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第18話:レオの仮面
黄昏時の高層ビルの屋上。
都市の喧騒が遠く霞む中、夕日が差し込む空の下――ユイナは、そこにいた。
 向かいの縁に立っていたのは、レオ。
 少年らしい輪郭に、短い茶髪。
黒のパーカーに白のフード、ラフなジーンズ姿。
感情の波を読む《共鳴型マスク》の使い手だった。
 彼のマスクは目元を隠すシンプルな半面型。
そのマスクが、風に揺れていた。
 「なぁ、ユイナ。今の君って、誰の“願い”を叶えたいの?」
 不意にそう聞かれて、ユイナは言葉に詰まった。
 「私は……私自身の……でも、アメトの分も背負ってるし、ヴァロの……」
 「そうやって、いろんな顔を背負ってると、さ」
 レオはマスクに指をかけた。
 「――本当の“自分の願い”が、埋もれるんだよ」
 そして、ゆっくりとマスクを外した。
 ユイナは、目を見開いた。
 レオの素顔は、優しくて、でもどこか――泣きそうだった。
 「僕は今日で、“仮面を降りる”。」
 風が吹き、彼の手から仮面がふわりと空中に浮かぶ。
仮面の裏側には、《感情感知装置》が、静かに破損していた。
 「この仮面を使ってるとね。
“他人の感情”ばっかり見えて、自分が何を思ってるか、わからなくなる」
 レオは数歩、ユイナに近づいた。
 「君が“願いを叶えたい”って思うなら――
“誰かのため”とか“世界のため”とかじゃなくて、
ちゃんと“自分の言葉”で言いなよ。仮面の中じゃなくて、“君の声”で」
 その言葉は、やさしくて、切実だった。
 そのとき、警告音が鳴る。
 《レッドピースの反応:近距離接近中》
 ビルの裏から黒い霧が立ち上がる。
裏回収者の一団が接近してくるのを、レオは見ても動じない。
 「そいつらは僕が引き受ける。……ユイナは進んで」
 「待って、それじゃ……!」
 「いいんだ。僕は、“自分のため”にここに残るから」
 そしてレオは、仮面なしで戦場に飛び込んだ。
 身軽な身体で敵の懐に飛び込み、素手で相手のマスクの装着角を外す。
仮面を失ったぶん、彼の動きは“読み合い”に特化していた。
 “感じ取る”のではなく、“信じる”ことで動く――仮面を超えた戦い。
 ユイナはしばらくその光景を見ていたが、やがて背を向けた。
 夕日が、彼女のマントと髪を染めていた。
 (……私の、願いは……)
 誰かの代わりじゃない。
世界の正義でもない。
じゃあ、何を願いたい?
 胸の奥で、その問いがはっきりと息をしはじめていた。