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ジェンは幼い頃から活発で、笑顔の輝く愛らしい子だった。
同じ顔を持っていても、わたしとは違って、周りに屈託なく笑顔を振りまく姿に憧れていた。
わたしは引っ込み思案で、いつも母の背中に隠れていた。
臆病で隠れてばかりのわたしの手を引いて、ジェンは太陽のような笑顔でわたしを外へと連れ出した。
わたしを見て、「ジェン!おはよう」と声をかけてくるクラスメイト。
「ジェン!昨日の試合見た?」と親しげに肩を叩いてくるジェンの友人たち。
戸惑うわたしの顔に、最初はジェンじゃないの?と彼らも戸惑うけど、すぐにジェンのように笑って、わたしを受け入れてくれた。
—嬉しかった。
わたしが上級生の男の子にいじめられたとき、ジェンは真っ先に立ち向かってくれた。
『イェンになんてことしてるのよ!』
ジェンの友人たちも、わたしを守るように立ちふさがって、声を上げてくれた。
『イェンに近寄らないでよ!』
だから、わたしは…わたしは耐えられた。
叔父様から、渡された高級なドレスを着て、行きたくもないパーティーに連れ出され、知らない人たちの気持ち悪い目に晒されることも。
お酒に酔った男の人に肩を抱かれて、タバコの煙を顔に吹きかけられても。
わたしがおとなしく『いい子』でいる限り、ジェンが太陽のように輝いていられると思ったから。
叔父様は、大人しくて従順なわたしを好んでいたから。
『人形のように美しいよ、イェン。ジェンのようなじゃじゃ馬と違って、お前は本当に美しく、いい子だ』
あの人、はそう言った。
—ジェンをバカにする叔父様が大嫌い。
それでも、わたしが叔父様に笑顔を向けられたのは、叔父様の横暴に耐えられたのは…。
耐えていれば、わたしが黙っていれば、ジェンの笑顔が曇ることはないと、信じていたからだった。
ケイジくんは、わたしの初恋の人だった。
背が高くて、皆に親切で、バスケットボール部のエースで、わたしと目が合うと何度か笑って手を振ってくれた。
同じクラスだったし、近くの席に何度か座ったことがあるから覚えていてくれたんだと思って嬉しかった。
なのに、恥ずかしくて逃げちゃったのよね。
それでも、彼はわたしに笑いかけてくれた。本当に優しい人…。
ケイジくんとジェンが付き合っていると聞かされた時も、笑顔でおめでとうと言えた。
でも本当は、すごく悔しかった。
同じ顔をしてるのに、選ばれたのがわたしじゃないことが、本当に悔しくて、自分の性格を呪ったわ。
でも…それ以上に嬉しかった。
かっこよくて、優しいケイジくんなら、ジェンを大切にしてくれるだろうし、ジェンの太陽のような笑顔は、ケイジくんの隣りにぴったりだと思ったから。
—それなのに…。
ジェンがアンを連れてきた日、アンがわたしにもジェンと同じように笑ってくれた。
わたしに興味を持ってくれた。
ジェンの双子、ではなく、イェン、として。
あの日の夜は、嬉しくて嬉しくて、眠れなかった。
アンが、ジェンを通した他の友達と違って、わたしの友達になってくれて嬉しかった。
お土産をくれたの。わたしのために買ってきてくれたお土産。
わたしと二人きりでお茶をしてくれた。
わたしをまっすぐに見て、わたしの話を飽きもせず笑顔で聞いてくれた。
初めて、勇気を出して誘ったお茶会にも二つ返事で来てくれた。
わたしとジェンを同等に扱ってくれた。
—わたしの…友達。
—わたしだけの…。
—もしアンがわたしを最初に見つけてくれていたら…。
わたしだけの特別なオトモダチになったはずなのに…。