テラーノベル
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「これは僕の護身用の拳銃だ。そっちの世界のものと、ほとんど仕組みは同じはずだよ」
そんな事を言われても、僕は自分の世界の銃にも詳しくない。
ゴクリと唾を飲み込んで、僕はまじまじと銃を見つめた。
色は黒。
グリップ部分は木製だ。
受け取りあぐねている僕に、磯田さんが言った。
「なあに、遠慮はいらないよ。この銃自体は、僕の世界では比較的簡単に手に入るものだ。ただし——こいつには、妻が何重にも魔術を施してくれている」
「魔術?」
ああ、と頷くと、磯田さんは慣れた手つきで、側面の金具を引いてシリンダー(という名称だった気がする、たぶん)を開けた。
「装弾数は、全部で六発」
全ての穴に、既に弾が込められていた。
それら一発一発が、ぼんやりと赤く発光している。
「この弾丸には、見ての通り強力な魔力が込められていてね。物質だけじゃなく、悪霊のような実体のない存在にも効果がある。ところで——君は実際に銃を撃ったことはあるかい?」
「いや、まさか!」
慌ててそう答えると、
「なるほど。今のところ、僕の故郷はまだ平和みたいだね」
磯田さんは笑いながら、シリンダーを元に戻した。
「まあ、心配はいらないよ。弾丸だけでなく、この銃そのものにも魔法がかかっている。心の中で目標を決めれば、あとは体が勝手に動いて狙いを定めてくれるはずさ」
「本当ですか?」
そういえば廃ビルで使用した呪符も、使おうと思った瞬間、すらすらと呪文が口をついて出た。
感心する僕だったが、ただし——と、真顔になって磯田さんが続ける。
「魔法はあくまで、使用者の中に眠っている才能を一時的に引き出すだけだ。数十メートル先の的のど真ん中を百発百中で撃ち抜けるような、射撃の名人にしてくれるわけじゃない。拳銃ってのは、実のところ近距離用の武器なんだ。数メートルも離れてしまえば、動き回る相手にはなかなか当たらない。その点は覚えておいてね」
「……わかりました」
僕は頷くと、掌の汗をズボンで拭き、磯田さんから拳銃を受け取った。
小学生の頃に遊んだプラスチック製の玩具とは異なり、ずっしりとした重みを感じる。
人殺しの道具。
ふと、そんな言葉が頭をよぎった。
そうだ——僕らはこれから、あの恐ろしい魔女と殺し合いをするのだ。
銃の重みは、僕に改めてその事実を突きつけた。
「ああ、そうそう。装填されてるその六発を使い切ると、銃にかけられた魔法は解けるから。もし新しい弾を入れても、もう魔力による補助は望めないよ。それと——出血大サービスで、こいつも付けよう」
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磯田さんは再びリュックを漁り、茶色い革のホルスターを取り出した。
「拳銃を入れるホルスターだ。ベルトに通して使うといい」
「ありがとうございます、何から何まで……」
「いやいや、本当はもっと力になってあげられたらいいんだけれど——残念ながら、〝夜〟が始まったら、僕は帰らなきゃならない。そういう契約になってるんだ。次に境の世界に来られるのが、いつになるかもわからない」
「大丈夫です。とりあえず無事に由宇を助け出したら、誰かしら、この市場の人を頼ってみます」
それがいい、と頷き、磯田さんは僕達の顔をもう一度見回した。
「僕にしてあげられるのはここまでだ。幸運を祈ってるよ」
磯田さんと別れた僕らは、再び市場の人込みの中を歩いていた。
先頭を歩くナギに、ねえ、と僕は声をかけた。
「これ、どうしよう?」
これというのは勿論、手に持った拳銃とホルスターのことだ。
ナギは足を止めて僕を振り返ると、
「そいつはお前が使ってくれ」
と言った。
「魔女を倒すのに、お前の力は不可欠だが——正直な話、戦闘面においては、お前は心許ない存在だった。その銃があれば最低限、自分の身は自分で守れるはずだ」
そんなナギの言葉に、
「その点は同感だな。いざとなったら俺も、修を守ってやる余裕はないかもしれない」
と蒼梧も頷き、残ったオーマも、
「戦力的に心許ないのは私も同じですが、猫の手じゃあ引き金を引けませんしねえ——ま、私は逃げ足には自信があるんで、やはりそれは修さんが持っているべきかと」
と、二人に同意を示した。
「わかったよ……ホルスター付けるから、一旦これ持ってて」
僕は拳銃を蒼梧に手渡すと、溜息をつきつつ通行スペースの端へと移動した。
二人と一匹も後に続く。
自分でいいのだろうかと思う反面、確かにこのメンバーで装備するなら自分だろうな、という思いもある。
不安だが、ここはアリーシャさんの魔法を信じるしかない。
そんなことを考えながらベルトにホルスターを通していると、ナギがポツリと呟いた。
「金が足りなかった時は私も焦ったが——今なら、ラジオの思惑がわかる気がする」
「どういうことです?」
首を捻るオーマに、ナギが答える。
「ラジオは私にこう言った。『手持ちの金貨をイソダという男に見せ、透明になる薬を受け取れ』と。そして、お告げに従った結果——私達は〝新月の秘薬〟のみならず、強力な武器まで手に入れることができた」
「全てラジオの計算通り、ってことか?」
僕に銃を返しながら、蒼梧が口を挟んだ。
「だったら、最初からそう伝えればいいだろ?『オーマが持ってるロボットを渡せ』って」
いいや、と首を横に振り、ナギが続ける。
「単にあの玩具を見せたところで、イソダは拳銃どころか、薬さえ渡してくれなかっただろう。だがモリヤオサムの説得によって、イソダの心は揺れ動いていた。それは、説得の言葉が心の底から発せられたものだったからだ。あらかじめ用意された台詞では、とてもああはいかなかっただろう。つまり——私達が〝薬と銃の両方を手に入れる分岐〟に辿り着くためには、さっきまでの一連の流れが必要だった、という訳だ」
コメント
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うわ、このエピソード、重みがすごい……! 拳銃の描写が細かくて、特に「人♡♡♡の道具」って主人公が心の中で呟くところ、ぞっとした。もらった武器なのに、現実を突きつけられる感じがリアルだった。あとラジオの思惑がここで繋がるの、めっちゃ納得。全部計算ずくの流れだったんだな……。