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その日は、
静かすぎた。
メッセージも、
通知も、
いつもより少ない。
嫌な予感は、
だいたい当たる。
「……来るって」
ジュンの声は、
低かった。
場所は、
店の外。
人の目がある、
でも逃げにくいところ。
——線を引くには、
ちょうどいい。
彼女は、
もう“慣れている”顔をしていた。
泣かない。
責めない。
怒らない。
「分かってるから」
それが、
一番危ない言葉。
「忙しいの、知ってる」
「無理させたくない」
「でも」
一拍。
「待つくらいは、いいよね?」
声は柔らかい。
優しい。
——逃げ道が、ない。
ジュンは、
一瞬だけ迷った。
その“間”が、
全部を決める。
わたしは、
何も言わない。
助けない。
ここは、
一人で立つ場面。
「……違う」
ジュンが、
言った。
声は、
仕事用じゃない。
「待たせるつもりは、ない」
彼女の目が、
少し揺れる。
「でも、分かってるって——」
「分かってない」
言葉を、
重ねない。
逃げない。
「俺は、
君の期待には応えない」
一拍。
「これからも、
応えない」
空気が、
凍る。
「ひどいね」
彼女は、
笑った。
でも、
その笑顔は崩れている。
「そんな言い方、
しなくても」
——ここ。
「嫌われてもいい」
ジュンは、
はっきり言った。
「これ以上、
勘違いさせたくない」
沈黙。
遠くの音。
彼女は、
何も言わずに背を向けた。
足音が、
遠ざかる。
長い、
沈黙。
ジュンは、
その場から動けなかった。
「……これで、いい?」
小さな声。
わたしは、
一度だけ頷く。
「それが、
一番優しい」
帰り道。
ジュンは、
ぽつりと言った。
「嫌われるって、
こんなに重いんだな」
「でも」
少し間。
「逃げなかった」
それだけで、
十分だった。
その夜。
メッセージが、
一通届く。
ジュン
嫌われた。
既読は、
つけない。
代わりに、
短く返す。
R
それでいい。
嫌われる言葉は、
強い。
でも。
曖昧な優しさより、
ずっと誠実だ。
それを言える大人は、
多くない。
だから。
この夜を越えた人だけが、
次に進める。