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「八雲待って!!」
私はそう叫んだが、八雲は構わず槍を放った。
「奈緒!!あいつどうかしてる!俺達も狙って槍を投げてやがる!」
悠真の言う通り、八雲の槍は私のすぐ側に刺さっている。
「そんなっ…」
「先輩逃げますよ!!」
慶斗君に言われたが、私はまだ八雲を諦めたくなかった。
「八雲!話を聞いて!」
「聞く話なんてない!!君達がそいつらと一緒にいることが全てを語っている!!!」
仮面越しでもわかる怒りの形相だった。
「死ね!!!悪党が!!!」
一際大きい槍を私に投げようとした時。
「真弥を見つけたの!!!!」
ピタッ
八雲の動きが止まった。
「…?」
なぜ真弥の名前を聞いて止まった?
「…へぇ」
「話を聞いて欲しいの!八雲にも協力して欲しいの!」
「本当にそいつらが何もしてこないってことを証明してよ」
八雲が槍でギリスとグースを指す。
「…証明、か」
ギリスが八雲を真っ直ぐ見る。
「僕達が本気を出さずとも、この人間達はすぐ殺せる。でも殺してないのは殺せない事情があるからだ。協力を要請したのは彼らじゃない、僕達だ。」
「それで?それだけじゃ困る」
「それと、なにより、君は僕達のリーダーの2つある能力うちの1つを持っている。」
「!?」
「なんて…!?」
八雲が!?
確かに良く考えれば、クローバーは補助全般、スペードは完璧な防御、ダイヤは攻撃魔力全般。
ハートが物理攻撃に特化した攻撃と言われれば納得がいく。
「…確かに強い能力とは思ったけど、お前達の同族の能力か。吐き気がするよ」
「とにかく、それを君が持っている以上僕達には君が必要なんだ。これは命令じゃなくて、君にお願いしてるんだ。」
「…なるほどね」
八雲は槍を手から消す。
「お前は…なにか自分の以外の記憶を見たか…」
「うん、フィゲルダのことも君らのことも、混沌の社会事情も知ってたよ。」
「じゃあ真弥には記憶が継がれてない…?」
「いや…真弥は初めて俺達を見た時…俺達を誰か知っていた…」
グースが考え込む。
「ねぇ、なんでそんなこと、私に聞くの」
「…それをお前達にも説明していなかったな。能力の引き継ぎは前身が強ければ強いほど、後身に記憶が引き継がれる。」
「…!だから俺は、あんたの部下の記憶を!」
叶太が納得したように言う。
「そうだ…スペードの8の記憶だ…自我を持った兵士だった」
グースが八雲に向き直る。
「…分かってくれたか、八雲とやら…」
「…正直納得はいかないね、私からすれば前身が君らの同族だったとはいえ、君達は地球を滅ぼさんとする悪だ。今すぐ殺してやりたいとこ…」
八雲がそう言いかけた時。
地面から灰色の巨大な触手が現れた。
「っ…!?」
「くっ…ロアがどこかにいる!!」
「っ…!真弥!!真弥ぁああ!!!」
触手は容赦なく私達を攻撃してきた。
バァンッ!!
「あ゛っ…!」
「っ…!!」
春子が地面に叩きつけられ、内田さんが建物の壁に叩きつけられた。
春子は血を吐いている。
内田さんはピクリとも動かない。
羽海汐遠
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自転車和尚
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天楽°
38
#塩レモン
comi
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「まずいっ…」
八雲が春子を助ける。
「ロアッ!!どこだ!!!」
触手が止まる。
触手が激しく攻撃を繰り返したことによって周囲の建物は崩れ、地面にはヒビが入っていた。
「ごほっ…真弥っ!!…っ!!」
顔を上げると、あの白のワンピースに身を包んだ真弥がいた。
「真弥っ…!」
「…ようやく見つけたぞ」
「…?」
真弥の視線の先を見ると、そこに居たのは八雲だった。
「ロア…一体何を…!?」
「地球に降りた能力者はこれから私に食われる。そして…お前達を食う。もちろん、お前らもだ、グース、ギリスディア」
「何っ…!?」
「何を言ってるんすか!」
「思い出すんだ!!お前は混沌、ハートのジャック、エトロア!そうだろ!」
「…」
「真弥…」
もう別人のようだった。
それが、能力が継がれた影響なのか、それとももう彼女自身が変わってしまったのか。
真弥の能力は…!?
『捕食』捕食すればするほど自身が強化される。前身無し。
「えっ…!?」
グースを見る。
グースも困惑していた。
元々ハートのエトロアの能力だった以上、前身が無いわけがないのだ。
「今は、まだお前達は食わないでおいてやる。そこの仮面の女が必要だ。しかし、そのうち私は全てを壊す。フィゲルダも…」
「死ねぇえぇえええ!!!!」
八雲が唐突に真弥に飛びかかる。
しかし、触手によって塞がれる。
「…お前は私にとって重要だ、余計なことはするな」
睨む八雲にそう言う。
「待て!!ロア…君は一体何が目的なんだ」
真弥がその表情に憎しみを顕にさせた。
「全て壊すためだ」
灰色の職種が真弥を包み、地面へと沈んでいく。
「がはっ…ごほっ…」
「春子!!」
酷い状態だ。
血を吐いている、叩きつけられた時に内臓を傷つけたかもしれない。
このままでは死んでしまう。
「あんた達何とかできないの!?」
香織がグースとギリスを見てそう叫ぶ。
「…悪いが、俺は防御しか使えない。ギリスは…攻撃能力だけだ…」
「はぁ…?」
「愛菜は!?」
「傷が見えるところにない!できないよ!」
「じゃあ黙って死ぬの見てろってのかよ!?」
まずい、全員がパニック状態だ。
「ちょっと皆!落ち着い…」
だめだ、このままじゃ春子が本当に死んでしまう。
皆聞く耳を持ってくれない。
もうだめ…
「退いて」
私が振り返ると、先程叩きつけられて動かなかった内田さんが立っていた。
あれだけの打撃で全身めちゃくちゃだったはずなのに、無事だった。
「なんで…」
内田さんが春子に近づく。
「悪いけど、少し痛いと思う」
内田さんが春子の唇に自分の唇を重ねた。
「なっ…え!?」
「なにしてんの!?なんでキスしてんの!?」
私は内田さんを集中して見た。
『細菌』自分の意のままに細菌を働かせることができる。前身大地界に属す。
細菌…!
「ちょっと皆待って!」
私が皆を止めて春子の様子を見ると、春子の呼吸はみるみるうちに回復した。
「な…なにをしたんだ…?」
ギリスが困惑する。
内田さんが春子から口を離す。
「本当はお腹に指刺して注入してもいいんだけど、それは可哀想だから」
「内田さん死んだんじゃ…」
私の言葉をグースが遮る。
「保護型が開花する条件をクリアした…だから能力が解放された…」
「そういうことみたいね。私は確かに1度死んだはず」
「内田さんのその能力は一体何なんだ…?」
悠真が私に聞く。
「『細菌』…。自分の意のままに細菌を働かせることができる。そうだよね、内田さん」
「….そうらしいね」
「ぷはっ!」
春子の意識が急にはっきりとする。
「私生きてるっ…!?」
「内田さんが治してくれたんだよ」
「あ…ありがとう…」
慶斗君が俯いている。
「真弥は…もう、戻らないんすかね」
悲しそうに言う慶斗君に私達はなにも言えなかった。
八雲がそこで立ち上がった。
「もう、殺すしかない」
「何を言うんだ…あそこにはロアの能力が…」
「関係ない。今アレこそが地球を脅かしてる。黙って殺されるくらいなら、こっちから殺すまで。それに…見たんだ。あの触手、ここから何kmも離れたところにも生えてた」
「どういうこと?」
「あいつは、さっきのあの瞬間地球上にいる能力者を全員食ったはずだ。」
「それは不可能だ…この地球全体に触手をだすなど…」
そう言いかけてグースが青ざめた。
「もし君達同族が繋がっているなら、君達のところのネスティ…もう合流してるはずだよね?」
確かに変だ。
「待て!!僕達にはキングから与えられた制約がある!『同族を食うこともしくは殺害することは極刑に値し、犯した時点で即追放。』!ネスティを食ったということは真弥はもう死んでいるはずなんだ!」
八雲が冷静な顔でギリスを見る。
「君達ジャックが混沌を留守にしていることの意味が分かってないのか?ジャックは最大の戦力なのに、地球に能力が漏れたからって焦って全員で地球に来て。キングがその間に殺されたという考えはなかったのか?」
「!?」
「天界…冥界…大地界…?誰かなんて知るか。混沌は元々この3界から忌み嫌われていただろ。」
「そう…なの…?」
「まさか…」
「制約はもはや無いんじゃないか。いや…そもそも君達が帰る混沌界すら、もう…」
「そんなことがあってたまるかっ…!!」
ギリスが下唇を固く噛んで俯いた。
「いや、まだそれは分からないんじゃないのか。なんらかの形で本人と話さないと…」
叶太が言う。
「話すことができれば…だがな」
「ねぇ…ダイヤなんでしょ!?ハートに1番近い強さしてるあなたなら勝てるんじゃないの!?」
愛菜がギリスに言う。
「…無理だ。ただの序列の範囲ではないんだ…僕はロアの足元にも及ばない…ロアはハートのジャックが長かったんだ、勝てないよ」
グースがハッとした顔をする。
「…もしかしてロアは…混沌が3界によって滅ぼされたことの報復をするために能力を集めてるんじゃないのか…?」
「…!」
「そうだとしたら、なんで君達まで食われなきゃいけないんだ。」
「気が動転してるんじゃ…きっとそうだ!ロアはきっと僕達のみか…」
ギリスがそう言いかけた所を八雲が遮る。
「味方?もう奴は人類を私達以外食って、最終的には君達も含むこの全員が食われるんだよ?そんな悪党を、いつまでも昔の記憶に縋って仲間だと思うのか?」
ギリスの耳元で八雲がそう囁く。
ギリスは大量の汗をかいて息を荒くしている。
そこで香織がこう言った。
「なんでもいいけど、とにかくもう真弥は殺さなきゃいけないでしょ。今のところ話し合えそうもないじゃない…」
「そんな!」
慶斗君が納得いってないようだ。
「奈緒先輩!!」
「…慶斗君…」
私は慶斗君を真っ直ぐ見て、決断した。
「…真弥を、殺そう」
真弥が悪だから殺すのではない。
私は、長い悪夢を見ている真弥を、助けたいだけだ。
コメント
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うわあ、めちゃくちゃ重くて切ない回だった…!内田さんの能力開花の瞬間、まさかああ来るとは思わなかったな。「保護型が開花する条件をクリアした」って設定、まさか一度死ぬことだったとは。細菌を操って唇で治療する演出がゾッとするようでいて不思議に優しかった。 それよりも何より、奈緒ちゃんの「真弥を♡♡♡う」という決断に胸が詰まった。悪だからじゃなくて、長い悪夢を見てる真弥を助けたいから…ってその言葉に、彼女の覚悟と愛情の両方が詰まってて。八雲の「キングはもう♡♡♡れたんじゃないか」って推測も含めて、混沌界の構造から全部揺らぎ始めてて、続きが本当に気になる。