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その言葉が、妙に頭に残った。『俺しか見てないとこで』
家に帰っても、風呂に入っても、ベッドに寝転んでも。
ずっと耳の奥で反響している。
気持ち悪い。
……なのに少し安心する自分が、もっと気持ち悪かった。
スマホが震える。
榊からだった。
『起きてる?』
時刻は午前一時過ぎ。
既読をつけるか迷っていると、追加で通知が来る。
『外見て』
嫌な予感がした。
カーテンを少し開ける。
街灯の下。
榊がいた。
「……は?」
黒いパーカー。
片手にコンビニ袋。
こっちを見上げている。
心臓が変な跳ね方をした。
『散歩しよう』
意味が分からない。
でも断れる気もしなかった。
二十分後。
俺たちは深夜の川沿いを歩いていた。
虫の声と、水の音だけがする。
「お前さ」
俺は前を向いたまま言う。
「距離感おかしいよ」
「そう?」
「普通、家来ないだろ」
「行ったら出てきたじゃん」
「……」
榊は少し笑った。
「お前、頼まれると断れないよな」
「別に」
「そこ、嫌い」
どきりとした。
「誰にでもそういう顔する」
「は?」
「佐野にも、先生にも」
街灯の光が、榊の横顔を白く照らす。
「でも」
榊がこちらを見る。
「俺には、ちょっと違う」
視線を逸らした。
心拍がうるさい。
「……何言ってんだよ」
「分かってるくせに」
その時。
足元で、ぐしゃり、と音がした。
見ると、濡れた紙が落ちている。
プリントだった。
水に濡れて文字が滲んでいる。
榊が拾い上げた。
「……あ」
思わず声が漏れる。
見覚えがあった。
去年の校外学習のしおり。
しかも、俺の名前が書いてある。
「なんでこんなのが……」
榊は答えない。
ただ、しおりをめくる。
最後のページ。
滲んだ文字で、何か書かれていた。
『見てるだけなら、お前も同じだから』
背筋が凍った。
「……これ」
声が震える。
「俺の字じゃない」
「うん」
榊は静かに言った。
「水野の字」