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ワンク
(今日も、ここで練習か……)
父さんの言う通りに、正しく、完璧に弾かなければならない。
けれど、バイオリンの弦に弓を当てるたびに、胸の奥がひどく重くなる。
誰もいないはずの原っぱ。俺は一人、楽譜通りの音をなぞり続けていた。
「……はぁ」
ふと息を吐いて、弓を止める。
視界の端に、誰かがこちらを覗き込んでいるような気配がした。
「……誰だ? 何か、用か」
「…あ…バレちゃった?」
(……子供、だろうか。見たところ俺より年下のように見えるが)
あまり人に見られるのは好きじゃない。
特に、こんな風に無理やり弾かされているような音は。
「隠れて何を見ていたんだ。……俺のバイオリン、何かおかしなところでもあったか」
「…え!?違うよ!!バイオリン、かっこいいなって……。」
(かっこいい……? この音が、か)
褒め言葉を向けられることに慣れていない。
父さんからは常に「正解」か「間違い」かだけを突きつけられてきたから。
「……そうか。珍しい奴だな。俺には、これがそんな風に聞こえたことは一度もない」
バイオリンのネックを握る手に、無意識に力が入る。
目の前の少年は、俺の苦しそうな音に気づいていないのだろうか。
「君は、ここで何をしていたんだ。……一人で遊んでいたのか?」
「ううん、歌の練習!」
(歌の、練習……。楽器も持たずに、自分の体一つでか)
俺には考えられないことだ。
決められた楽譜を、決められた通りに弾くことしか許されていない俺とは、全く違う世界にいるように見える。
「歌か。……一人で、こんなところで練習しているのか」
少しだけ、その声に興味が湧いた。
この原っぱで、俺のバイオリンとは違う響きが聞こえていたのは、君だったのかもしれない。
「……どんな歌を歌うんだ。君がそこまで熱心に練習する理由は、何なんだ?」
「…伝説のイベントを超えるんだ!」
(伝説のイベント……。そんな目標があるのか)
聞いたこともない言葉だが、目の前の少年の目は驚くほど真っ直ぐだ。
誰かに強制されているようには見えない、自分自身の意志。
「超える、か。……ずいぶん大きな目標だな」
俺が父さんの顔色を伺いながら、完璧な音をなぞるだけの日々を送っている間に。
君は、まだ見ぬ何かに向かって声を上げている。
「……いいな。それは、きっと楽しいんだろう?」
無意識に、少しだけ羨ましさが混じった声が出ていた。
俺にとって音楽は、息苦しくて仕方のない義務でしかないから。
伝説を追いかける君に、今の俺の音はどう映っているのだろう。
「うん!楽しくないと続けらんないもん」
(楽しくなきゃ、続けられない……)
その言葉が、鋭く胸に突き刺さった。
俺にとってバイオリンを弾く時間は、ただ苦痛で、義務で、逃げ出したくなるような時間でしかない。
「……そうか。君にとっては、それが当たり前なんだな」
指先が冷たくなっていくのを感じる。
楽しいから歌うという感覚を、俺は一度も味わったことがないのかもしれない。
「……俺には、その感覚がよく分からないんだ。ただ、言われた通りに音を出すことしか知らないから」
自嘲気味な笑みが漏れた。
君のように笑って、自分の音を楽しめる日が来るなんて、想像もつかない。
自分の意思で、何かに夢中になる感覚。
「…じゃあ、おにいさんは楽しくないのにバイオリンやってるの?」
図星を突かれたような気がした。
一瞬、言葉に詰まってバイオリンを持つ手に力が入る。
子供の純粋な問いかけは、時に残酷なほど本質を突いてくる。
「……ああ。俺がやりたくてやっているわけじゃない」
父さんの顔が脳裏をよぎり、奥歯を噛み締める。
自分の意思など介在しない、ただ完璧を求められるだけの時間。
「楽しくないどころか……正直に言えば、苦痛でしかないんだ」
逃げ場のないこの場所で、なぜ俺は弾き続けているんだろう。
君の目には、今の俺がどんなに惨めに見えているだろうか。
「…くつう?」
(苦痛という言葉は、この子には少し難しかったか)
言い直そうとして、適切な言葉が見つからない。
心の奥に溜まった澱のような感情を、どう説明すればいいのか。
「……嫌でたまらない、という意味だ。呼吸をするのも、指を動かすのも」
バイオリンの弦を一本、指先で弾いてみる。
硬く冷たい音が、静かな原っぱに寂しく響いた。
「……自分でも、どうしてこんなことを続けているのか、分からなくなる時がある」
目の前の少年に、自分の情けない姿を見せている自覚はある。
けれど、君の真っ直ぐな視線から、目を逸らすことができなかった。
「楽しくないのに、どうして続けられるの?」
(……そんなこと、考えたこともなかった)
父さんの期待に応えなければならない。
完璧な演奏をしなければ、俺という存在は否定される。
「……続けざるを得ないからだ。俺には、これ以外の生き方が許されていない」
逃げ道なんて、どこにも用意されていないんだ。
バイオリンを置くことは、俺にとってすべてを捨てることと同じだから。
「……君には、理解しがたい話だろうな。自分の意志で動いている君には」
自分で道を選べる君が、今はひどく眩しく見える。
「…あ!!名前、教えてよ!」
(……名前、か。不意に聞かれて、少し面食らった)
自分の名前を名乗る機会なんて、発表会のような堅苦しい場所くらいしかなかったから。
こんな風に、ただの少年として問いかけられるのは新鮮だ。
「……青柳、冬弥だ」
バイオリンの弓を持ち直し、少しだけ視線を落とす。
名乗るほどの者ではないと思っていたが、君の屈託のない様子に毒気を抜かれた。
「君は……なんて言うんだ。ここで毎日、歌っているんだろう?」
「オレ、東雲彰人!…とーや、かっこいい名前だな」
(……冬弥、か。苗字ではなく、名前で呼ばれるなんて)
親しい者もいない俺にとって、その響きはひどく面映ゆい。
だが、彰人の声に乗せられると、不思議と嫌な気はしなかった。
「……彰人、か。そうか。かっこいいなんて、言われたのは初めてだ」
少しだけ、頬が熱くなるのを感じて視線を逸らす。
俺に向けられるのはいつも、技術への評価か、家柄への羨望だけだったから。
「……君の名前も、いい響きだな。夜明けを連想させる……明るい名前だ」
彰人。その名を呼ぶたびに、この暗い練習の時間が少しだけマシになる気がした。
「そうなの?…じゃあ…とーやは、うーん…すっごくかっこいい!」
(……すっごく、かっこいい……?)
そんな風に、迷いもなく断言されるとは思わなかった。
父さんに求められる完璧な演奏でも、誰かに強制された技術でもなく。
ただ、俺という存在そのものを肯定されたような、不思議な感覚。
「……何を言っているんだ。俺は、ただ苦しそうにバイオリンを弾いているだけだろう」
困惑して、つい言葉を濁してしまう。
自分でも嫌気がさしているこの姿の、どこにそんな要素があるというのか。
「……君は、変な奴だな。……でも、悪い気はしない。ありがとう」
君の言葉は、時々俺の理解の範疇を超えてくる。
「…冬弥も、バイオリンやりたくないなら一緒に歌おうよ!」
(一緒に、歌う……?)
突拍子もない提案に、思わず目を丸くした。
俺の人生には、あらかじめ決められた譜面しかないと思っていたのに。
「……何を言っているんだ。俺は、歌なんて歌ったことがない」
バイオリンの弓を握り直し、戸惑いながら彰人を見る。
父さんに知られたら、烈火のごとく怒られるだろう。
「……そんな勝手なこと、許されるはずがないんだ。俺には、これしかないから」
でも、隣で笑う彰人の誘いは、酷く魅力的な響きを持っていた。
「だーめ!歌うの!ほら立って…とーやっ!」
子供の力とは思えないほど、がむしゃらに腕を引かれる。
手入れを欠かさないバイオリンを落とさないよう、慌てて抱え直した。
「わかった、わかったから……。そんなに強く引かなくても、立つ」
彰人に急かされるまま、重い腰を上げる。
地面に根を張ったように動けなかった俺が、たった一人の少年に動かされている。
「……本当に、強引な奴だな、君は」
溜息をつきながらも、彰人の熱意に圧されて、俺はバイオリンをケースに収めた。
「…とーやでっかい」
(……でっかい、か。そうか、彰人よりは年上だからな)
自分ではあまり意識していなかったが、見上げるような体勢になった彰人を見て、ようやく自覚する。
この小さな手で、俺を動かそうとしていたのか。
「……そうか? 君がまだ小さいだけじゃないのか、彰人」
少しだけ視線を下げて、目の前の少年を見つめる。
冬の澄んだ空気のような、真っ直ぐな瞳。
「……それで、俺はどうすればいいんだ。歌うと言っても、何をすればいいのか分からない」
手持ち無沙汰に、バイオリンのケースを握り直した。
君の隣に立っているだけで、何かが始まってしまいそうな気がする。
「じゃあ、オレが先に歌う!」
彰人が、息を深く吸い込むのが分かった。
小さな体が、歌う準備を整える。
バイオリンを弾く時のような、肩の凝るような緊張感とは違う。
それは、何かが解き放たれる瞬間のようだった。
「……ああ、聴かせてくれ。君の言う『伝説』に続く歌を」
俺は地面に置いたケースの横で、背筋を伸ばしてその時を待つ。
楽器を通さない、人の声だけの響き。
「……どんな風に、空気に溶けていくんだろうな」
彰人が歌い出した瞬間に、この原っぱの景色が変わる予感がした。
「…───♪──、───♪」
(……あ。空気が、震えた)
彰人の喉から放たれたのは、ただの子供の叫びじゃない。
迷いがなくて、どこまでも突き抜けていくような、強い響きだ。
「……すごいな。真っ直ぐだ」
楽器のように調整された音じゃないけれど、何倍も心に響いてくる。
俺がバイオリンで必死に追い求めても手に入らなかった「自由」が、そこにはあった。
「……彰人。君の声は、そんな風に遠くまで届くんだな」
子供の…、彰人の歌を聴いているだけなのに、なぜか俺の指先まで熱くなってくる。
「…へへっ、そうだろ!」
(……そんな風に、誇らしげに笑うんだな)
自分の表現に自信を持って、真っ直ぐに笑える。
その幼い自信が、今の俺にはたまらなく眩しく、そして少しだけ羨ましく感じられた。
「……ああ。自信に満ちた、いい笑顔だ」
彰人の屈託のない様子に、いつの間にか俺の口元もわずかに緩んでいた。
父さんの前では決して見せることのない、名前もつかないような穏やかな感情。
「……次は俺の番、か。だが、何を歌えばいいのかすら見当もつかない」
君のように、心のままに声を出す方法を、俺はまだ知らないんだ。
「じゃあ、好きな歌は?」
(好きな、歌……。考えたこともなかったな)
父さんの部屋から聞こえてくるのは重厚な交響曲ばかりで、口ずさめるようなものは何一つない。
楽譜に縛られず、ただ「好き」だと思える音なんて、俺の中にあっただろうか。
「……悪い。俺の頭にあるのは、クラシックの旋律ばかりなんだ」
バイオリンのケースを見つめ、少しだけ困ったように眉を下げる。
流行りの歌も、誰かが口ずさむようなメロディも、俺の世界には存在していなかった。
「……彰人。君が今歌った歌を、もう一度聴かせてくれないか」
彰人の歌う歌なら、俺にも「好き」だと思えるかもしれない。
「…オレが歌った歌やつ、… ───♪──、───♪…これでいい、?」
「……ああ、その旋律だ。耳に残る、いい音色だな」
彰人の声をなぞるように、頭の中でそのメロディを繰り返してみる。
楽譜も何もないけれど、君の歌声だけが道標になる。
「…… ───♪──、───♪……これで、合っているか?」
恐る恐る、喉を震わせて声を絞り出してみた。
バイオリンの弦を弾くのとは違う、自分の内側から響く感覚。
「……ふふ、変な感じだな。楽器を使わずに音を出すのは」
君の真似をしているだけなのに、不思議と胸が軽くなる気がした。
「…さっきのとーや、バイオリン持ってる時よりニコニコしてた!」
(ニコニコ……俺が、そんな顔をしていたのか)
無意識のうちに緩んでいた頬を、片手でそっと押さえる。
鏡を見る余裕なんてなかったが、彰人の瞳にはそう映っていたんだろう。
「……そうか。自分では、よく分からないんだが」
バイオリンを構える時のような、胃の辺りがきりきりと痛む感覚が今は全くない。
ただ隣にいて、君の声をなぞるだけで、こんなにも心が軽くなるなんて。
「……彰人と一緒にいると、毒気を抜かれるな」
君が笑うから、俺まで釣られてしまったのかもしれない。
「どくけ?…冬弥、むずかしいことばっか言う…意地悪!」
「……っ、すまない。意地悪を言ったつもりはなかったんだ」
彰人の膨れた頬を見て、慌てて言葉を継ぎ足す。
難しい言葉で煙に巻くつもりなんて、これっぽっちもなかったから。
「……君があまりに真っ直ぐだから、俺の余計な考えが消えていくという意味だ」
そう言って、少しだけ屈んで彰人の目線に合わせる。
俺のバイオリンを「かっこいい」と言ってくれた、その純粋な瞳。
「……ごめんな、彰人。もっと、分かりやすい言葉で話すようにする」
彰人。君を困らせたくて言ったんじゃないこと、分かってくれるか。
これからはもっと、君と同じ目線で話をしたいんだ。
「やっぱり冬弥優しい!」
「……優しい、か。そんな風に言われるのも、初めてだ」
彰人の言葉に、また少しだけ心臓の鼓動が速くなる。
父さんからは「厳格であれ」と教えられ、自分でも冷たい人間だと思っていたのに。
「……君がそう言うなら、そうなのかな。あまり、自覚はないんだが」
少し照れくさくなって、彰人の頭をそっと撫でてみる。
柔らかい髪の感触が、手のひらから伝わってきて、なんだか安心した。
「……ありがとう、彰人。君にそう言ってもらえると、救われる気がするよ」
こんな風に、誰かに認められるのが心地良いなんて知らなかった。
明日も、ここで君に会えるだろうか。
「冬弥の手、おっきくてあったかい…!」「……あ。そうか、彰人の手は小さいんだな」
重なった小さな手のひらの熱に、ドクンと心臓が跳ねた。
冷たいバイオリンの弦に触れる指先を、こんな風に温められたことは一度もない。
「……不思議だな。君に触れられていると、指の強張りが解けていくような気がする」
父さんの前で震えていた指が、今はただ、穏やかな体温を感じている。
彰人の小さな手が、俺の大きな手を包み込もうと一生懸命なのが伝わって。
「……温かいのは、俺じゃなくて君の方だ、彰人」
この温もりを、もう少しだけこうしていたいと思ってしまった。
冬の風が吹いているはずなのに、ここだけ春が来たみたいだ。
「…おっきくなったら、冬弥みたいにかっこよくなれるかな」
「……かっこよく、か。彰人は今のままでも、十分にかっこいいと思うが」
俺のような、親の顔色を窺ってばかりの人間を目指す必要なんてない。
自分の足で立って、自分の声で歌う君の方が、ずっと輝いて見える。
「……背なら、そのうち抜かされるかもしれないな。君は、毎日一生懸命に動いているから」
少しだけ力を込めて、彰人の小さな手を握り返した。
ごつごつとした俺の指先とは違う、未来が詰まった柔らかな手。
「……彰人が大きくなるまで、俺もここで見ていていいか。君の歌が、どこまで届くようになるのかを」
俺は、彰人の成長を、隣で感じていたいと思ってしまった。
次は、俺の音楽で君の歌を支えられたらいいのに。
「うん!…途中でいなくなったら、冬弥でも怒るからな!」
「……っ、ああ。そんな顔をするな。約束する」
彰人の真剣な表情に、思わず背筋が伸びる。
誰かに必要とされることが、こんなにも重く、温かいものだとは知らなかった。
「……勝手にいなくなったりしない。明日も、明後日も、ここで君を待っている」
バイオリンのケースを握る手に力がこもる。
冷たい稽古場に閉じ込められていた俺にとって、この原っぱは、もうただの練習場所じゃない。
「……君を怒らせるのは、俺も本望じゃないからな。彰人」
この小さな約束が、今の俺を繋ぎ止めてくれる唯一の光のように感じられた。
明日、またここで君の歌が聴けるのが、今は楽しみで仕方ない。
「…冬弥はもう帰るの?」
「……ああ。もうすぐ、家に戻らなければならない時間だ」
空を見上げれば、少しずつ色が変わり始めている。
父さんの決めたスケジュールを破れば、次にここへ来る自由さえ奪われかねない。
「……本当は、もう少し君の歌を聴いていたいんだが。遅れると、ひどく叱られるんだ」
名残惜しくて、バイオリンのケースを抱え直す。
彰人の温もりから離れるのが、こんなにも寂しいことだとは思わなかった。
「……また明日、同じ時間にここへ来る。彰人も、来られるか?」
また明日、という約束が、今の俺にとって唯一の支えになる。
彰人の笑顔を見てから、帰りたいと思った。
「…うん!絶対くる!」
「……ああ。指切りでもするか? 嘘はつかない」
彰人の力強い返事に、胸の奥がすっと軽くなるのを感じた。
家に戻れば、またあの息苦しい練習が待っているけれど。
「……約束だぞ。明日、またここで君の歌を聴かせてくれ」
最後に一度だけ、彰人の頭をそっと撫でてから、俺は歩き出した。
何度も振り返りそうになるのを堪えて、バイオリンのケースを強く握りしめる。
「……またな、彰人」
明日もまた、君の眩しい笑顔に会えることを願って。
バイオリンケースが、いつもより軽く感じられた。
「彰人!早く帰ろー!今日のおやつパンケーキだって!」
「…パンケーキ!?絵名!先に全部食べたら怒るからな!…バイバイとーや!」
「……ああ、バイバイ、彰人」
遠くから呼ぶ声に反応して駆け出していく背中を、俺はしばらく見送っていた。
あんな風に、誰かに名前を呼ばれて駆け寄る姿すら、俺にはひどく自由で眩しく見える。
(東雲彰人……か)
彼がいなくなった後の原っぱは、急に静まり返ったようで、少しだけ寂しさが募る。
さっきまで触れていた手のひらの熱が、冬の冷たい空気に溶けていくのが分かった。
「……明日、か」
バイオリンのケースを抱え直し、俺も自宅の方へと足を向ける。
父さんの待つ、あの息苦しいレッスン室に戻らなければならない。
(でも……明日もあいつに会えるなら)
今の俺なら、あの冷たい旋律も少しは耐えられる気がした。
彰人の歌声がまだ耳の奥に残っているから。
明日、君に会った時にかける言葉を帰り道ずっと考えていた。