「あのさー。」
アルレイドが口を開いた。
「私ら、金が底を尽きたから歩いてるんだよな。」
「そうだけど、何か?」
あの日、老紳士に逃げられてから、一週間が経っていた。つい二日前までは列車で移動していたが、二人の手持ちのお金が尽きてしまったのだ。
「地図、見間違ってないか?」
アルレイドはアリシールの持っている地図を見ながら言った。
「見間違ってないよ!アルレイドじゃあるまいし!」
アリシールは全力で否定した。
「ホントか?北はこっちじゃないだろ。」
「違う!北はこっち!」
二人は地図を見ながら、ああだこうだ言い出した。しかし、どちらも指差す方向は違う。二人とも、方向感覚が全く無かった。いわゆる方向音痴だ。
「アリシール、お前あと1時間で着くって言っただろ!」
二日前にアリシールが言ったことだ。
「そうだけど、山越えると思わなかったの!」
二人が旅するホワイトテッドは、それほど大きくはない島国だが、大きな山が多く、迂回するか越えるかしかない。今回は山を越える方を選んだのだが、それが凶と出たのだ。
「これじゃ、死んもでアートポートに行けないな。」
アルレイドが言ったのは、次に二人が目指している街のことだ。
「ここはヴェリス・ヴィレッジの山だから、ヴェリス・ヴィレッジ市街に行った方が早いよ。」
「えーっ!またヴェリス・ヴィレッジかよ!」
二人が一週間前に出たところは、サウスデールとの境にあるヴェリス・ヴィレッジの町で、アリシールが行こうとしている町はそこからずいぶん離れてはいるが、アルレイドの中では、同じところにまた行くような感覚らしい。
「ヴェリス・ヴィレッジが嫌なら、アズベールに帰る?ここからなら十分引き返せるよ?」
「それは嫌だっ!」
アルレイドは事あるごとにアズベールに帰ることを考えていたが、いつかアリシールに問われた時、あんな町には帰らないと言っていた。実際、二人ともアズベールには帰りたくなかった。
「じゃあ、ヴェリス・ヴィレッジに泊まろう。」
アルレイドはあまり乗り気ではなかったが、アリシールは気にせず進み出した。
「ちょっと待てよ!そっちは南だ!諦めて山を下りるなら、東に進まないといけないんじゃないのか?」
アルレイドが呼び止めた。
「こっちが東!アルレイドが指してるのが南!」
少し振り返って、アリシールは叫んだ。
これでは、いつまで経っても山を下りられそうにない。
「イメージ!」
しばらく歩いて、急にアルレイドが唱えた。
「これで解決じゃん!」
そう言って、アリシールにコンパスを差し出した。
「やっと着いた…」
「結局一日かかったじゃないか…誰だよ…東だと思い込んで進み続けた奴は…」
やっとのことで町に着いた二人は、その場に座り込んだ。二人はコンパスの見方も、あまりわからなかったのだ。
「君たち、大丈夫かい?」
その辺を通りかかった男性が、二人に声をかけた。
「多分大丈夫だ。ありがとよ。」
アルレイドがそう答えてしまったので、男性は安心してその場を離れようとした。
「待ってください、ここはどこですか?」
アリシールは男性を呼び止めた。
「どこって、ここはアートポートだよ…?」
「…着いてた…着いてたよアルレイド!アートポートに!結果オーライ!万々歳!イェーイ!」
アリシールがピョンピョン跳ねて大げさに喜んだので、関わらない方がいいと思ったのか、男性は一瞬でどこかに消えていった。
「お前さー…喜び過ぎじゃねーか?」
アルレイドも流石に引いている。
「だって!ちゃんと目的地に着いたの初めてだもん!」
アリシールの勘はアルレイドよりも鈍く、目指した場所に着いたことはほとんど無かった。
「アズベールの町内だったらどうだ?アリシールも迷ったこと無いだろ?」
しかし、故郷の町以外での話だ。目をつぶってもどこに何があるのかがわかるぐらい歩いた町では、迷ったことは無かった。
「てゆーか、結局目指した場所に着いてないし、何とも言えねーな。」
「…」
アルレイドは、人を地に落とすような言い方しかできないのだろうか。
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