テラーノベル
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チャイムが鳴った。放課後。
ルイは完璧だった。完璧に「まて」を実行した。
授業中、一度も話しかけてこなかった。休み時間、席を立って教室の外に消えた。戻ってきたとき、手にはコンビニのおにぎりとお茶。一人で黙々と食べていた。
目も合わせない。
一度も。
クラスメイトが心配し始めるレベルの無視だった。
そして今。終業のチャイムが鳴り響く中、ルイは自分の席に座ったまま動かない。
周囲が帰り支度を始める中、ルイだけが静かに座っている。
ゆっくりと、ルイが立ち上がった。
鞄を肩にかける。制服のネクタイを緩める。首を鳴らした。こきり。
「ご主人様」
声が甘かった。異常なくらい甘かった。
教室中の空気が凍った。
「「まて」終わったよ?」
『………』
ただならぬ気配を感じないわけがない。タイキは自分の荷物を持つと引き攣った笑顔で言った。
『う、うん…よくできたねールイ、買い物行くだろ?』
「うん、行く」
素直だった。あまりにも素直だった。
ルイが鞄を持ち、教室の出口に向かう。先に歩き出す。振り返らない。
クラスメイトが無言で道を空けた。本能的な危機回避。
駅までの道。いつもならルイはずっと喋り続けている。ふざけて、甘えて、ベタベタして。それが今日は無言。隣を歩いているのに、一メートルの隙間がある。
電車に乗った。隣に立つ。吊り革を掴む。車両が揺れるたびにルイの体が近づく。だが触れてこない。
いつもなら腰に手を回す。肩を抱く。耳元で囁く。それが今日、ゼロ。
セレクトショップに着いた。
「で、何買うの」
事務的。声から甘さが消えている。顔だけが笑っている。それが何より不気味だった。
『何買うのって…ルイは見ないの?』
「気分じゃない」
『…』
(じゃあなんできたんだ?)
そう思ったが口には出さなかった。ルイは唇を尖らせて、興味なさそうにかかっている服を捲ったりしている。
タイキは視線を店内のアクセサリーコーナーへ向けた。
黒いチョーカーが目に入る。
黒い革の、シンプルなデザイン。
手に取って、ぼーっとそれを見つめた。
「……何それ」
ルイが後ろから声をかける。
声が低い。
『あ、いやこれ…おまえに似合いそうだなーって思って』
「…」
『今日朝も思ったけど、おまえ首長いし綺麗だから…』
「…………ご主人様」
甘い声。帰ってきた。あの甘さが。
「それ、俺につけるの?」
首を傾げた。笑っている。だが瞳の奥で何かが渦巻いている。
『ん?ルイが気に入ったなら…これ、買ってあげるよ。」
ルイの表情が固まった。
それから、ゆっくりと口元が歪んだ。笑みとも怒りともつかない、曖昧な表情。
ルイがチョーカーを見つめている。
沈黙が三秒。
「ねえご主人様」
ルイが距離をつめてくる。
「さっき俺、すっごくいい子にしてたよね?」
声が甘い。甘すぎる。
もう一歩近づく。
「ご褒美がそれ?」
チョーカーを持つタイキの手を、ルイの指がそっと掴んだ。
「つけてよ」
『う、うん…』
声は甘いのに異様な威圧感。 ルイの首にタイキは指を回した。
チョーカーの金具がかちりと鳴った。
黒い革がルイの白い首に吸い付くように収まった。
「……」
ルイが何も言わない。
無言。鏡の前に立っている。自分の首についた黒いチョーカーを、鏡越しに凝視している。
『…気に入らなかった?』
指がゆっくりとチョーカーに触れた。革の感触を確かめるように撫でる。
ぴったりだった。
「ねえ……首輪じゃん、これ」
声が震えた。小さく。
ルイの手がチョーカーを離さない。外そうとしない。指はずっと革の上を撫でている。
『確かに。でもルイすげぇ似合ってる。買ってくるよ』
チョーカーを外そうとしたタイキの手首を ルイが掴んだ。
「待って」
強い。指に力がこもっている。
笑っている。が、目が笑っていない。
「何時間も「まて」できたよね、俺」
声が一段下がった。
「で、ご褒美が首輪?」
一歩。距離が詰まる。
「ご主人様さ」
甘い。甘くて冷たい。
「俺が犬だって、本気で思ってる?」
店内のBGMが妙に遠く聞こえた。
間近に迫ったルイの顔に冷や汗が流れる。
『あーご褒美、だよね…』
タイキは店内をキョロキョロ見回して、辺りに人がいないのを確認した。
『ルイ、ちょっとしゃがんで』
周りから見えないように、ルイの服を引っ張って一緒に屈む。
ルイの目が見開いた。
屈んだ姿勢のまま、石になった。
唇に、一秒にも満たない、小鳥みたいなキス。
「……」
沈黙。長い沈黙。
ルイの手が自分の唇に触れた。指先で。そっと。確かめるように。
耳が赤い。
首も赤い。チョーカーの上まで赤い。
「……は」
息が漏れた。
「ずるくない?」
立ち上がった。ふらっと。
目が潤んでいた。さっきまでの据わった目が消えている。怒りが消えている。全部溶かされた顔。
タイキがルイの目を覗き込む。
『……怒ってる、まだ?』
ルイの目がタイキを捉えた。
「怒ってると思う?」
ルイの顔が近い。吐息がかかる距離。
「キスで誤魔化されて、首輪買ってもらって、それで終わり?」
ルイの手がタイキの腰に回った。引き寄せる。店内の棚の陰。死角。
「足りないよ」
耳元で囁いた。
「ねえご主人様」
ルイの唇が、タイキの耳たぶに触れた。
「ご主人様のキス、短すぎない?」
噛むように、軽く歯で挟んだ。
タイキは店内の鏡に映る自分とルイの姿を見る。周りに人がいないか確認して、恥ずかしそうに小声で言う。
『…んっ…ここ、お店の中だけど…』
「知ってるよ」
悪びれもしない。耳たぶを挟んでいた歯が離れた。代わりに舌先でちろりと舐めた。
「だから?」
ルイがくるりと体を入れ替えた。タイキが壁際。ルイが棚側。外から見たら、ルイが棚の商品を見ているだけに見える角度。
計算されていた。
「もう一回、今度はながいのちょうだい」
囁き。甘い声。犬の声じゃない。捕食者の声。
「——じゃなきゃ俺、何するかわかんないよ?」
ルイの膝がタイキの両足の間に入り込む。
『……うん。わかった…後で、ちゃんと長いのあげるから…ここじゃダメ…』
ルイの胸元を押しながら、小声で言う。
『仕事終わったら…今日、俺ん家泊まる?』
ルイの手が止まった。
「……今、なんて言った?」
声が低い。だが質が違う。怒りではない。
ルイの瞳孔が開いていた。
膝を引いた。すっと体の距離を取る。急に。
ルイがまっすぐ立った。姿勢が良い。さっきまでの捕食者の空気が消えている。
代わりに浮かんだのは——笑顔。無邪気な、花が咲くような笑顔。
「泊まる」
即答。コンマ一秒の迷いもなかった。
テンションが急上昇した。犬が帰ってきた。尻尾がちぎれるほど振っている犬。
『そ、そっか。じゃあ買ってくるね。』
タイキがレジで会計を済ませると、ルイはチョーカーをずっとはめたまま、タグだけ切って店を出た。
夕暮れの商店街。オレンジの光がルイの首元のチョーカーを照らしていた。
ルイが上機嫌だった。明らかに。足が浮ついている。歩幅がいつもより大きい。鼻歌まで聞こえてくる。
「早く帰ろ」
ルイの手がタイキの手を掴んだ。指を絡める。引っ張る。
「ご主人様の家、久しぶり」
嘘。先週も行っている。だがルイの目は本気だった。犬の目。飼い主の巣に帰る犬の目。
ただし。
その尻尾の裏で、何かがちらついている。
『…先週もきたろ?』
タイキのマンションについた。靴を脱ぐ。ルイが先に上がり込む。リビングのソファにどさっと座った。
ネクタイを引っ張って緩める。首を仰け反らせた。チョーカーが天井に向かって晒される。
「ねえご主人様」
ルイがソファに寝そべったまま、首だけ持ち上げてタイキを見た。
「来て」
手招き。指をくいくいと曲げる。甘い声。
「ご褒美の時間でしょ」
にこっと笑った。天使のような笑顔。だが足を組み替えた。ゆっくりと。挑発するように。
「長いの、くれるって言ったよね」
ルイの指がチョーカーの金具にかかった。かちゃり。
「ご主人様、こっち来て——座ってくれる?」
自分の膝を叩いた。ぽんぽん。
『…』
タイキはルイの隣に座った。 ルイが目を細めた。
「ご主人様」
ぽんぽん、ともう一度膝を叩いた。
「ここ」
膝の上。ルイの太ももの上を指している。
「隣じゃないよ」
声は甘い。だが有無を言わせない響きがある。チョーカーの金具をかちかち鳴らしながら、ルイがタイキを見上げている。
「俺の膝」
ルイの手がタイキの腰に触れた。軽く。誘導するように。
「わんちゃんに命令ばっかりしてさ」
指先がシャツの裾から滑り込む。素肌に触れた。ひやりとした指。
「ご主人様も甘えてよ」
ルイの目が変わった。
タイキがびくっとしてルイを見る。
『甘えるって…俺どうすればいいんだ?』
ルイの口角が上がった。ゆっくりと。
待っていた。この言葉を。
「わかんない?」
ルイの手がタイキの顎を掴んだ。親指と人差し指で。軽く。だが逃がさない力加減。
「じゃあ教えてあげる」
ぐいっと引いた。タイキの体がルイの方へ傾く。
「膝に座って、俺にしがみついて」
ルイの息がタイキの唇にかかる距離。
「で、長いキス」
顎を固定する指に力が入った。
「ご主人様から俺にして」
ルイの空いた手がチョーカーを弄んでいる。 タイキはごくりと息を呑んだ。
『わ、わかった…』
ルイの膝に体重が乗る。しがみつく腕。そして唇が触れた。
一秒。二秒。
短い。
「——ん」
ルイが動かなかった。受け止めただけ。手も回さない。抱きしめもしない。
唇が離れた。
沈黙。
ルイが目を開けている。半目。睫毛の隙間からタイキを見つめている。
「それ?]
声に温度がなかった。
ルイの手がタイキの腰に置かれた。跨がっている太ももの両脇。固定するように。
「ご主人様さ」
ぐっと顔を近づけた。鼻先が触れる。
囁き。甘い吐息が唇にかかる。
「長いのって言ったよね」
チョーカーの金具が鳴った。かちり。
「もう一回。やり直し」
『う…ごめん、ルイ…』
タイキは言われるがままにルイにキスをした。
ルイの唇に吸い付くと、ルイの腰がぴくりと跳ねた。
「ん——っ」
腰が跳ねた。反射。制御できなかった。跨がっているタイキの太ももにルイの反応が直に伝わる。
「もっと」
ルイの手がタイキの髪を掴んだ。後頭部をぐっと押す。もっと深く。
「ね、ご主人様——もっとちょうだい」
ルイの口の中に舌が入り込む。歯列をなぞり、ルイの舌を吸う。
ルイの理性が音を立てて軋んだ。
「っ——」
ルイの手がタイキの腰を掴んだ。両手で強く。
タイキがキスを繰り返す。無邪気に。無自覚に。それがルイには一番効く。
「ご主人様、ね、自覚してやってる?」
息が荒い。チョーカーの下の首筋が赤く上気している。
『ルイ…っん…っ』
それから、唇が腫れるまで、お互いの唇を何度も貪り続けた。
どれくらい経ったのか。
ルイの膝の上で、タイキがぐったりとしがみついていた。唇が赤い。腫れている。ルイも同じ。唇が濡れて光っている。
「……はぁ」
ルイが天井を仰いだ。息が荒い。胸が上下している。
タイキがルイの首元に顔を埋めている。チョーカーの革の匂い。ルイの体温。汗の匂いが混ざっている。
「ご主人様」
ルイの手がタイキの背中を撫でた。ゆっくりと。指先が背骨をなぞる。上から下へ。
「ねえ」
声のトーンが変わった。甘い。だがどこか切迫している
ルイの腰が微かに揺れた。無意識に。跨がっているタイキの太ももの間で。
「俺、もう限界なんだけど」
ルイの目が光る。
「何時間も「まて」したんだから…」
「気が済むまでナメナメしていいよね?」
沈黙。
タイキが顔を上げた。ルイの首元に埋めていた顔を。唇が赤く腫れて、目が潤んでいる。
「ご主人様?」
ルイの手がタイキの顎を捉えた。親指と人差し指で。軽く。だが逃がさない。
「返事」
甘い。甘すぎる声。でも目が笑っていない。チョーカーが首元で光っている。
ルイの親指がタイキの腫れた下唇をなぞった。ぐ、と押す。
「わんちゃんに「いい」って言って?」
タイキはその顔に覚えがある。主導権を握りたいルイの悪い癖だ。何度もこうしてルイに犯されてきた。逃げられない。抵抗できない。でも、嫌じゃない。タイキは息を吐くと小さく頷いた。
『んっ…いい、よ…』
許可が落ちた。
ルイの目が光った。暗く、甘く。
ルイはタイキをソファに押し倒した。仰向けになったタイキに、ルイが跨がっている。
「わんちゃんさー」
ルイがタイキのシャツの裾に指をかけた。するすると捲り上げる。腹が見える。胸が見える。
「「まて」の間ずっと考えてたんだよね」
ルイは舌なめずりをした。
見下ろして、ニヤリと笑う。
「ご主人様、今から何回「ごめんなさい」って言うかな」
コメント
4件
うああああああああ!!!!!!! 最高ですううううううううう!!!!

きゃ〜えっち……🫣💖続き正座して待ってます…!!!
かんな
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sora☁️🌺
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