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マフィアの騒ぎから数時間後。
パトカーのサイレンも消え、通りは静かになっていた。
深夜のピザ屋。
店の照明は少し落とされ、オーブンの赤い光だけがゆらゆら揺れている。
エリオットはカウンターの向こうで、生地をこねながら笑った。
「今日は大騒ぎだったね」
「お前の店だぞ」
チャンスは椅子にだらっと座り、帽子をテーブルに置いていた。
銀髪がランプの光に照らされている。
サングラスは外していた。
珍しい。
エリオットはちらっと見て言う。
「まだ帰らないの?」
「帰ったらまた追われる」
「ここなら安全?」
「……多分」
チャンスは天井を見上げた。
「マフィア、ここ来ると思う?」
エリオットは肩をすくめる。
「ピザ食べに?」
「違う」
「なら来ないんじゃない?」
適当だった。
でもチャンスは小さく笑う。
「楽観的だな」
「よく言われる」
エリオットはピザをオーブンに入れた。
そして――
カウンターを回り込んでくる。
チャンスの前に立つ。
「なに」
「別に」
エリオットはにこにこしている。
そして。
いつものように。
ネクタイ。
ぐい。
「……」
チャンスは黙る。
顔が近い。
エリオットは首をかしげる。
「怒らないの?」
「……さっき言ったろ」
「?」
チャンスはゆっくり立ち上がった。
身長差はほとんどない。
でも距離は一瞬で逆転した。
「仕返しするって」
「え」
次の瞬間。
エリオットの手首が軽く捕まる。
くるっと体が入れ替わる。
気づいた時には――
エリオットが壁際。
チャンスが目の前。
「おい」
エリオットが笑う。
「何それ」
「仕返し」
チャンスはエリオットの赤いバイザーを指で持ち上げる。
金髪の天然パーマがふわっと落ちた。
「……お前さ」
低い声。
「人のネクタイ引っ張る癖あるんだろ」
「ある」
「じゃあ」
チャンスの指が、エリオットのシャツの襟を軽く引く。
「こうされたらどうする」
エリオットは一瞬黙って。
そして。
笑った。
「別に」
「?」
「嬉しい」
チャンスは固まった。
「……は?」
エリオットは近い距離のまま言う。
「だってチャンスだし」
「意味わからん」
その瞬間。
オーブンから
ピーピー
焼き上がりの音。
エリオットが吹き出した。
「ピザ焦げる」
チャンスも笑った。
距離が少し離れる。
エリオットはオーブンからピザを取り出す。
チーズがとろけている。
「ほら」
皿を出す。
「夜食」
チャンスは席に戻る。
「また食うのか」
「逃亡者はカロリー必要」
「どこ情報」
二人でピザを食べる。
静かな店。
外のネオン。
チーズの匂い。
チャンスが言う。
「……なあ」
「ん?」
「もし」
少しだけ真面目な声。
「俺がここに来れなくなったら」
エリオットはすぐ答える。
「探す」
「は?」
「だって」
にこ。
「ネクタイ引っ張れなくなるじゃん」
チャンスは数秒黙って――
笑った。
「……お前さ」
「うん」
「ほんと変な奴」
エリオットはまた手を伸ばす。
ネクタイ。
ぐい。
「またか!」
店の中に、笑い声が響いた。
深夜のピザ屋。
まだ少しだけ、平和だった。