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 睡蓮はビターチョコレートのティディベアを胸に抱いてベッドに寝転んでいた。脳裏に浮かぶのはこのぬいぐるみを手にした瞬間の虚無感、悲しみ。


(ベージュのくまが良かったのに)


 一目散にソファに駆け寄ってベージュのティディベアの腕を掴んだ木蓮の満面の笑み、父親は戸惑っていたがなにも言わなかった。


(じゃんけんする事だって出来たわ)


 けれど一番腹が立つのは「これが良い」と言い出せなかった睡蓮自身だった。木蓮に「私もそれが良い」と言わなかった癖に隠れてベッドの中で泣き、母親に頭を撫でられていた自分。


(…………自分が嫌い)


 睡蓮は両親や木蓮からの過保護ともいえる気遣いを肌で感じていた。


(………..自分が嫌い)


 睡蓮は自分の情けなさや弱さを重々承知していた。一人で頑張ろうと決意した事もあるがそれは難しかった。


(………….自分が嫌い…………木蓮も嫌い)


 同じ母親から生まれ同じ顔であるにも関わらず、睡蓮は気管支喘息を患い部屋の中から窓の外を眺め、健康な木蓮は庭を所狭しと走り回っていた。


「木蓮、危ないよ」

「だーいじょうぶー!」


 心配そうに空を見上げていた睡蓮も木蓮の様に泰山木の枝に座って浅野川の景色を見たかった。いつしか睡蓮は、自分が内向的で受動的なのは身体的に劣っているからだと思う様になった。


(………….木蓮が嫌い)


 その微妙な均衡が和田雅樹と出会った事で揺らぎ始めた。睡蓮自身、この見合いで雅樹にときめきはしたものの縁談にはそれ程乗り気ではなかった。


(あの赤い指輪)


for mokuren masaki


 雅樹が木蓮に贈った深紅の指輪を見つけた瞬間、これまで抑えていた睡蓮の負の感情が許容量を超えて溢れ出した。


(木蓮には負けたくない)


 和田雅樹は決してくまのぬいぐるみでは無い。然し乍ら睡蓮の心には恋情という殻に包まれた、別の感情が芽生えていた。

 朝日が差し込む叶家のダイニングテーブルでは三人の会話が弾んでいた。


「睡蓮、おまえ彼方さんのお宅にお邪魔したんだって?」

「うん」

「こりゃあ驚きだ」

「…………..やめてよ」


「美咲さんも喜んでいたわ」

「なにをだ」

「睡蓮が作ったお料理を雅樹さんが美味しいってお代わりしたんですって!」

「あぁ……..ロールキャベツか」

「うん」

「睡蓮のロールキャベツは美味いからな!父さんにも作ってくれよ」

「うん」


 木蓮はその話題の中に入る事が出来ず味噌汁の豆腐を摘んでは崩していた。いつもならば「ええー、すごい!」と相槌を打つ所だが、喉の奥に魚の小骨が刺さった様で言葉が出ない。


「………..どうしたんだ」


 その表情に気付いた父親が怪訝な顔をした。


「木蓮、身体の具合でも悪いの?」


 母親がその横顔を覗き込んだ。


「ううん……….なんでもない」

「そんな事無いでしょう、なんだかおかしいわよ」


 ふと顔を挙げると睡蓮の目が笑っていない事に気が付いた。自分がなにをしたと言うのだ。睡蓮の変化に木蓮は気不味さとひと匙の怒りを感じた。


(あいつと結婚出来るんだから良いじゃない!)


 すると能天気な父親がとんでもない事を言い出した。姉の睡蓮の縁談が纏まりそうなので木蓮がへそを曲げているのだと勘違いしたようだ。


「なんだ、寂しいのか」

「なにがよ」

「睡蓮が嫁に行くから寂しいんだろう」

「子どもじゃあるまいし、変な事言わないでよ」


 そして両親は顔を見合わせて頷いた。木蓮が味噌汁に口を付けた瞬間、とんでもない言葉が転がり出た。


ぶっ!


「な、今、なんて言ったの!」

「おまえに縁談の話が来ている」

「ふはぁー!?」

「ゴルフの掛け声みたいだな。朝からご近所迷惑だぞ」


 懲りない父親はティディベアをもう一体、見繕って来たようだ。これには睡蓮も驚いた様でご飯茶碗の上で箸が止まっていた。


「お父さん、懲りないわね」

「なにがだ」

「私は振袖なんて着ないわよ」


 母親は笑顔を崩さない。


「木蓮の事をよくご存知な方だからいつもの服装で良いそうよ」

「ふはぁー!?」

「ご近所迷惑だぞ」


 木蓮の年齢と見合う両親が歓迎する結婚相手、思い当たる人物が一人だけ居る。


赦されない私たち あなたは私 私はあなた

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