智Side
 まさか、こんなに上手くいくなんて。
信じられない。
 でも、横に座っている祐希を眺め、1人ほくそ笑む。
 もう2人っきりで会うことは出来ないと思っていた。
いや‥会えるはずがないと覚悟していたのに‥。
 
 小川のおかげだ‥。
 
 あの時、未練を断ち切ったつもりだったのに。蓋を開けてみれば‥なんてことはない。想いは強くなるばかりだった。
 
 
 あの日、小川に申し訳ないと涙した俺はどこに行ってしまったのか‥
 
 
 
 
 「ほんと、ごめん!!殴ってくれて構わないから。小川の好きなようにして!」
 深々と頭を下げた。事前に大体の内容を伝えていたから、会ってくれないんじゃないかと思ったが約束の時間‥いつも通り、小川は来てくれた。
 
 顔を見た途端、懺悔の気持ちが沸き起こり‥一気にまくし立てるように話すと、ボロボロ涙が溢れた。泣くまいと思っていたのに‥
 
 
 「ずるいよ、智さん。そんなに泣かれたら何も言えねぇじゃん‥」
 
 
 泣き出してしまった俺の頭を優しく撫でられ、顔を上げる。視界に映る小川の表情は‥何とも言い難い表情をしていた。
 怒っているんだと思っていたが‥そうじゃない‥
 
 奇妙な面持ち。この表情は何を意味しているのか‥
 
 「と‥とも?」
 「ははっ、珍しいね?智さんが名前で呼ぶなんて‥何?抱いて欲しいの?」
 「ちっ、ちが‥///」
 
 「まぁ‥そりゃ、そうか。祐希さんとは結局出来なかったんだし。欲求不満か‥」
 「いやっ、」
 否定しようと口を開くが、その唇を不意に塞がれる。あまりの素早さに噛みつかれたのかと錯覚するほどだった。
 「‥否定しなくていいよ。智さん、よっぽど祐希さん好きなんだね。ヤってないのに‥このキスマの数。こんなに身体につけててさ‥ヤバくない?、くすっ、笑 」
 
 おもむろに上着をずらされ、小川の眼前に薄っすらと残る祐希がつけた跡が明るみに出てしまう。
薄くなってはきたが、まだ幾分が残るキスマの跡は妙に生々しいはず。
それなのに、小川は笑った。余韻の残る跡を見ながら‥。
 「怒って‥ない‥の?」
 
 「怒る?‥まぁ、多少は怒るよ、ムカムカする。でも、驚きのほうが強いかな。智さんが祐希さんを好きなんて。まさか、俺と同じだなんて‥」
 「はっ?」
 同じ‥?
 えっ、それなら小川も‥
 
 「お‥小川も‥祐希‥が?」
 「まさかっ、笑。祐希さんが好きなわけないじゃん!」
 
 心底面白そうに笑う。
 「じゃあ‥何が同じなの?」
 「‥あー、まぁ、言うつもりは本当はなかったんだけど‥智さんが話してくれたわけだし‥俺も話すね?」
 「?」
 「‥俺、実はさ、藍が気になってて‥」
 
 そう言い、不意に笑った表情を俺は忘れないと思う。
まさか、小川が藍を‥。
でも、言われてみれば思い当たる節がある。
話すことの大半が藍だったのも、そのせいなのか。
 
 
 「ねぇ、智さん?祐希さんのこともう好きじゃないの?」
 考えを巡らせていると、突然聞かれ‥戸惑ってしまう。どうしよう‥なんて答える‥
 
 「あっ、ああ、もちろん‥」
 「フフ、嘘つかなくていいよ。その様子だと、まだ好きだろ?ねぇ、智さん?俺等付き合ってどれくらいだと思うわけ?嘘なんてすぐわかるよ、」
 「ご‥ごめ‥」
 「まぁ、付き合ってるのに他所の男のところに行った智さんには、お仕置きが必要なんだろうけど‥」
 そこで言葉を区切り、不敵に笑う。
 「それよりさ、俺と組まない?」
 「へ?」
 「俺等が協力して、お仕置きという名目を使って2人を騙そうよ?祐希さんと藍を‥」
 「騙す?」
 「今なら、祐希さんも藍も負い目があると思うんだ、俺に対して。祐希さんなんて、人の恋人に手を出したようなもんだろ?それで脅せば‥きっと言うことを聞いてくれるかもしれない。」
 小川の言葉に戸惑いを隠せない。
騙す、脅す‥など。普段なら到底出るはずのない言葉ばかりだ。
 そんな言葉が出るほど、小川は藍が気になるのだろうか。全く気付かなかった。
 「でも、俺‥藍に謝ったし‥もう‥」
 「智さんはそれでいいの?祐希さんと寝たかったんだろ?最後のチャンスになるかもしれないのに‥みすみす逃すわけ?」
 
 俺を覗き込む瞳が、悪戯っ子のように微笑む。
小川は知っている、わかっているんだ。
 俺の心の奥にある欲望を‥。
 
 祐希‥。
 名前を聞くだけで心がトクンと高鳴る。
 あの夜、置いてきたはずの欲情がジワジワと侵食されるのに時間はかからなかった。
 
 「ゆう‥きと、したい。最後まで‥」
 
 気がつけばそんな自分勝手な言葉を漏らしていた。
 
 いけない‥そう思うのに。
 
 
 
 だが、
 そんな俺を見て小川は笑う。
 
 「ああ‥お互いに一度だけ‥ね?それが済めばまた元に戻ろう?いいよね?智君‥」
 
 ありえない話だろう。
 恋人同士で企む事ではない。
 人の道に反する行為である事は重々承知している。
 
 それでも、
 求めてしまう俺達は‥
 ある意味、
ベストパートナーと言えるのかもしれない。
 
 皮肉なことに‥
 
すぐそばにいる祐希を見て‥思う
ココに来たと言うことは‥祐希も了承してくれたと言うことなんだから‥
今夜、きっと添い遂げられる。
力強い腕の中を想像して‥
今夜、俺の願いは叶うだろう‥
藍‥ごめんね‥
コメント
6件
あぁ、なんてこった笑 小川くん最強すぎるんだけど?! どうなるのか続きが楽しみすぎます💕

そうだよね…やっぱ小川さん相手だとそうなるよね… 誰か小川さんに勝てる人いる!?(笑) 藍くん、また泣いちゃうー😢
なるほど!そうきたか!どうなっちゃうの~?続きが楽しみすぎる!