だいぶ時間を置いてから、瑞奈は小康状態に入った。
寝入ったようで、瑞奈の胸の上の掛け布団が穏やかに上下している。最後まで残っていた看護師が退室すると、瑞奈のお母さんも、咲良も、俺も、ようやく長い息をついた。
「晴翔君、疲れたでしょう。家で休んで」
瑞奈のお母さんは、目のまわりにうっすらとした隈を張りつかせていた。
「大丈夫です。お母さんこそ」
お母さんは軽く首を振った。「晴翔君お夕飯まだでしょう。食べにいってらっしゃい」
昼から何も食べてないが、空腹は感じられなかった。「あまりお腹が空いていなくて」
お母さんが小さな笑みを零した。「一緒ね。目の隈も一緒」
瑞奈のお父さんは東京へ出張中だったため、まだ病院には着けていなかった。連絡を受けて新幹線に飛び乗ったそうで、おそらくはそろそろこちらに到着する。
「晴翔さん!」
スマホを操作していた咲良が、画面を俺に向けた。「これ、ここ、ここです」
いつも落ち着いている咲良が珍しく昂っている。
俺はスマホの画面に視線を落とした。
それは、久しぶりに見る春奈さんのブログだった。
春奈さんは亡くなる前に何を思ったのだろう、そう考えをめぐらしながら、文面に目を走らせようと――
P.S.瑞奈ちゃん、晴翔くん
生きて 恋して あきらめないで
瑞奈と俺に向けられたメッセージだった。
呼吸を止めて画面に見入る。
ブログの日付は、春奈さんが亡くなる三日前になっていた。
視線入力する春奈さんの息遣いが、パソコンに向かう春奈さんの眼差しが、瑞奈と俺に向けた春奈さんの気持ちが、そこにあった。
喋ることができない春奈さんが、話しかけてくれているみたいだ。
ぽっと温もりが宿る。小春日和のような穏やかな空気が天から降ってくる。一瞬そんな心地がした。
春奈さん、ありがとうございます。
その場で黙とうをする。
瞼を開くと、咲良と瑞奈のお母さんも俺にならうように目を瞑り、天に祈りを捧げていた。
「にゃにしてるにょ?」
俺の顔が綻んだ。






