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恵
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#連載小説
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星キラリ

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縄に縛られたまま、姫は薄暗い空室の床に座り込んでいた。
口の布はまだ外れず、手足の自由もない。シーツはすでに自分のおもらしで湿っている。羞恥と恐怖が混ざり、肩が小刻みに震えていた。
——入ってきたのは、背の高い美少女だった。
白いワンピース。白い帽子。長い髪を背中に流し、肌は青白く、瞳は虚ろで、それでいて整いすぎた顔立ちをしている。身長は百八十を優に超え、天井に近い闇を圧するように立っていた。都市伝説で語られる「八尺様」に、酷似していた。伝承では身の丈二メートル四十センチとも言われる存在だが、こちらは少しサイズ感が抑えられ、それでも常人を圧倒する長身である。昔から語られる八尺様は、白い着物に白い帽子、長い黒髪、そして子供をさらう凶兆として知られる。山道や集落の端、古い屋敷の廊下去で姿を見せ、近づく者の心を凍らせる。姿を見た者は災いに見舞われる、という話もある。声を出さず、ただ静かに距離を詰めてくる——それが、この屋敷に現れた八尺様の在り方だった。
八尺様は無言のまま、姫の側まで歩み寄った。
白い指が、浴衣の裾に触れる。めくり上げられ、濡れた太ももが露わになる。八尺様は身を屈め、その匂いをクンクンと嗅いだ。おもらしの残滓。熱く、生々しい匂い。鼻先が腿の内側に近づき、ゆっくりと舌が這う。塩気と熱が混じった感触に、姫の背筋がぞくりと波打った。
(……加賀美警部補、助けて……!)
心の中で叫ぶしかない。口は塞がれたままだ。八尺様はさらに顔を埋め、太ももを丁寧に舐め上げていく。拘束された体は逃げることもできず、ただその冷たい舌の感触に晒される。八尺様は子供を好む、と伝承は言う。この個体も、小さな体躯や華奢な肢体に興味を示すらしく、姫の手首の細さ、足首の線、胸の控えめな膨らみに、 innovate な執着を見せていた。抱きしめられ、顎を肩に預けられ、首筋まで舐められる。白いワンピースの生地が肌に触れ、帽子の縁が額に当たる。時間の感覚が曖昧になる。何分そうされていたのか、分からなかった。
——そのとき、扉が乱暴に開いた。
「そこまでだ」
加賀美の声だった。裂かれた袖のジャケットのまま、ポニーテールを振り、空室に踏み込んでくる。八尺様はゆっくりと顔を上げ、虚ろな瞳で新参者を見た。言葉はない。ただ、長い手足が戦闘態勢に変わる。
加賀美は間合いを測り、先に動いた。低めの姿勢から踏み込み、回し蹴りを放つ。八尺様はそれを長い脚で受け、反動で後ろへ跳ねる。足技主体だ。膝、踵、脛。しなやかで、到達距離が異常に長い。加賀美のジャケットの裾が、風圧で煽られる。今度は八尺様から踏み込み、縦の踵落とし。加賀美は横に転がり、着地と同時に相手の軸足を刈ろうとする。八尺様は軽く浮き、空中で体をひねって再度蹴りを落とす。床板が軋み、埃が舞う。
「くっ……!」
加賀美は肘で受け、骨に響く感触に歯を食いしばる。すぐに距離を詰め直し、連続の膝蹴りから、得意のかかと落としへ繋げる。八尺様の帽子が傾ぎ、長い髪が乱れる。虚ろな瞳が、初めて敵意めいた色を帯びた。長い脚が鞭のようにしなり、加賀美の肩を掠める。生地が裂け、薄い血が滲む。構わず加賀美は踏み込んだ。相手の膝の内側を蹴り、バランスを崩させ、その隙に全身の体重を乗せた必殺の踵を、八尺様の胸元へ落とす。
鈍い音。
八尺様の体が大きく後ろへのけ反り、白いワンピースが翻る。次の瞬間、その長身は影のように廊下の闇へ退き、姿を消した。残ったのは、冷たい空気と、揺れる電灯だけだった。
加賀美は息を整え、すぐに姫のもとへ跪いた。縄を解き、口の布を外す。
「大丈夫か」
「……こ、怖かったでごぜぇやす……!」
姫は声を上げて泣き、加賀美の胸に抱きついた。濡れた浴衣のまま、肩を震わせる。加賀美は短く「わかった」とだけ言い、背中をさすった。縛り跡の赤み、腿の感触、残された恐怖。言葉にするには、まだ早すぎた。
とりあえず、助かった。
八尺様は退散した。生け贄には、ならずに済んだ。姫は加賀美の体温にすがり、加賀美は裂かれた袖を気にも留めず、ただ部下のように——いや、守るべき相手のように、その小さな背中を支えていた。
屋敷の夜は、まだ終わっていない。だが、この空室の惨劇だけは、ひとまず幕を閉じた。
めでたし、めでたし。
続く。
コメント
1件
わあ、今回は緊迫感がすごかったですね……! 八尺様の描き方、伝承の雰囲気を残しつつも独特の気配があって、ゾクゾクしました。特に無言で距離を詰めてくる感じと、太ももを♡♡♡生々しい描写が印象的。加賀美警部補の足技バトルもかっこよくて、蹴り主体の格闘って珍しいから新鮮でした。助け出せてよかった……「めでたし」の文字にこちらまでホッとしました。でも屋敷の夜はまだ続くんですよね。次が待ち遠しいです!