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日差しがやわらかく差し込む教室。
澪は窓際の席で、ノートにペンを走らせていた。
(⋯⋯やっぱり、授業についていくの大変⋯⋯)
数週間のブランクは思ったよりも大きくて、黒板の文字が少し遠く感じる。
「澪ちゃん、ノート貸してくれる?」
「うん、いいよ」
クラスメイトとの会話も、どこかぎこちない。
(⋯⋯みんな優しいけど、私だけ、少し違う場所にいるみたい⋯⋯)
その頃、屋敷では──
澪が縁側に座り、庭を見つめていた。
(⋯⋯澪さんが学校に戻ってから、帰りが少しずつ遅くなっている)
(⋯⋯当然のことだ。でも⋯⋯)
胸の奥に、小さなざわめきが生まれる。
(私は⋯⋯”人間の時間”にはいない)
(澪さんが、その世界に戻っていくのでは⋯⋯)
「⋯⋯恋人なら、相手のことを信じるべき⋯⋯じゃないのか⋯⋯」
朧は、重い溜息をつく。
(全然駄目だな⋯⋯俺⋯⋯)
「⋯⋯澪さんの前では──」
朧はその後も、澪が帰って来る30分程前まで独り言を呟いていた。
その夜。澪は少し疲れた顔で帰ってきた。
「ただいま⋯⋯」
「おかえりなさい、澪さん」
朧はいつも通り微笑んでいたけれど、その声はどこか遠かった。
「⋯⋯ごめんなさい、遅くなって」
「いえ。勉学は大事なことですから⋯⋯」
「⋯⋯朧さん?」
「⋯⋯何でもありません。夕食の支度をしましょう」
澪は朧の背中を見つめながら、胸がざわつくのを感じた。
(⋯⋯朧さん、何かを隠してる⋯⋯?)
夜。ふたりは並んで布団に入り、静かに月を見上げていた。
「⋯⋯朧さん」
「はい」
澪は、少し早口になりながらも言葉にする。
「⋯⋯私、ちゃんとここにいますよ⋯⋯。ちゃんと、帰ってきてますよ⋯⋯」
朧は少しだけ目を伏せた。
「⋯⋯分かっています。でも⋯⋯怖いのです」
「怖い⋯⋯?」
「あなたが⋯⋯私の知らない世界で、私の知らない誰かと笑っている⋯⋯。
そんなことを⋯⋯想像すると、胸が苦しくなる⋯⋯のです」
澪はそっと朧の手を握った。
「私が笑っていられるのは⋯⋯朧さんがいてくれるからです⋯⋯。
朧さんがいてくれるから⋯⋯私は毎日楽しくて⋯⋯笑えるんです⋯⋯」
「⋯⋯澪さん⋯⋯」
「私の心は、ちゃんとここにあります⋯⋯。だから⋯⋯信じてください」
朧は澪の手を強く握り返し、そっと額を寄せた。
「⋯⋯信じています。あなたの言葉を」
ふたりの間に、静かな温もりが流れた。