(物で釣って抱くなんて、その辺の馬鹿でもできるだろ……)
いざという時、自分がこんなに使えない男になるとは思っていなかった。
俺はもう一度深い溜め息をつき、彼女に謝った。
「ごめんね、恵ちゃん。次はもっとちゃんとする」
自分本位なセックスはしないように努めたつもりだが、出会って三日でお持ち帰りは酷すぎる。
寝る前にスマホをチェックすると、尊から一言だけメッセージが入っていた。
【くれぐれも大切にしてくれ】
すまん……。
朱里ちゃんからもメッセージがあった。
【こんばんは。いいムードになっていたらすみません。恵があんなふうに好意的に接する男性は涼さんが初めてです。尊さんの親友だし、涼さんなら恵を雑に扱う事はないと思います。恵も大人ですし、何があっても『自分の責任だ』と言うと思います。それでも、どうか彼女があとから悲しむような事はしないでください。恵の事、任せました】
彼女からのメッセージを読み、俺は息を吐いてスマホをベッドサイドに置く。
雑には扱っていない。この上なく大切にしている。
(……でも、この必死に囲い込んでる感じ、童貞かよ……)
俺は恵ちゃんに一生懸命彼女にプレゼンして『付き合う』と言わせ、同棲まで迫っている。
まさか尊と朱里ちゃんも、ここまでやっているとは思っていないだろう。
(……でも、大切にするし、丁寧に向き合っていく。彼女とならうまくやれると思うし、デートを重ねてもっと知り合っていきたい。……というかやっぱり、同棲したほうが早いよな……。……いやいや)
俺はすぐ効率を求めてしまう自分に突っ込みを入れる。
(明日の朝、シラフになった時の反応を見て、適宜判断していこう)
そう決めたあと、俺は思いだしたように欠伸をして目を閉じた。
(……どこだ……。ここ……)
朝陽を感じて目を開けると、知らない天井が目に入った。
(凄い広い。なんでこんな所に……)
そう思って身じろぎした時、指先に誰かの体が触れてビクッとした。
恐る恐るそちらを向くと、涼さんの寝顔があった。
(睫毛なっっっっが!!)
私は無言で目を見開き、涼さんの美貌を凝視する。
目を開けている時は生き生きとした美に溢れているけれど、寝顔はまた違う雰囲気で美しい。
(このまま美術館に展示されててもおかしくない……)
涼さんはキリッとした眉毛をしているのもあり、寝ていても顔面力がある。
(私なんてぼやけた寝顔だったしな……)
いつだったか朱里がいたずらで私の寝顔を写真に撮った事があり、それを見た時はガッカリした。
(朱里は寝ていても可愛いのにな。……っていうか、涼さんに寝顔見られたんだろうか?)
そう思うとギクッとする。
「あ」
不意に自分が下着を穿いている事に気づき、私は小さく声を漏らす。
(穿かせてもらってたー!!)
私は心の中でムンクの『叫び』状態になり、硬直する。
(あああああああああ……)
私はうつ伏せになり、バフッと枕に顔を埋めて無言で悶える。
すると、楽しげな涼さんの声がした。
「……けーいちゃん。おはよ」
低くて艶のある声を聞いてビクッと肩を震わせた私は、おずおずと顔をずらして彼のほうを見る。
すると寝起きからバッチリ美形の涼さんが、私を見て微笑んでいた。
朝から目に眩しい!
「なんて顔してんの」
涼さんは私の髪をクシャッと撫でてくる。
「……涼さんって朝から美形なんですか? 二十四時間営業? もうちょっと休んだほうがいいですよ」
照れながらそう言うと、涼さんは「あはははは!」と声を上げて笑った。
「恵ちゃんは朝から面白いね」
「そんな事ありません」
「かーわいい」
涼さんは私をギュッと抱き締めたあと、額にキスをしてきた。
「さて、起きようか」
そう言って涼さんが起き上がると、鍛えられた上半身が露わになり、私は思わずガン見してしまう。
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