テラーノベル
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『ん…』
朝、日差しが僕の目を照らした。
目を開けると、見慣れない天井。違和感ではないけど、なんだか胸騒ぎがした。
『…あ』
じっとこちらを見つめる顔がある。疲れたような顔で僕を覗いている。顔、整ってるなァ なんて。
「起きたか!」
彼は僕が起きたのに気がつくと、素早く手を握った。ずっと起きてたのかな?冷たい。
当の僕は何が何だか整理できなくって、彼の綺麗な顔面をひたすら見つめていた。
「悪かった…昨日は無理させて…」
僕の右手を、自身のおでこにピッタリくっつけた。顔も冷たいし、休んでないんでしょ。無理しているのはキューバの方だよ。
僕は手を握り返す。
『ん…大丈夫ダヨ』
声が掠れてうまく喋れない。
彼はますます心配そうに僕を見るめる。
「…」
彼は目に涙が溜まっていた。泣き出してしまいそうだったから空元気の身体を起こした。
そしてそのまま抱きしめてあげる。
『大丈夫…』
彼は安心したのか、ため息をついた。コーヒーの香りがする。
「よかった…」
「…昨晩、“一回だけ”と言っただろう。だから、いつでも出ていっていい」
彼は心底行ってほしくないという顔をしていた。露骨にそんな顔をされると何だか申し訳なくなる。
『…イイや』
『行カない』
僕は優しく頭を撫でながら言った。ピクリと嬉しそうに彼の身体が跳ねる。
彼は不思議そうな顔で僕を見た。
『丁度いいヨ。最近、“付き纏ってくる輩”ガいたからネ』
嘘じゃない。これは本当だ。
「どういうことだ」
彼は真剣な顔をして僕を見た。思わずその切れのいい表情に見惚れてしまうなぁ。
僕は弾んだ声で答える。
『その“輩”が最近来テいたんだ。
そいつラは君を探るト同時に、君ノことヲ何だか嫌っているっぽカったんだよね。
ヨく、君ノ弱みについて尋ねてきたんダ』
「何て答えたんだ?」
『“僕ハ彼とあまり親しくないカラ分からない”
って言ウとすぐにニ引っ込んでったヨ』
「へぇ…」
眉間に皺がよる。その考え込む顔さえも美しいから、目のやり場に本当困ってしまうよ。
『…ねぇ、僕本当にココにいてイイの?』
僕は尋ねた。
すると彼は嬉しそうな顔をむけてきた。可愛い。
「もちろんだ。君の望む事なら何なりとするぞ。」
僕の手を優しく包む。皮膚は冷たいけど、芯は暖かいような気がする。真剣に見つめる目が、瞬きをするごとに僕は息を呑んでしまう。
ふっと頬が緩んだ。
怖そうな目をしてるけど、なんか可愛く感じる。きっと、キューバなら僕に深い忠誠と愛情を誓ってくれる気がする。
僕は大きなあくびをするとベッドから起き上がった。
『…うっ』
と同時に、腰に痛みを感じ座り込む。
「プエルトリコ!」
彼は一目散に駆け寄ると僕を抱きしめる。距離が近いからドキッとした。
「ごめんな…!俺のせいで…‼︎」
彼の冷や汗と涙が僕の服に滲む。
強く抱きしめられたものだから、少々苦しくて咳だ出てきた。
『キュ…バ、分かっタがら”…ぐル”ぢい”…』
酸素が入ってこないのでますます息ができない。残った力で彼の背中を叩く。目の前がチカチカしたところで彼はやっと僕を離した。
「わっ…!す、すまない!」
彼はますます怯えた表情で意味不明なことを言い出す。
「こ、こう言うのは救急科か⁉︎」
『なんていうノ…?』
「“昨日ヤりすぎました”って」
『勘弁シて…』
僕は呆れて彼にもたれかかる。
『…リビングに運んデ、酒ヲ…ちょーだイ…』
息をするので精一杯だった。彼に声が届いているかは分からないけど、彼は多分気づいたはず。焦った顔で僕をお姫様抱っこした。
「残念ながら、酒という酒は家にないんだ…」
『…ゑ?』
ソファに座ってため息をついた。腰痛が微かに残っている。
紛らわせようと、腰を摩る。
「…大丈夫か?」
見りゃ分かるでしょ、と言いたいのは山々だったが喉から声が出てこないので、仕方なく頷いた。
喉が渇いた。でも酒以外喉を通らないような気がする。
「…すまない、アメリカーノでもいいか?」
彼は僕の目の前にマグを静かに置いた。コーヒー豆の苦い香りが僕の鼻に入る。
アメリカ人はケチだそうで、そんなアメリカ人たちの為に作られたアメリカーノはコーヒー豆を少なく使っている。だから通常より薄いらしい。
さっぱりした飲み物が好きな僕からすると、紅茶もコーヒーも外道である。まぁ、干からびるよりかはマシなので、温かいそれに口をつけた。
『…ゴクゴク』
ちょうどいいぬるさだったので、火傷することなく飲めた。コーヒーはやっぱり僕には合わないなとつくづく思うと同時に、ビールの味を思い出してさらに喉が渇いた。
「…ど、どうだ?」
期待するような眼差しで僕を見つめている。
人が淹れたものである限り、悪いことは言えない。
『おいしいヨ』
あれ、なんでだろ。
涙が…
「プエルトリコ⁉︎」
彼は急いで僕の背筋をさすった。手、さっきよりも暖かくなってて安心する。
溢れる涙が止まるそうになくって、ひたすら地面を見つめていたい。彼の声が聞こえるけど、返事できない。喉から声が出ない。顔を動かせない。何も考えられない。
なんで僕は泣いてるの?
『…???』
訳もわからず垂れる水滴が、僕の膝を濡らしている。
あ、そっか
“アメリカーノ”!
『…懐かシイなァ』
アメリカーノは僕が一番飲んだ飲み物と言っても過言じゃない。酒よりも飲んだなんて、誰か信じてくれないかな。
『ネェ、この豆は、キリマンジャロ?』
「え…そうだが…?」
キリマンジャロ。そうだったそうだった思い出の味だ。
僕がキューバと出会った教会でよく飲んだのは、“キリマンジャロ”の“アメリカーノ”だったな。
よく苦い苦いなんて言ってこっそり砂糖を混ぜたんだっけね。
片隅に残った苦味と、記憶の中の砂糖の甘みが混ざって、僕の口腔を満たしている。じーんとくる風味がなぜか嬉しい。
『キューバ、覚えてる?
僕たちガ出会っタアの教会ヲさ…』
僕がその名前を出すと、彼は悲しそうな顔をして僕の口の前に人差し指を立てる。
『???』
そして彼は僕の顔を優しく両手で包み込んだ。
「…ごめん。その話はしないでくれ」
重みのある声は、少し怒りを孕んでいる。あの教会確か、今はもう閉鎖されてるってのだけ知ってるけど、彼を怒らせるようななにかあったのかな。
僕は彼を揶揄おうと、少し考え込んだ。
『フフフッ』
人差し指を彼の唇に当てる。
そして上目遣いで…
『ジャ、その口で僕を黙らセてみてヨ♡』
彼は戸惑ったような顔をして、少し頬を赤らめた。しどろもどろになって目をキョロキョロさせるのが可愛くって、もっと揶揄ってあげたくなる。
「…誘ってるのか?」
瞬きが多くなる。照れすぎじゃないの?そんなに愛おしい反応されたら、こっちだって赤くなってしまいそう…
『いや?べーつー二ー?♡』
もっと揶揄いたい、もっといじめたい、
もう少しおちょくっちゃお♡
と、僕は彼の耳元に顔を近づける。
『でも、襲イたかっタラ、襲ってイイヨ♡』
彼の顔こそ見えないけど、身体がピクリと反応していたのだけ分かる。
コーヒーを飲んで泣いたら腰の痛みも忘れてしまって、つい調子に乗った。自分で言ったのに、ムラムラしてきた。
彼は真顔で僕を押し倒す。
『…♡』
僕はとうとうか、と胸を高鳴らせながらその時を待った。
が、
彼は何もせずにソファから立って、キッチンに向かってしまった。
『…は、はァ⁉︎』
モヤがかかった思いが僕の心を巣食った。
ナカが昨晩の快感を思い出して、ヒクヒクしてたっていうのに…このまま◯してもらえると思ったのに‼︎
怒りとも言えない怒りが湧き上がってきた。
僕も足音を大きく鳴らして、キッチンへ入場する。
『キューバ‼︎なンで逃げチャうノ⁉︎』
期待してた恥ずかしさと、期待外れた怒りで顔が真っ赤になる。怒り任せに叫んだ僕の声に、彼はなんの反応も示さない。
『ネェ‼︎ネェネェネェ‼︎』
僕は少し高い彼の肩を揺さぶる。
『アソコはフツー襲う流レでしょウ⁉︎』
彼は僕を見向きもせず、目玉焼きを作っている。
『“君が望むことなら何なるとする”ッテ‼︎』
『キューバ‼︎キューバキューバキューバキューバキューバキューバキューバ___』
僕がこれだけ話しかけてるっていうのに、彼はただただ目玉焼きを作っている。
『目玉焼きト僕どっちガ大事なノ⁈』
もう訳わからない質問が口から飛び出す。
でも依然彼は目玉焼きを作っている。
『キューバ…揶揄って悪カッたっテ…‼︎』
僕は必死になって彼に許しを乞う。彼は無心に目玉焼きを作っている。
心なしか美味しそうだなって思ってお腹が小さく鳴いた。
『ネェ…ネェ…ネェ…ネェ…____』
僕が悲しいく呟くと、不意にスプーンに乗った目玉焼きが僕の口の中に入ってきた。
『ン”⁉︎モゴッ‼︎モガッッッ』
「朝飯でも食って気を取り直せ」
彼は真顔で僕の口の周りについた黄身をハンカチで拭く。
「一応言っとくが、俺は容易く性交渉には応じたくない。そういう男だと思わないでくれ」
不機嫌そうな顔で僕の顔面にハンカチを押し付けた。
『ひゃい…』
「じゃ、俺はこれから仕事だから行かせてもらう」
彼は裏口の前でスニーカーの紐を結んでる。軽く整えた格好がハンサムに映る。そんな姿で街を歩いたら、ナンパされ放題じゃないの。
「外に出たいなら必ず裏口を使ってくれ。
暇ならネ◯フリでも観てていいぞ」
「では、行ってくる」
『待っテ‼︎‼︎』
僕は急いで彼の袖を引き止めると、頬に口付ける。
『…誘ってナイからネ…///』
『シ…ゴト…ガンバッテ……///』
顔から煙が上がるぐらい熱い。恥ずかしくて最後の言葉をはっきり言えなかった…
こんなにドキドキするのは初めて…
「あ、あぁ」
彼は笑って僕の頭を撫でる。
ドキドキしてるの、僕だけなの…⁉︎
バタン、とドアが閉まる音がしても、数分間はずっと動けずに止まってしまった。
外から、足音が離れていく…
「…あんなの反則だろッ///」
コメント
1件
かわいい可愛すぎますブラボー👏👏 そりゃ無視されたら誰でも怒るでしょうよ!!プエルトリコさん素直に怒っておりましたがもっと怒っちゃえ!!
うぇいあ
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