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레몬인
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なんたろ
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第154話:クズのエンタメ化〜毒親すらもコンテンツ〜
「……ふう。危なかった……本当に、危なかったぜ……」
帯広のボロアパート、四畳半。
俺は三万円のゲーミングチェアにしがみついたまま、冷や汗でびっしょりになった背中を預け、大きく息を吐き出した。
さっきまでスマホの向こうでギャアギャアと喚き散らしていた実の父親(陸別町在住の毒親)は、結愛の放った「全録音データ警察提出&生活保護不正受給通報コンボ」のあまりの威力に、最後は逆ギレしながらも逃げるように電話を切っていった。
(三十万のタカリを回避できた……。会社名義の口座からの裏金流出も、結愛の鉄壁のブロックで阻止された……。助かった……本当に助かった……!)
一歩間違えれば、俺のVTuber事務所『株式会社インフィニティ・ワン』は社会的信用を失い、インボイスどころか刑事事件の片棒を担ぐところだった。
俺は胸をなでおろし、机の上にあった一日一食の主食・冷めた玄米おにぎりを一口かじった。
『ルシフェル様、冷や汗を拭いてください。戦闘はすでに終了しています』
ディスコードのスピーカーから、我が社の鉄面皮経理・結愛の冷静な声が響く。
「いやぁ、お前がいてくれて本当に良かったよ結愛! まさか全録音してるとは思わなかったぜ。これで親父も二度と連絡してこないだろ!」
『いいえ、楽観視は禁物です。あのような重度のギャンブル依存症かつ他者依存の人間は、喉元過ぎれば熱さを忘れます。近いうちに、別の手口で再び接触してくる可能性が極めて高い』
「えぇ……。じゃあどうすんだよ。こっちはいつまたあのクズから脅迫電話が来るかビクビクして暮らさなきゃなんないのかよ」
俺が再び絶望しかけた、その時だった。
『ふふっ。心配いりませんよ、ルシフェル様。……対策は、すでに完了していますから』
ウェブカメラの向こうで、いつもは感情を一切表に出さない結愛の唇が、わずかに、そしてゾッとするほど美しい笑みの形に歪んだ。
「……は? 対策って、まさかもう何かしたのか?」
『はい。お父様との通話内容、および過去の要求の数々。それらをすべて【データ処理】いたしました』
結愛の言葉に、AIアシスタントのジェミニ先生が無機質な合成音で補足を入れる。
『報告いたします。結愛様のご指示により、お父様の発言に一切の個人情報(氏名、住所、連絡先等)が含まれないよう完全に匿名化・マスキング処理を施した上で、我が社のメインコンテンツであるヨモさんの配信データへとコンバートいたしました』
「……は、はぁ!? 個人情報を消したってことは、ただの愚痴データだろ? そんなの何に使うんだよ!」
俺が首をかしげていると、画面の向こうでヨモのLive2Dの猫耳がピョコッと動いた。
画面の中のズボラ猫耳娘は、いつもの気だるげな表情から一転、なぜか最高に楽しそうな悪人の笑みを浮かべている。
『Yeah, guys. Do you want to hear a funny story about my boss? His deadbeat dad just tried to extort him for pachinko money.(やぁみんな。うちのボスの面白い話を聞きたい? 彼のサイテーなクズ親父が、パチンコ代をゆすり取ろうとしてきたんだよね)』
ヨモは、流暢かつ毒気たっぷりの英語で、さっきまで俺が親父から受けた脅迫電話の一部始終を語り始めた。
『The old man said, “Give me 300,000 yen in cash so the government won’t notice!” Classic tax evasion and welfare scam! What an absolute legend of trash!(その老害いわく、「役所にバレないように現金で30万よこせ!」だってさ。完璧な脱税とナマポ詐欺じゃん! クズ界のレジェンドすぎでしょ!)』
『SuperChat: $100.00 (LMAO! A real-life trash dad? That’s peak content!)(スパチャ100ドル:爆笑! リアルなクズ親父とか最高すぎるコンテンツじゃん!)』
『SuperChat: $50.00 (Send my regards to Toxic Father! Stay strong, Boss!)(スパチャ50ドル:トキシック・ファザーによろしくな! ボス、負けるなよ!)』
『SuperChat: $200.00 (A 40-year-old CEO fighting a welfare scammer dad? Netflix should adapt this!)(スパチャ200ドル:40歳の社長が生活保護詐欺の親父と戦うとか、Net〇lixでドラマ化しろよ!)』
画面のチャット欄が、瞬く間に緑色のスーパーチャットと爆笑のスタンプで埋め尽くされていく。
「な……ななな、なんだこれぇぇぇーーっ!?」
手からおにぎりをポロリと落とし、俺はゲーミングチェアからひっくり返りそうになりながら、モニターにしがみついた。
海外のリスナーたちが、俺の親父のクズっぷりを「Toxic Father(トキシック・ファザー/有毒な父親)」と名付け、瞬く間に海外ミームとして拡散し始めていたのだ。
『素晴らしいエンターテインメント性ですね、ルシフェル様』
結愛が淡々とキーボードを叩きながら解説する。
『プライバシーを完全に守った上で、お父様のクズな発言を「理不尽な毒親と戦う底辺社長の悲劇的コメディ」として世界に発信しました。結果、世界中のZ世代や労働者階級の共感を呼び、ヨモさんのチャンネルの同接数は過去最高を記録しています』
「共感ってなんだよ! 俺が身内で受けた精神的ダメージはマイナス百万だぞ!!」
『身内で起きた不幸を嘆くのではなく、世界に向けて「コンテンツ」として昇華し、外貨(スパチャ)に変える。これこそが、資本主義の荒波を生き抜くグローバル企業・インフィニティ・ワンの正しい姿です』
結愛のあまりにもドライで、あまりにも強靭な資本主義的ロジックに、俺は言葉を失った。
数時間前まで、俺の財布と精神をズタズタに引き裂こうとしていた陸別のクズ親父。
しかし、結愛の手にかかれば、その悪意すらも世界中の笑いとドルに変換される「最上級の燃料」にされてしまったのだ。
『SuperChat: $500.00 (Here is some extra money for your dad’s pachinko! Just kidding, buy yourself some meat, Boss!)(スパチャ500ドル:親父のパチンコ代に足してよ! 冗談だよ、自分で肉でも買えよボス!)』
チャット欄に投げ込まれた、日本円にして約七万円の超大型スパチャ。
それを横目に、俺は床に落ちた冷めた玄米おにぎりを拾い上げ、遠い目をして呟いた。
「……親父。お前のクズな生き様は、今や大西洋を越えて、世界中の笑い者になってるぞ……」
世界進出を果たした我が社は、まさかの「毒親コンテンツ化」という斜め上の方向へ暴走し始めるのだった。
コメント
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いやもうこれ、クズ親父が完全に“素材”になってて笑ったわwww「トキシック・ファザー」ってネーミングセンスと海外ミーム化の流れ、最高すぎるでしょ。結愛の「嘆くよりコンテンツにして外貨に変えろ」理論、資本主義の闇と現実解が混ざってて痺れる。社長が冷めた玄米おにぎり落とすシーンで草。日常の不幸をエンタメに昇華するスタイル、俺は好きです🔥