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ん、神

昨日の夜から、なんだかずっとソワソワしている。
街は完全にクリスマス一色で。
俺の心も、クリスマスデートのお誘いを受けたあの日から、負けないくらい浮き足立っていた。
スマホで『垢抜ける髪型』なんて調べて、ちょっと練習してみちゃったりして。
お小遣いはたいて、新しい服もかっちゃったりして。
こんな俺、勇斗と付き合う前じゃ考えられない。
少しでも、勇斗に可愛いと思ってもらえると嬉しな。
そんな思いと共に、家を出た。
待ち合わせ場所に着いたものの、珍しく勇斗の姿はまだない。
意味もなくスマホを見たり、コートの袖を引っ張ったり。
落ち着きたいのに、落ち着けなかった。
クリスマスの街は、楽しげなカップルで溢れていて。
幸せそうな顔を見る度に、俺も早く勇斗に会いたい、そんな気持ちが募っていった。
まだかな、そんなことを考えた瞬間だった。
「ごめん、待った?」
大好きな声に振り向いて、出かかったはずの言葉が止まる。
待ち合わせ場所に来た勇斗は、学校の制服でも、普段遊びに行く時のラフな格好でもない。
いつもより整えられた髪と、見慣れないロングコート。
たた立っているだけなのに、そこだけ世界が違うみたいだった。
「どうしたの?」
固まったままの俺を、不思議そうに勇斗が見つめる。
誤魔化すように、慌てて首を振った。
「な、なんでもないっ///」
本当は、なんでもなくない。
今日の勇斗は、こっちがおかしくなってしまうくらいカッコイイ。
こんな人の隣を今日は歩くのか、と少し緊張していると勇斗の視線が、俺をゆっくりなぞった。
「……な、なに?」
「いや…オシャレしてきてくれたんだなって。すごく可愛い。」
「う……うるさいっ////」
面と向かって褒められて、思わずそっぽ向いてしまった。
捻くれた態度を取ってしまったが、胸の奥は少しだけくすぐったい。
ちゃんと頑張りに気付いてくれたのは、やっぱり嬉しかった。
「………はやとも、かっこいい。」
ぽつりと言葉がこぼれて、慌てて顔を上げた。
「ん?なんか言った?」
「言ってない!もう、早く行こっ!///」
そう言って歩き出したのに、背中の後ろで小さく笑う声が聞こえた。
駅を出て少し歩くと、視界がぱっと明るくなった。
広場いっぱいに並ぶ小さな屋台。
暖色のライトが連なって、まるで街ごとクリスマスみたいだ。
「仁人、クリスマスマーケット初めて?」
「うん……こんなに賑わってるんだね…すごい………」
「ほら、こっち。」
手を引かれながら、屋台を見て回る。
こんな人混みの中、ずっと繋がれている手が恥ずかしくて、周りを見渡してしまう。
当たり前だけれど、みんな同じようなカップルばかりで、さっきまでの恥ずかしさは薄らいでしまった。
今日くらい、素直になってもいいかな……
そんなことを考えていると、目の前にホットチョコレートが差し出された。
「はい、仁人。」
「あ…ありがとう……。」
勇斗からコップを受け取り、一口飲む。
正直、少し甘ったるい。それでも、今の俺の気持ちにはぴったりだった。
「勇斗も、飲む?」
「えっ、いいの?」
俺がコップを差し出すと、勇斗は目を丸くしながらそれを受け取った。
「なに、その顔……」
「いや。関節キスがーとか仁人言うと思ったのに。」
「今更、それくらい別に気にしない。それに……」
「それに?」
「今日は、特別なの。クリスマスだから。」
「ふっ、何それ。」
俺の言葉に軽く笑いながら、ホットチョコレートをひとくち飲む。
「………甘い、ね。」
そう言いながら、勇斗はカップを返してきた。
そのまま屋台の灯りの下を並んで歩いているうちに、
気がつけば手には、クリームたっぷりのワッフルがあった。
焼きたての、甘くて香ばしい匂いが鼻をかすめて、大きな口で頬張った。
「ん、美味しい……。」
口いっぱいに広がる幸福感に、無意識に笑みが零れてしまう。
「そんなに美味しいの?」
「うん、超好きこれ。」
そう言って、もう一口食べようとしたところで。
勇斗が俺の唇を、指さしてきた。
「ついてる。口の端っこ。」
「え、どこ?」
「違うって笑 逆の方。」
口周りをぺたぺたと触っていると、何か、唇とは違う感触のものに指先が当たった。
このまま自分で取ろう、と思ったけれど。
俺は、目の前にいる勇斗を黙って見上げた。
「…………とって。」
「えっ?」
「とってよ。早く。」
「あぁ、うん……」
口についたクリームを、勇斗の親指が拭う。
俺はその手を掴んで、そのクリームを舐めとった。
「っ………仁人っ!?////」
慌てて手を引っ込めた勇斗を見て、にやりと笑う。
いつもやられている事を、やり返しただけなのに。
どうやら勇斗は、俺からグイグイ来られると調子が狂うようだ。
何だか立場が逆転したみたいで、俺は上機嫌だった。
「…………仁人。」
「あっ、……」
満足気な俺とは対照に、勇斗はどこか拗ねたような、怒ったような顔をしていた。
やってしまった……そう感じた。
「お前、後で覚えとけよ。」
「…………へっ?////」
「後で、仁人がもういいって泣くまで、ドロッドロに甘やかしてやるから。」
「ぁ、……ぅ…ご、ごめんなさい……///」
「そんな可愛い顔で謝っても、許してあげない。いたずらっ子な仁人くんの手は、もうこれ以上悪い事しないように、ここね。」
再び手を繋がれて、そのまま勇斗のコートのポッケに入れられた。
指を強く絡められたまま、歩き出す。
自分から仕掛けたことなのに、ぐっと近くなった距離せいで、鼓動が脈打っていた。
右手に勇斗の温もりを感じながら、足を進める。
賑やかな声が少しずつ遠ざかっていき、代わりに目の前がふわっと、明るくなった。
二人の足が止まり、感嘆の声が漏れる。
広場の先には、無数のイルミネーションが広がっていた。
ポケットの中で手を繋いだまま、光の海を歩く。
少し離れたところにベンチを見つけ、勇斗と一緒に腰掛けた。
「そうだ、仁人……ちょっといい?」
「えっ…なに?」
ポケットから手が解放され、外の空気に触れる。急に指先が冷たくなって、さっきまでの温もりが恋しくなった。
「はい、これプレゼント。」
勇斗の鞄から出てきたのは、綺麗にラッピングされた小さな箱だった。
くれるだろうな、とは思っていた。
でも実際に渡されると、鼻の奥がツンとなるほど、嬉しかった。
「ありがとう………開けていい?」
「もちろん。」
リボンを解いて箱を開けると、そこには華奢なシルバーのブレスレットが入っていた。
「えっ、可愛い……」
「気に入ってくれた?よかったぁ。」
「待って、これ高かったでしょ?」
「ん?まー、安くはなかったかな。」
「そんなお金、どうしたの?」
「仁人に内緒で、単発のバイトめっっっちゃしてたんだよね。実は。」
そう言いながら勇斗は、にこっと笑ってみせた。
「俺のために、頑張ってくれたの…?」
「そう。仁人のため。」
『俺のため』その気持ちが、正直プレゼントよりも嬉しかった。
「あっ……まって、おれも…」
鞄の中を覗き、クリスマスカラーの袋を取り出す。
そっと差し出すと、勇斗は満面の笑顔を見せた。
「えー!仁人からもくれるの?超嬉しい!」
「あんま、大したものじゃないけど………」
「仁人からくれる物なら、なんだって嬉しいよ。」
勇斗はそんな言葉を口にしながら、袋からプレゼントを取り出した。
「わっ、マフラーだ!しかも緑!俺、緑好きなんだよねー。」
「………ごめん、ね。マフラーもう持ってたのに。被っちゃって。」
そう、実は今日、勇斗はマフラーを付けている。
待ち合わせでそれに気付いて、プレゼントを渡すタイミングを完全に逃していたのだ。
「別にいいって、そんなの。仁人からだったら、何でも嬉しいって言ったじゃん。」
「で、でも…………へ、…へっくしゅ…」
「仁人、大丈夫?寒い?」
「ズビッ……うん、大丈夫…」
昼間は日差しがあったが、もう完全に日は落ちてしまっていて。
手袋もマフラーも無い俺にとっては、かなり寒かった。
「ほら、これつけて。」
「え、えっ……わっ………」
勇斗は自分がつけていたマフラーを取り、俺の首に巻いてきた。
「俺のお下がりだけどさ、それあげるよ。その代わりと言っちゃ何だけど、仁人からのマフラーは、これから俺が毎日使うから。」
そう言って、緑色のマフラーを自身の首に巻き始めた。
「ごめん………何か俺、結局2つも貰うことになっちゃって……」
「何言ってんの、仁人に受け取って欲しいから、あげてるんだよ。」
優しく頭を撫でられ、ちょっと照れくさくて、巻かれたマフラーに顔を埋めた。
胸いっぱいに、勇斗の匂いがして。
頭がクラクラしてしまいそうだった。
数秒の沈黙の後、勇斗がゆっくりと口を開いた。
「仁人、さ……年末年始とか予定ある?」
「いや…普通に家にいるだけだよ。」
「そっ、か………実は俺ん家さ、毎年ばあちゃんの所まで帰省してるんだけど。今年は俺、行くのやめようかなって思ってて……」
「えっ、そうなの?」
「うん、それでさ…家族誰もいないんだよね。だから……仁人、良かったら」
「泊まりに来る?」
その言葉に、思わず固まってしまう。
泊まりの誘いが、何を意味しているのか。流石に俺も、ちゃんと理解していた。
「………っ行く!お泊まり、行きたい!」
俺が真っ直ぐ見つめてそう答えると、勇斗の顔がふっと和らいだ。
「あーー、良かった……断られたらどうしようかと……気が気じゃなかった…」
「え、もしかして朝からずっと、どうやって誘うか考えてたの?」
「そうだよ。悪い?急に誘って嫌われないかな、とか考えちゃうんだよ。俺だって。」
「ふっ………そんな心配しなくても、ずっと大好きだよ。」
小さく、ぽつりと呟く。
そして、寒さで赤くなってるほっぺに軽くキスをした。
予想外の出来事に、勇斗は口を開けたままフリーズしていた。
ほっぺとは言え、外で俺からのキスするなるて思ってもみなかっただろう。
でももう、二度としてやんないよ。
今日だけ、特別だからね。