テラーノベル
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編集は、
いつも同じ手順。
窓を閉める。
カーテンを引く。
音を切る。
——確認しすぎだと、
自分でも思う。
でも、
一度でも
「大丈夫だと思った場所」で
何かが壊れると、
人は戻れなくなる。
だから。
今日は、
作るのが面倒だった。
スーパーで、
半額になっていた惣菜を一つ。
唐揚げ。
少し冷たい。
明日のお弁当用に買った
ほうれん草を、
そのまま皿に添える。
洗い物を増やしたくないから、
皿は一枚だけ。
箸を動かしながら、
編集画面を開く。
——誰にも、
何も言われない。
画面の中のわたしは、
制服を着ている。
無害そうで、
よくある。
コメント欄は、
それを信じている。
《Rの言葉、優しい》
《救われた》
《分かってもらえた気がする》
わたしは、
その文字を読まない。
話すのは、
いつも同じ。
否定しない。
怒らない。
断罪しない。
「つらかったね」
「それは、苦しかったと思う」
声のトーンも、
一定。
——共感。
それを、
求めているのは誰か。
共感は、
安心させるためのものじゃない。
行動を、
こちらに寄せるためのコード。
それを、
知っている。
知ってしまった。
配信を切る。
画面が暗くなる。
唐揚げは、
もう冷めている。
レンジに入れ直すのも、
面倒で。
そのまま、
口に運ぶ。
一人になると、
胸の奥が、
少しだけ痛む。
(……まただ)
言葉が、
効きすぎている。
ジュンから、
通知。
ジュン
言われた通りにしたら、
楽になった。
一文。
その“楽”が、
どこから来たのか。
考えていない。
昼。
制服のまま、
じゃがいもを選ぶ。
通りすがりの人は、
わたしを
「普通の女子高生」だと思う。
それでいい。
外側は、
一番、人を油断させる。
スマホが震える。
ジュン
Rの言葉、
刺さる。
既読は、
つけない。
代わりに、
画面を伏せる。
(ああ……)
この人、
もう
“自分で考えていない”。
人は、
分かってもらえたと思った瞬間、
判断を手放す。
それを、
わたしは
一度、
身をもって知っている。
だから、
同じ場所には立たない。
立てない。
夜。
配信の下書き。
「優しさは、
選択を代わりにしてくれない」
その一文を、
入れてから、
少し迷う。
箸を置く。
(……入れすぎ)
消す。
代わりに、
こう言う。
「自分で決めてね」
それだけ。
——それで、
十分だ。
配信後。
コメントが、
流れる。
《R様、正論》
《もっと聞きたい》
《次も教えて》
わたしは、
スマホを閉じる。
洗い物は、
後回し。
共感は、
刃物に似ている。
使えば、
楽になる。
でも。
持たせ続けると、
相手は歩けなくなる。
それを、
分かっている人は、
少ない。
だから。
わたしは、
距離を取る。
冷たいくらいで、
ちょうどいい。
この夜。
ジュンから、
もう一通。
ジュン
俺、
特別?
画面を、
見つめる。
一拍。
返信は、
しない。
特別だと思った瞬間から、
人は
一番、
危なくなる。
それを、
知っているから。
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