねる。
「そうだよ! 俺、もっと手伝うから。なんならタダ働きでいい」
量汰もつづけてしゃべった。
「なにを言っているの。あなたは来年度から受験生でしょうが」
次男の歳之(としゆき)はずっと黙っている。他の男兄弟三人がサッカー部に所属している中、彼だけは陸上部だ。姉弟の中で眼鏡をかけているのも彼のみ。
「雇っている従業員のためにも、倒産という選択が、今できる最善の選択だと思っている」
睦洋がかけている眼鏡を手でおさえながら、空美のかわりに答えた。いや、本来ならばオーナーの睦洋が言わなければならないところだろう。睦洋は口数こそ少ないが、風邪すらひかないくらい丈夫で、弱音も吐かない。月呼は無敵だと思っていた父親の口からそのセリフが出たことが悲しかった。
「まあ、なんとかなるわよ。『石上家、前に進むのみ』よ」
それはこの家の家訓だった。どんな困難が起ころうとも立ち止まらずに歩き進める、という思いがこめられている。
「あんたたちはなにも心配しなくていいからね。これより大変な時期はあったんだから。そうね、あれは月呼が生まれるより前のことかしら――」
空美は気丈に振る舞う。
「自己破産するの?」
量汰が聞いた。高校生の彼には多少の知識がある。月呼はそのワードにどきっとなった。
「ジコハサン……?」
その言葉が初耳の詞央はきょとんとしている。
「うちはこれからどうなるの?」
鞘人は姉弟一うろたえていた。
「まだはっきりとは言えない。そのへんは弁護士の先生に相談するから」
「お父さんとお母さんが決めたことだ。きっとなにか挽回の手があるんだろう。俺たち子どもがそれを信じてやらないでどうする」
それまでずっと黙っていた歳之がそこで初めてしゃべった。両親が決めた方針をここで否定してもきりがないと悟っているのだろう。中学三年生の彼は受験生でもある。大事な時期を過ごしている困る歳之がそう言ったことで、他の男兄弟に落ち着きを取り戻させる。
そこで、深刻な話は終わった。その後はみんなで鍋をつつきながら、なにもすき焼きの時に言わなくてもと、石上家ならではの明るさで笑い話にすら変える。
コメント
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えっ、第1話から家族の会話がリアルすぎて泣きそうになった😭💔 パン屋さんのお父さん、めっちゃいい人そうなのに…「世界でいちばんおいしい」って思ってる月呼ちゃんの気持ちが痛いほど伝わってくるよ… でも歳之くんの一言でピリッと締まる感じ、さすがすぎる! 後の展開が気になりすぎる〜!!✨