テラーノベル
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「危ない危ない……冷蔵庫に入れるだけ入れさせてね……」
チャットをチェックして、何もトラブルや質問がないことを確認し、私は一度冷蔵庫に食材をしまう。
もう、私の頭の中には、ミートローフしかない。早く作って、早く食べたい。そして、SNSにアップしたい。仕事は最低限で良かった。
送られてくる毎月の懸賞は、どの料理も妙に癖になる。美味しいし嬉しいのだが、早く次の当選品が食べたくて仕方がなくなるのだ。アドレナリンがどぷどぷと、頭の中に溢れ出ているのかと思うくらいに。
……ようやく仕事が終わる。残業するような作業もないし、私は早々にアイコンを『退勤』へ切り替えると、大きく伸びをしてエプロンを身に着けた。
髪をひとつに結び、手を洗う。気持ちも見た目も、準備万端だ。
「よーし、ちゃちゃっと始めますか」
早速、冷蔵庫から食材を取り出す。ボウルも引っ張り出して、真空パックを開封した。
ぷち、と音がして、冷たい匂いが鼻をくすぐる。
「綺麗だし美味しそうな色……」
光の下で見ると、挽肉ミックスはより発色が良くなって、絶妙な色合いに見える。それがまた、たまらない。
袋から出した瞬間、柔らかくて、まるで練乳のように滑らかだった。手で触れると、最初のひやりとした感触が指先を引き締めた。
軽く練ってから卵を割って入れ、そこにパン粉をふりかける。ここでも軽く混ぜてから、塩とスパイスと投入した。
「こういうのって、混ぜすぎ注意なんだよね? 気を付けなきゃ……」
指の間をすり抜ける生肉の感触。押すと空気が抜けて、ぴたぴたと手のひらに吸いつく。脂がてらてらと貼り付いて、指の隙間に伸びた肉が入り込む。
「うわぁ、なんか気持ちいい」
面白くなって、もう一度こねる。
ここに、人参とセロリ、それから玉ねぎのみじん切りを加えると、香りが一気に変わった。淡い甘さに、微かな酸味。僅かに絡みも混ざって、キッチンの中が満ちていく。
手を止めて、指先を見た。パン粉の粒がいくつか指にくっついている。
「……手袋、つけなくてもいいや。この感触、わからなくなっちゃうもんね」
銀色の型に油を薄く塗り、肉を詰めていく。スプーンで押していくたび、柔らかな感触が伝う。金属の型の内側から、低い反響が返ってくる。
「もうちょっと、ぎゅっとして……」
押す力を強めると、スプーンを剥がすたびに空気が抜けて、ぴたっと音がした。表面をならし、真ん中に少しくぼみを作る。
悩んだ結果、あの城と半透明の粒粒は、型の四分の一に混ぜ込むことにした。食感が変わるなら、少し試してみたい。
「ここに肉汁がたまるんだよね?」
独り言を言いながら、手のひらで型の表面を軽く叩く。金属の音が、まるで迎え入れるための返事のように響いた。
オーブンを予熱にして、温度を確認する。百八十度。ピッと音が鳴って、数字が光る。
「完璧」
待ってから型を入れると、庫内の照明が肉の表面を照らした。少し光沢を帯びた生地が、じんわりと熱で色を変えていく。
扉を閉める。オーブンの奥から、低い唸り声のような音。
「オーブン頑張ってね」
焼いている間、ソースの準備を始める。小鍋に瓶の中身を全部移す。どろりとした音。鍋の側面に液体が跳ねる。
しばらくすると、香りが立ち上がった。甘く香ばしくて、少し酸っぱい匂い。焦げないように、木べらでゆっくり混ぜる。
とろみがつくたびに、奥からぷくぷくと泡が弾けた。
オーブンのほうを見る。ガラス越しに、肉の表面が薄っすらきつね色になっているのがわかった。
照明の下で、油が小さな波紋を作りながら、小さな気泡を浮かび上がらせている。
「これは物凄くいい感じなのでは……?」
#コメディ
宇津Q
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思わずガッツポーズする。しかし、焼き時間は足りない。
タイマーを三十分にセットし直して、窓を少し開ける。冷たい空気が流れ込んで、甘い匂いと混ざった。
「乾燥してるけど、独特の匂いがいいよね、この時期って」
頬に触れる空気が気持ちいい。寒くなりすぎないように、と、換気程度で窓を閉める。その後、鍋のソースに視線を戻した。火は止めた。あとは、食べる時にかけるだけ。
――しばらくして、オーブンのタイマーが鳴った。
「きたきた!」
声が弾んだ。ミトンをつけて扉を開ける。熱気と一緒に、香ばしい匂いが一気に溢れ出す。
「うわぁ……」
思わず笑みが零れる。
表面は艶のある褐色、角の焦げ目がほんのり黒くて美しい。肉汁が型の底で静かに泡立っている。表面にも油の気泡だ。
「すごい、三つ星レストランみたい」
私はミトン越しに型を持ち上げ、そっと網の上に置く。ジューッという音が耳の奥に少しだけ続いて、すぐに静かになった。
ソースを温め直し、木べらで混ぜる。艶が出て、鍋底が見え隠れする。火を止め、網の脇に並べておく。
型の中のミートローフは、少しずつ温度を落としている。空気の音がして、表面が呼吸するように沈む。
まるで眠っているみたいだと思った。
「……おやすみなさい?」
ふざけて言ってみる。まるで返事のように、金属が軽く鳴った。
ふと見ると、カウンターの端に、例のハーブミックスの小袋が残っていることに気付く。
「あ、忘れてた」
中に入れるべきだったのかもしれないが、忘れていたものは仕方がない。指でつまんで、ミートローフの上にぱらぱらと振りかける。散らした瞬間、なぜか胸の奥が少しざわついた。
「……ん?」
自分でも、理由がわからない。
ただ、その香りの奥に、ほんの一瞬、鉄のような匂いが混じった気がした。最近、この匂いにかなり敏感な気がする。
すぐに気を取り直して「焦げたのかな」と首を傾げる。
「きっと、満点の味だよね」
そう言って、私はテーブルにランチョンマットを広げた。
オレンジ色の布。少し皺が寄っていて、いつかの便の時についたソースの跡が、洗濯したのに薄く残っている。
「あれ、落ちなかったのかな、早めに洗ったつもりだったのに」
指で跡をなぞってみる。
消えないけれど、あまり嫌な感じはしない。むしろ、思い出みたいに愛しい。
「さ、盛り付けよう」
私は包丁を取った。刃に光が走る。包丁を握る手が、ほんの少し震えた。でも、それはきっと、期待のせいだ。
コメント
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美月ゆめかだよ〜!🎀✨ 第33話読了!めっちゃミートローフ作りが丁寧に描かれてて、料理してる主人公のワクワク感が伝わってきたよ!特に生肉をこねる時の「気持ちいい」って感覚、めっちゃわかる〜!笑 でも最後のハーブミックスを振りかけた時の「鉄のような匂い」と胸のざわつき…これ何かありそうでドキドキした!😳💕 次の展開が待ちきれないよ!美味しそうな描写と不穏な空気のバランスが絶妙だった!🌸