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猫塚ルイ

お礼の前に、ついつい毒づいてしまう。
私の反応にどきりとしたのか、笑顔が一瞬崩れ去る。これは、まさか。
「あれほど言ったのに、もしかしてまた玩具も買ってしまいました!?」
私が休みの日に、一緒に赤ちゃん用品を買いだししていたが最近はお腹が重くて長距離の車の乗車とかできなかった。
その間も、デイビーは仕事帰りや休日に赤ちゃんの玩具やベットやら自動ゆりかごやら買っていたようで。
久しぶりに行ったデイビーの家は、未開封の玩具や洋服、色んなインテリアで溢れかえっていたのに。
「違うよ、今日は寒くないように子供用のポンチョを」
「この子が生まれる時はもう春ですよ。寒くありません」
いくら家が広くても、赤ちゃん用の部屋の壁際には玩具入れ三つにぎゅうぎゅうに玩具が入っている。
しかも絶対良い玩具ばかりだし、このカシミアのストールだって絶対にブランド品だ。
「今度相談なしで買ったら、もうおやすみなさいのキスしませんから!」
「そんな」
蒼ざめるデイビーの背中を、人差し指で何度もツンツンつついて威嚇しておく。本気だぞ、と。
隙あらばいちゃいちゃしたがる彼にはこれが一番ダメージが大きいのはもう分かっている。
愛情表現豊かな彼には、これぐらいの戒めは必要なはずだ。
愛情表現も無駄使いも大胆で私一人があたふたで。
それでなくても、デイビーのお給料の明細とか見せられても、それが多いのか少ないのか良く分からないし、人に簡単に言える相談ごとではない。
前に一度幹太さんに相談したら、管理できないなら任せた方がいいとまで言われたけど。
「お母さん、デイビーったら」
居間へ早歩きで向かいながら、母に注意してもらおうと大声でそう言う。
デイビーは大きな身体を小さくして私の後ろを着いてきている。
「何です、はしたない。夕食なら、今、火を入れて頂いています」
背筋をぴんと伸ばし、首元を窮屈そうに閉めた着物を着て、冷たい言葉は相変わらずなのだけど。
母の前には、色鮮やかな反物が。
「お母さん、それは?」
母が着るには少し派手というか元気過ぎる色ばかりだけど。
「男の子だったら美一さんの着物から色々作ってあげられるけど、女の子のは貴方たち二人がもう着汚していますから」
「つまり、買ったんですね……」
ゴホンと咳払いし、母は落ち着かない様子で頷く。
この前も、生まれて一か月してお参りする時の着物だとかに、と私やデイビーの着物もオーダーメイド中なのに。
「お義母さんも、美麗のキスが貰えなくなりますね」
「デイビー!」
「お待たせいたしました」
ナイスタイミングで現れた神のような立花さんと美鈴が夕食を運んでくれた。今日のメニューは、いつものしっかりした和食ではないので美鈴作のようだ。
私とデイビーの前に、小さな土鍋がそれぞれに並ぶ。
「今日は、豚肉と白菜のミルフィーユだよ。私の自信作!」
お鍋を開けると、おだしの中に交互に並べられた白菜と豚肉が。
なんとか匂いで悪阻は起きなかったから食べれそうだ。
「ポン酢であっさり食べたら、美麗さんにも食べやすいからと」
「ありがとうございます」
悪阻で食欲がなかなか戻らなかったので嬉しい。
「お姉ちゃんの荷物、取りに行くついでに幹太さんの4月の季節メニューの試食させてもらっちゃった」
上機嫌な美鈴に、母が複雑そうな顔をする。
気づかれないように、反物を両手に抱いてそそくさと席を立ちながら。
母も美鈴の気持ちに気付いている。
気づいているけど、見ないふりするんだ。
幹太さんはあの家の跡取りだけど、職人だから表の仕事は全部小百合さんみたいに奥さんがするもんね。
母の跡を継ぐと決めた美鈴には、その選択を選べない。
それが分かっていても、美鈴は自分の居場所が欲しくて跡取りに立候補したのだとしたら。
上手く歯車が回ってくれない。
ご飯は美味しくて、久しぶりに全部完食したのに、なんだか満たされない思いが胸を締め付ける。
デイビーのお陰で確かに私たち家族のわだかまりは消えつつある。
けれどすれ違っていた時間はあまりに長過ぎて、未だにどこか少しぎこちない。
後は美鈴と母の問題だから、おせっかいはできないけど。
「締めにうどんにして卵を入れたら、美味しかったですね」
お腹を擦り、満足そうに笑うデイビーに私もつられて微笑む。
「そうですね」
「きっと、赤ちゃんも今頃美味しいと食べていますよ」
「ふふ」
そうだとしたら嬉しい。
一緒に同じ気持ちを共有していけるのなんて幸せなことだ。
「どうしてこう、複雑に絡み合うんでしょうね」
誰も来ないことを確認してから、デイビーの腕の中へもそもそ侵入した。
そうすると、デイビーは嬉しそうに後ろから抱き締めてくれる。
一時期は後ろからのデイビーの体臭や香水にさえ悪阻が起きてしまっていたから申し訳なかった。
けれど、今はこの体温が暖かくて嬉しい。三つの心臓が重なり合いながら、共に同じ時を刻んでいる。
「その中で、幸せになる為に賭けるんですよ。自分の運命を」
「デイビーはそうかもしれないけど」
「ただ私は負ける賭けはしないだけです」
後ろで髪を撫でながら、デイビーは簡単にそう言う。でも、彼だからこそ、この入り組んで複雑なうちの事情を知らない彼だからこそ、私をさらってくれたんだと思う。
「賭けで楽しく、甘い時間を手に入れるのは、自分の運命であり実力だからこそ面白い」
「デイビーのそんな所、すごく羨ましいです」
何でも前向きにとらえて、楽しい場を提供してくれる。
だから貴方と二人きりの時は、空気が甘くて、私は満たされるんだ。
「美麗も頑張っていますよ。自分なんて何もないと泣いていたあの日が嘘みたいです。
書道も習いたいけど、御店も手伝いたいとこんなに日々吸収しようと頑張っている。頑張り過ぎてから回っても可愛いし、失敗して落ち込んでも泣かなくなった姿も食べたいぐらい可愛いですし、あと大きなお腹でポテポテ歩く姿が危なっかしくて愛おしいです。あと、可愛い」
「……デイビー」
「私の人生全てを賭けて幸せにします」
さっきの台詞は後半はただただ可愛いとしか言ってないような気がするんだけども。
素直に嬉しいと思う。
私の姿をそう思ってくれる人がデイビーで本当に良かった。
私もこの気持を伝えたいし、もっともっと気持ちを貴方へ届けたい。
だから私も自分の人生全てを賭けて幸せになってみせる。
「ストール……本当はとても嬉しかったよ」
「じゃあ、この桜の木にいつ花が咲くか賭けましょうか」
雪が溶けて、まだ濡れて輝いている桜の木を見上げて、デイビーはそう言う。
「そうですね。何を賭けますか?」
ふふと自信ありに私が笑うと、デイビーも自信満々に微笑み返してきた。
「そうですね。行ってきますのキスも毎日お願いしてもらいたいです」
「分かりました。私が負けたら、ですけどね」
お腹を擦りながら、私も不敵に笑う。
ふふ。私だって楽しく、賭けをしてあげるんだから。
「美麗は?」
「私は」
後ろをちょっとだけ振り返り、右手を耳元に寄せると小さく答えた。
――父やデイビーみたいな優しくて暖かい雰囲気の男の子が欲しいです。
後ろに私ごと倒れたデイビーは、いつもの余裕な顔で、甘い言葉を呟かなかった。
私がそんな大胆な言葉を言って腰でも抜かしたのかと起き上がろうと上半身を浮かした瞬間、デイビーが先に起き上がる。
私を見下ろすデイビーの顔は、極上に甘くそして真っ赤で優しい顔つきだった。
「煽った貴方が悪い」
「デイビーがどんな顔をするのか、賭けてみたんです」
驚いてうろたえてくれるかと思ったのに。
「じゃあ、私は初めて負けましたか?」
「いいえ。予想以上に嬉しい表情をしてくれました」
畳に流れおちた私の髪を、指でくるくると掬い、口元に持ってくると深き口づけを落とす。
その色っぽい唇が、好き。触れて欲しくなる。
「じゃあ、桜が咲く賭けは私も負けても勝っても幸せだからどちらでも嬉しいです」
――私もです。
だから、いっぱいキスしていっぱい抱き締め合って、もっともっと甘い恋の賭けをしよう。
優しくデイビーの唇に触れると、手首を捕まえられてそのまま捕われるように甘いキスをした。
ずっとずっと甘い賭けの中にいるような、捕えて離さない優しいキスを。
コメント
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第51話読み終わりました!デイビーの過保護溺愛が可愛すぎる…「キスしませんから!」の脅しに蒼ざめる姿笑ったw でも美鈴と母さんの関係が気になる展開で、美味しいご飯を食べても胸が満たされない美麗の心情にグッときた。最後のデイビーの甘々な言葉に癒されたけど、複雑な家族事情がちゃんと描かれてて良かったです!