「日本もまさか、湾華に名演技者だと思われるとは思ってもいなかったでしょう。アル」
そんな‘中華’の言葉には所々雑音が入り混じっていたが、その声は確かに聞こえた。
そんな時、どこからかクスクスと小さな笑い声が聞こえた。
顔を上げた日本は、目尻に残った涙を指で拭い、口元を笑わせていた。
「……あははっ、流石湾華さん。いつからお気づきで?」
日本の声は、先ほどまでの怯えて震え上がり動揺と涙が入り混じったものではない。鈴が転がるように軽やかで、それでいてどこか酷く冷たい。
「だってさぁ〜、幾ら書き易いからって、出し過ぎだよ。それに、善人過ぎるからさ」
その表情は、日本を皮肉を込めた視線で見つめ、その演技に騙され続けた彼らを嘲り笑った。
「日本ッ……!お前ッずっと俺たちを騙していたのか!?」
驚きと、信じたくないと言う想いからか、アメリカは勢いに任せて日本を詰め寄った。
「騙した?人聞きが悪いですね。私はただ、皆さんの理想のままでいただけですよ。まぁ、そうとも言えるかもしれませんがね」
そう日本が無情に告げた時だった。
『ちょっと待ちなさいよ!!私の半年を水の泡にする気?!最後まで手を抜かなかったと言うのに!?!エンディングも準備したのに?!!?。』
GMの口からとんでもない言葉が飛び出た。
その声は、愛華のものではない。誰か別の者の声であった。
[あ〜、あ〜。お〜い!全員帰っておいで〜]
そう告げた声もまた別の誰か。これは、全員が知るあのドール。
鈴を転がすような声とは別に、とんでもない性格をしているドール。そう、鈴華だ。
そんな鈴華の声を幕引きに、全員の視界が開けた。
目の前に広がった景色は、いつもの会社のいつもの会議室であった。
広々としており、中央には長机が。窓からは黄金色の夕陽が差し込み、会議室を朱く照らしている。
一番奥には、大きなホワイトボード。
そこには、デカデカと【1周年大感謝!】の文字が記されている。
一番端。ホワイトボードの方から見て、すぐのところの左側に日本が。そこから時計回りに、ドイツ、中国、ロシア、湾華、王華、独華と続き、鈴華、炎端、中華、アメリカ、カナダ、フランス、イギリスと、全員が揃っている。
そして、ホワイトボードのすぐ近く、GMが立っていた所には、ノートパソコンとにらめっこをしている、エストニアのドール、共華がいた。
「徹夜して仕上げたのにっ!シスコンを甘く見てた!」
頭を抱えながら共華は声を漏らす。
「Huh? No, what?」
「Hä? Nein, was?」
処刑されたり、奇襲を受けたり、そんな者たちが今ここにいると言う状況に、アメリカと独華が声を重ねて情けない声を出す。
声を出せただけまだ良い方だろう。ロシアやフランスは硬直してしまっている。
「中華をAIに代行させたのが仇か…?いやしかし、本当に中華を出したら嘘をつくのが下手すぎてすぐにやられかねなかったし……」
悶絶している共華を横目に、中華と鈴華がなんと説明すれば良いか悶々と考え出していた。
全ての始まりの時は今朝。
会議室で鈴華が真剣な表情でおもむろに言葉を発した。
「だいたいこのぐらいで、1周年なんだよ」
「何が1周年なんだ?」
「兎に角1周年なんだよ!」
鈴華はそんな独華の質問にまともに答えず押し切った。
「で、この共華が奮闘して作ってくれた超没入型VR(バーチャル・リアリティ)で、ゲームをしようって事になった訳」
回想にしてはあまりにも短く終わり、鈴華の一言で締めくくられた。
「いやいやいやいやいや!兎に角であんな恐ろしいもんやんなよ!!」
やっとの事で理解の追いついた独華が全力で首を横に振って全員の心情を代弁した。
「でもまぁ、ふだん見ないみんなの顔を見れたし、いいじゃん?」
「よかねぇよ!!」
全力で独華がツッコミを入れた時、会議室の扉が開いた。
「祖国様、お迎えにあがりましたよ」
そこに立っていたのは、いつも通り和服を着ている愛華だった。その姿にほぼ全員が安堵のため息をついたのは言うまでも無い。
「姉さ〜〜んっ!」
そんな愛華に飛びついた鈴華が問答無用で跳ね返されたのもいつもの事である。
「鈴、何があったか簡潔に説明しろ」
共華のブツブツと長く続く独り言と、安堵のため息をつく周囲の者たちの姿を前に、愛華は笑顔の圧を込めて訊ねた。
そうして鈴華が例の如く正座をして愛華に説明をし、全員に土下座をしたのは言うまでも無いだろう。
「大変申し訳御座いませんでしたぁぁぁぁぁっ!!」
そんな鈴華の絶叫にも似た謝罪を横目に、炎端は既に興味を失ったように会議室を出ていた。
ーー完結ーー






