黙りこくってしまった彼? 彼女? にコユキが勢い良く言った。
「そもそもアンタ間違えてるのよ? お金や名声、保身なんて言っちゃってさ! アンタも人間の三大欲知ってるでしょ?」
「ん?」
不思議そうな声を出したアヴァリティアに対して、コユキは誰が見てもムカつく感じのドヤ顔をしながら言った。
「人が抗う事すら出来ない原初の欲! それは、睡眠欲と性欲、加えて最大の欲、食欲よっ!」
堂々と言い放ったコユキの右手は、三本の指を前につき出して、バァァーン! となっていたのだが……
「ははははっ! 馬脚を現したな、聖女と言えど所詮は人間! 欲の何たるかを本質で理解出来なくとも仕方がない! 愚か者めが! それらは欲では無く本能、自己の命、種族の命を担保する為の行動に過ぎないのだ! 食とは他者の命、生命エネルギーを炭水化物として取り込み、己の肉体、エネルギーに変化する、正に生存本能だ! 性欲も然り(しかり)、自身と対なる性別の者と協力し、互いの生体エネルギーを融合させる事で、汎用(はんよう)性の高い人間種を残す為の本能! 眠りに至っては、そうして生き抜いてきた日々の中で受けた、ストレス、疲労、損耗(そんもう)からの回復、修復作業である! 聖女よ…… 俺はハッキリと宣言する! 今、お前が言った三大欲、それは欲ですらない、只の人間の『シクミ』に過ぎないのだっ!!」
最早、ハッキリと『俺』とか言っちゃってる『強欲のアヴァリティア』。
オレッ娘にも見えないし、若(も)しかして女装趣味の少年なのだろうか?
私、観察者が疑問を感じていると、コユキが首を傾げながら呟くのであった。
「ご飯が、食事が、ヨクジャナイ? ? ? ? ?」
何度も何度も首を左右に傾げては、メチャクチャ理解不能アピールに見える。
柔らかな銀行の携帯ショップで真っ白な機械生命体が、
『アレ、マチガッチャイマシタ? ゴメンナサイ』
と無表情で連呼する時の様子、と言えば分かって頂けるだろうか?
分からなかった人は勇気を出して語り掛けてみることをお薦めする、何しろタダだからネ。
一方のアヴァリティアは、強気で自説を披露した後、軽く後悔をしていた、故に無言のままであった!
――――!? ……生存本能? で、ここまで食べられる、いや太れるものなのか? まさか…… 本能を上回る…… 欲!? 死ぬ事に直結する食欲、だ、と……
戦慄を予感しつつも、アヴァリティアは頑張って聞いたのである。
「な、なあ、性欲は? こんなに太っちゃってさぁ、オマエを、いやオマエの相手、お眼鏡に叶う勇者はいるのか? な、なぁ、教えてくれ! オマエ、いや、アンタにとって、性欲とは何なんだ?」
最早タダの、ゼミの担当教授に教えを請(こ)う、一学生の様な謙虚な姿勢を見せつつ『強欲』の大罪、アヴァリティアは懇願したのであった。
コユキはいつも通りの風情を崩さずに言った。
「何ってアンタ、そりゃ自分に課した修行よ、みんなそうでしょ?」
と……
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