テラーノベル
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深夜二時。
ピザ屋はもう閉店していた。
店内の照明は半分だけ。
外のネオンが窓からぼんやり差し込んでいる。
エリオットはカウンターで、残った生地をラップしていた。
「今日も平和だったねー」
その瞬間。
ガンッ
裏口のドアがぶつかる音。
エリオットは振り向く。
「ん?」
ドアが開いた。
そこに立っていたのは――
チャンスだった。
帽子はない。
スーツはボロボロ。
呼吸が荒い。
そして。
腹のあたりが赤い。
「……あれ」
エリオットが目を細める。
「チャンス?」
チャンスはふらっと一歩進む。
「……悪い」
低い声。
「少し…匿え」
次の瞬間。
ドサッ
床に崩れた。
エリオットは一瞬だけ止まる。
それから。
「うわ」
慌てた様子もなく近づく。
しゃがむ。
「撃たれてるじゃん」
チャンスは薄く笑う。
「軽い」
「嘘つけ」
エリオットはすぐエプロンを外し、チャンスのスーツを開く。
弾は貫通していない。
肩の少し下。
血は出ているけど致命傷ではない。
「弾残ってるな」
「医者じゃないだろ」
「YouTubeで見た」
「不安しかない」
エリオットは笑った。
「死なないよ」
そして。
ぐい。
チャンスのネクタイを引く。
「……おい」
「癖」
チャンスは弱々しく笑う。
「この状況でもか」
「安心する」
エリオットは立ち上がる。
「ちょっと待ってて」
数分後。
キッチンが医療室みたいになっていた。
アルコール
タオル
トング(?)
チャンスが眉をひそめる。
「待て」
「ん?」
「そのトング何」
「弾取る」
「やめろ」
エリオットはケラケラ笑う。
「冗談」
ちゃんとピンセットを持ってきていた。
チャンスは椅子に座らされる。
シャツは半分脱がされている。
エリオットは傷口を消毒する。
「痛い」
「我慢」
「お前優しくない」
「ピザ屋だし」
数分後。
小さな金属音。
カラン
弾がトレイに落ちた。
チャンスが息を吐く。
「……助かった」
エリオットは包帯を巻きながら言う。
「マフィア?」
「多分」
「多分って」
「カードで勝ちすぎた」
「自業自得」
チャンスは苦笑した。
そしてふとエリオットを見る。
金髪。
天然パーマ。
いつも通りのニコニコ顔。
「……怖くないのか」
「何が」
「俺」
エリオットはきょとんとする。
「なんで?」
「マフィアに追われてる」
「知ってる」
「撃たれる」
「今撃たれた」
「巻き込まれる」
エリオットは笑った。
そして。
またネクタイ。
ぐい。
「だって」
ニコ。
「チャンスだし」
チャンスは数秒黙る。
それから小さく笑った。
「……ほんと変な奴」
エリオットは言う。
「今日は帰れないね」
「だろうな」
「店のソファある」
「助かる」
チャンスが立とうとすると――
ふらっとする。
エリオットが腕を掴む。
「危ない」
「平気」
「嘘」
そのままソファに座らせる。
チャンスは目を閉じる。
少し疲れている。
エリオットはその横に座る。
静かな店。
オーブンの余熱だけが残っている。
チャンスがぼそっと言う。
「……エリオット」
「ん?」
「もし俺がここで死んだら」
エリオットは即答。
「死なない」
「もし」
「死なない」
「もし」
エリオットは少し考えて――
笑った。
そして。
ネクタイ。
ぐい。
「その前に引っ張る」
チャンスは吹き出した。
「……お前さ」
「うん」
「ほんとバカ」
エリオットは嬉しそうだった。
外では遠くで車が走る音。
でも店の中は静か。
チャンスはそのまま眠りに落ちる。
エリオットは横で座りながら、ぼそっと言った。
「……また明日」
そして。
最後にもう一回。
ネクタイを軽く引いた。
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