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#探偵
橘靖竜
5,493
その言葉が、妙に頭に残った。『俺しか見てないとこで』
家に帰っても、風呂に入っても、ベッドに寝転んでも。
ずっと耳の奥で反響している。
気持ち悪い。
……なのに少し安心する自分が、もっと気持ち悪かった。
スマホが震える。
榊からだった。
『起きてる?』
時刻は午前一時過ぎ。
既読をつけるか迷っていると、追加で通知が来る。
『外見て』
嫌な予感がした。
カーテンを少し開ける。
街灯の下。
榊がいた。
「……は?」
黒いパーカー。
片手にコンビニ袋。
こっちを見上げている。
心臓が変な跳ね方をした。
『散歩しよう』
意味が分からない。
でも断れる気もしなかった。
二十分後。
俺たちは深夜の川沿いを歩いていた。
虫の声と、水の音だけがする。
「お前さ」
俺は前を向いたまま言う。
「距離感おかしいよ」
「そう?」
「普通、家来ないだろ」
「行ったら出てきたじゃん」
「……」
榊は少し笑った。
「お前、頼まれると断れないよな」
「別に」
「そこ、嫌い」
どきりとした。
「誰にでもそういう顔する」
「は?」
「佐野にも、先生にも」
街灯の光が、榊の横顔を白く照らす。
「でも」
榊がこちらを見る。
「俺には、ちょっと違う」
視線を逸らした。
心拍がうるさい。
「……何言ってんだよ」
「分かってるくせに」
その時。
足元で、ぐしゃり、と音がした。
見ると、濡れた紙が落ちている。
プリントだった。
水に濡れて文字が滲んでいる。
榊が拾い上げた。
「……あ」
思わず声が漏れる。
見覚えがあった。
去年の校外学習のしおり。
しかも、俺の名前が書いてある。
「なんでこんなのが……」
榊は答えない。
ただ、しおりをめくる。
最後のページ。
滲んだ文字で、何か書かれていた。
『見てるだけなら、お前も同じだから』
背筋が凍った。
「……これ」
声が震える。
「俺の字じゃない」
「うん」
榊は静かに言った。
「水野の字」
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