【 失恋 】
⚠️注意⚠️
🎲
青桃
青水付き合ってます
失恋パロ
物壊し、病み表現有
nmmn
⬇
「……実は、ほとけと付き合ってんねん」
その一言が、まるで雷鳴のように部屋を貫いた。
目の前でまろが、真剣な表情で言葉を紡いでいる。
まろの隣では、いむが少し照れたように、でもどこか幸せそうに笑っていた。
その光景を目にした瞬間――ないこの時間が止まった。
視界の端で、りうらが「えっ!?」と素っ頓狂な声を上げる。
初兎が目を丸くし、あにきが「マジか……」と低く呟く。
それでも次の瞬間、彼らの顔は柔らかくほころんでいった。
「え、すごいじゃん!」「おめでとう!」「いや〜ええカップルやな!」
祝福の声が次々と飛び交う。
笑い声、グラスの触れ合う音、拍手、照れ笑い。
普段と変わらない、あたたかくて、楽しくて――優しい空間のはずだった。
けれど、俺にとってはすべてが異質な音に聞こえた。
喉の奥がカラカラに乾いていく。
胸の真ん中が、ぎゅっと強く握り潰されたみたいに痛い。
(……え? まろが……いむと?)
頭が追いつかない。
何度考えても理解が拒まれる。
今日この日のために勇気を振り絞ったはずなのに。
「……おめでとう」
かろうじて声を出した。
出した、というよりも勝手に漏れた。
自分でも驚くほど、声は震えていなかった。
でもその代わり――笑顔は、一切、作れなかった。
まろはそんな俺の顔に気づくこともなく、嬉しそうにいむの肩を抱く。
いむも、少し照れながら「まだ皆には黙っとこうと思ったんだけどね」と小さく笑っていた。
その仕草が、やけにスローモーションで焼きつく。
一秒が、何分にも引き延ばされたみたいに重たい。
まるで、自分だけが別の世界に閉じ込められたような感覚だった。
(あぁ……もう、俺の入る余地なんて、ないんだな)
喉の奥に鉄みたいな味が広がる。
心臓の音が耳の奥でガンガンと鳴っていた。
この空間のすべてが、自分を拒絶しているように思えた。
──そしてその夜のことは、あとから思い返しても何一つ鮮明に覚えていなかった。
誰が何を話していたかも。
誰が笑っていたかも。
乾杯したグラスの冷たささえ、もう記憶に残っていなかった。
次の日の朝。
「またな〜」「お疲れ!」「気をつけて帰れよ!」
みんながそれぞれ笑い合いながら玄関を出ていく。
りうらは手を振って、初兎とあにきはいむとまろを冷やかし、
いむはそんな二人に顔を真っ赤にしていた。
その光景を、ないこは玄関の影から無言で見送っていた。
いつもの朝なのに、やけに空気が冷たく感じた。
ドアが最後に「カチリ」と閉まる音が、やけに鮮明に響いた。
その瞬間、胸の奥に張り詰めていたものが――ぷつり、と音を立てて切れた。
「……あぁ……あ、ぁああ……っ!」
喉の奥から勝手に声が漏れた。
それは怒鳴り声でも、泣き声でもなかった。
ずっと押し殺していた感情の“音”だった。
近くにあった花束――昨日、まろに気持ちを伝えるために用意していたもの――を乱暴に掴み、床に叩きつけた。
パリンッ!!
花瓶が割れる乾いた音が、静まり返った部屋に響く。
色鮮やかな花弁が、破片と一緒に床に散らばっていった。
「なんで……俺、こんな……バカみたいに……!」
部屋の壁に貼ってあった、結成当初のみんなの写真が目に入った。
まろの笑顔。
その隣で、嬉しそうに笑っている“ないこ自身”。
胸の奥がさらに軋んだ。
自分がバカみたいに見えた。
「なに……笑ってんだよ、俺……っ」
乾いた笑いが、喉から零れる。
次の瞬間、写真を勢いよく壁から引きはがした。
ビリッ――
破れる音がやけに大きく響いた。
床に落ちた破片の上に、靴下のまま踏みしめる。
痛い。けれど、それ以上に胸の中の方がずっと痛かった。
気づけば、花、写真、机の上の小物――あらゆるものを叩き落としていた。
手が震えて、息が浅くて、何も見えない。
視界の端が滲んで、呼吸がうまくできない。
「……まろ…………っ」
喉が裂けるほど叫んだ。
けれど、その声は誰にも届かない。
力が抜けたように、ベッドに崩れ落ちた。
うつ伏せになり、枕を両手でぎゅっと握りしめる。
「……っ、う……うぁぁぁぁぁぁ……!!」
心の底から、声にならない叫びが漏れた。
枕が濡れていく。
震える肩を押さえるものなんて、誰もいない。
まろに恋をして、ずっと大切に育ててきた想いが――
たった一晩で、音もなく壊れた。
部屋の散乱は、そのまま心の崩壊の跡だった。
あの日、壊れたのは部屋じゃない。
――俺の心だった。
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