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教壇に立っていたシスターが分厚い本をパタンと閉じる。目の前のシスターは、にっこりと笑ってこちらを見る。
「これが、この島の火の国、水の国、風の国に伝わる共通の伝説です」
「それって嘘だろ」
ちゃんと話を聞いていたが、頬杖をついてしまうほど面白くはなかった。これが架空の話なら、昔の人が後世に戦いは良くないと伝えたくて作ったんじゃないかとしか思えない。
反面教師みたいな
「これは本当の話だと言われているわ。現に、この島には妖精がいたとされる遺品がいくつか存在しているの。
みんな、この島の中央にある湖には入ってはならないと大人に言われたことはない?」
「いつも王様が私たちによく言ってるよね」
シスターの質問に、教会の中にあるこの教室に通う子どもが反応した。
ここの教室には、6歳から10歳の子どもが通っている。
「そうね、王様はいつも言うわね。あの湖には神様が眠るとされていてね、湖のほとりにある木の幹に一部きれいな苔があるの。
そこには、水の妖精アクアが座っていたのではと言われているわ」
「そんなのただの伝説だ」
「先生、シオンは風の民なのに、魔法が使えなくていじけてるんだよ」
俺がそっぽ向けば、その横で俺と同じくらいの歳の子が俺に悪態をつく。
「違う!俺は迷信を信じないだけだ。目に見えないものなんて、あるはずないんだ」
「目に見えるものばかりが本当とは限らないのよ」
俺が反論の言葉を口にすると、シスターは教壇から俺の席の方に歩き出して座る俺と同じ目線に合わせると諭すように俺に言葉をかける。
「またこの話は明日にでもしましょうか。そろそろ皆さん帰る時間ですよ」
俺に向かってにっこり笑って立ち上がり、シスターは教壇の方へ戻る。
そしたら、みんなが帰る準備を始め、鐘がなると一斉に教室から出て家路に着く。
取り残されたのは、俺とシスター。
「そういえば、手紙が届いていたわよ。来週末は、リオン王子の成人式ですって。シオンも準備しないと」
「俺には関係ない」
「まーた、拗ねてる」
「拗ねてない」
シスターは、教壇で片付けをしながら俺に喋りかけていた。
「レオナが寂しがるわよ」
「アイツだって、俺が帰ってこなくて清々してる」
「そんなわけないわ。だってあの子はすごく寂しがりなんだから」
「…」
「ほら、気にしてるんじゃない。明日私は風の国へ行くから一緒に行きましょう」
俺はコクリと頷いて、片付けを終えたシスターと一緒に教室を出た。