帆乃が帰った後、さっきの光景が頭の中で何度も繰り返される。
彼女があんなふうに涙を流しているのを見て、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。震える肩、浅く揺れる息遣い、伏せたままの潤んだ瞳。そのすべてが痛いほど心に響いて、気づいたら体が勝手に動き、抱きしめていた。
思わず自分の顔を手で覆う。
さっきは平然を装って顔に出ないようにしていたけど、心臓がまだバクバクとうるさい。
帆乃が腕の中にいたときの温もりが、消えずに残っている。彼女の柔らかくて、華奢な体。俺にすがるように寄り添ってきたあの瞬間が、まるで夢みたいで、忘れられない。
その時、俺の中の何かが弾けるような感覚があった。
「俺、帆乃さんのことを…」
言葉にしようとすると、喉に詰まる。
ずっと友達だと思っていた。俺にとって特別な存在だけど、それは「大切な人」という意味のはずだった。
でも、さっきの自分の行動はどうだ?
ドキドキが止まらない。視線をそらそうとしても、脳裏に焼き付いた帆乃の表情が離れない。思わず手を握りしめる。
帆乃の泣き顔が愛しくて、守りたいと思った。
これはそういうことなのか…
俺はもう一度、天井を仰ぐ。
「…やばいな」
この感情が恋愛で言う”好き”ということなら、これを伝えたら彼女はどう思うだろう。
それに、彼女は他に好きな人がいるのだろうか…
もしそうだったら?
胸の奥が、妙にざわつく。考えたくないのに、最悪の想像ばかりが膨らんでいく。
そんなことを考え出したら頭がパンクしそうだった。
家に帰り、部屋のドアを閉めた瞬間、どっと力が抜けた。
「はぁ〜…」
自分の頬に手を当てると、まだほんのり熱を持っているのがわかる。
不登校のこと話せたのは良かった。
長い間、自分の中だけに閉じ込めていたことを言葉にした瞬間、少しだけ肩の荷が下りた。
それよりも如月くんに抱きしめられた時の温もりが、まだ消えていない気がする。
「男の子に抱きしめられたの、初めて…」
こんなに近くで、男の子の体温を感じたことなんてない。広い背中、包み込むような腕の強さ——
思い出すだけで、胸がざわつく。
ベッドに寝転がり、心臓の音を聞く。
落ち着こうと深呼吸するけど、うまくできない。
「なんなの…この気持ち…」
”ただの友達”
そう思っていたはずなのに。
目を閉じると、如月くんの優しい声と、そっと包み込んでくれた腕の感触が蘇る。
「これって…恋…?」
まさかね。
まだ味わったことのない感情に戸惑った。
周りの子たちは「初恋は保育園の頃で、○○くんだった」なんて当たり前のように話していたけど、私にはそんな経験がない。焦ることもなかったし、特に気にしたこともなかった。
それに、恋をすると相手が他の人を見ると嫉妬するとか、相手のことばかり考えたりするってよく言うけど、そんなの私にとったら友達にもそう思う。
じゃあ、この気持ちは何?
ただの友達への気持ちとどう違うの?
恋がよく分からないよ…!!
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