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──その日は、巨大コンベンション施設で、大規模な雑貨の展示会が開催される日だった。
展示会では、新しく売り出される商品の情報を仕入れたり、新規の顧客の開拓などをはかるため、何人かのグループに分かれて、会社から皆が出向くことになっていた。
私は、上司である矢代チーフと行くことが決まっていて、訪れる前からなんだかそわそわとしていた。
展示会を見て回るのは、あくまで仕事の一環なのだから、浮ついた気持ちなんかでいたらいけないことぐらいはわかり切っていた。
だけど、チーフと二人になるのは、あの打ち合わせの日以来なこともあって、やっぱりちょっとドキドキしてしまう気持ちを隠すことは出来なかった。
矢代チーフと共に展示会場ヘ入ると、二人で並んで歩いているというだけで、あっという間に鼓動が早まってきた。
今日もシルバーフレームのメガネに、グレーのスーツ姿がピシッと決まっててカッコいいなぁと、傍らのチーフの横顔をチラチラと盗み見る。
「……川嶋さん?」
「は、はいっ」
そんなことを考えながら展示ブースを見やっていた私は、チーフの声にびくっと肩を震わせた。
「どうかしたか?」
「い、いえ、なんにも!」
「そうなのか? 何か目に留まるようなものはあっただろうか?」
「えーっと……」と、考え込む。頭ではチーフのことを思っていたけれど、当のチーフにがっかりされたくはない一心で、横顔をチラ見はしつつも、しっかりとブース内のチェックはしていた。